会いたかった友達と、絶対会いたくなかった奴がいっぺんに来た。
こんなとき、人は頭を抱えるしかないものだ。


              狐日和
              
―4話・サンドインパクト―


ここは木の葉の里に続く街道の終点。つまり、里の門の前の近くである。
行きかう人の中に、我愛羅達バキ班がいた。
「やっと着いたな。ところで我愛羅、大丈夫か?」
「あぁ……やっと収まってきた。」
バキが我愛羅を気遣う。
幸い、声をかけられた我愛羅の表情は穏やかだった。
「ったく、ヒヤヒヤさせないで欲しいじゃん。」
「まぁ、そういうなカンクロウ。収まったんならそれでいいだろう?」
「このまま収まっていてくれれば、いいんだがな……。」
テマリはそういうが、我愛羅は逆に顔を曇らせる。
実は、彼は先ほどまでずっと頭痛がしていたのだ。
木の葉の里に近づけば近づくほど、感覚は短くなり痛みが増していた。
原因は守鶴だ。
我愛羅の中に彼が封印されているため、その精神状態はダイレクトに我愛羅に影響を及ぼす。
正確には八つ当たりというべきものだが、妖魔だけあって全く性格が悪い。
夜な夜な悪夢ばかり見せるわ、体を乗っ取ろうと目論むわ、好き放題やってくれる。
「何が四代目風影だ……あの馬鹿影め。呪ってやる。」
「いや、もう死んでるじゃん……。
つーか我愛羅、アレでも親父だったんだし馬鹿影はないじゃん!」
「あいつが睡眠妨害してこなければ、こんなこと思うものか。」
カンクロウにたしなめられるが、我愛羅はそれを無視して恨めしそうにつぶやいた。
木の葉の里まで早くて3日。普通に行って4,5日。
今回は1週間という破格の長さの休暇と、その後は武者修行という名目での滞在となる。
ちなみにバキだけは休暇が終わった後に別口の任務があるものの、事務的な要素が濃く、戦闘を伴うようなものではない。
重役達は我愛羅を長期間里外に出すことに渋ったが、そこは無理やり押し切った。
いや、自動的に押し切ることができた。
何がいけなかったのか、我愛羅が本人の意思を無視して完全体に変身しかけたせいだが。
オートガードならぬオート脅迫である。訳はともかく、かなりいらないサービスだ。
「とにかく、宿を取ったらその後は自由だし。
余計な事は忘れて、ナルトと遊んでくればいいじゃないか。」
「ああ、もちろんそのつもりだ。」
門で通行許可証を見せ、里に入った4人は早速宿を取った。
その後自由行動になった我愛羅は、早速ナルトを探しに向かった。


「考えてみれば……あいつの家がどの辺りかも知らないんだった。」
手紙に住所を書くのは、単に調べればそれですんだのだ。
しかし住所がわかっても土地勘がないので、その住所が里のどの辺りかはさっぱりわからない。
うかつだったと思いながら、だが見ず知らずの他人に聞く気も起きず、我愛羅はぶらぶらと通りを歩いていた。
とりあえず案内所で聞こうかと思っていた矢先に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「なー狐炎〜、我愛羅はうちの場所わかると思うー?」
「ふん……今頃、迷っておるのがオチだろう。」
(あれは……!)
ナルトと、その隣に居る長身の男、つまり狐炎の姿が我愛羅の目に入る。
我愛羅は当然狐炎と面識がないため、彼がなぜナルトと親しげなのかわからない。
だが、とりあえずナルトの姿だけは間違いなかった。
とりあえずこれで彼の家にはたどり着けそうだ。
ほっと一息つき、ナルトを呼ぶ。
「ナル――。」
「狐炎〜〜!!
250年前に貸した常緑漫遊覧、いい加減返しやがれーーーー!!!!」

が、ナルトを呼び止めようと我愛羅が声を発しかけた瞬間、それをかき消す大音量の罵声が通りに響く。
そして、それと同時に発生した一陣の風の刃が、
聴覚を破壊しそうなソニックブームを発してナルト達の方に飛んでいった。
「風防!」
危ないと思ったその刹那、狐炎が風の方向に手をかざす。
薄い緑を帯びた結界が生じ、風を弾いてかき消した。ナルトも狐炎も傷ひとつないが、見たこともない術だ。
「な、今の何?!あ、我愛羅!」
「ナルト、大丈夫か?!」
周りは大混乱に陥る中、我愛羅はあわててナルトに駆け寄る。
「う、うん。ところで、今の……。」
我愛羅とナルトが風の刃が飛んでいた方を見ると、そこには見慣れない若い男が立っていた。
ところどころに青がメッシュ状に混じる砂色の髪と、白目が黒い金の目。
左半分をばっさり切り落としたような大胆な着物と、
むき出しの左腕と顔にある、青い刺青のような模様が印象的だ。
その独特の容貌は、通りでいきなり術を使う非常識さとあいまって周り中の注目を集めていた。
「な……誰だ?」
あっけに取られたまま、我愛羅が間抜けな声でそれだけつぶやく。
ナルトも男をあっけにとられて見ていたが、狐炎だけは何故か怒った様子でにらみつける。
「……貴様、よくもやってくれたな。」
「は、今のなんてほんの挨拶程度だぜ。んな怒るところじゃねぇだろ?」
心外だと金の目の男は狐炎を見返す。
狐炎に睨まれて全く動じないとは、どういう神経だろうか。
ナルトはそう思って色々な意味であせった。
しかし狐炎がナルトを気にするわけも無く、相変わらず怒気のこもった眼差しで男を睨むだけだ。
「空破斬など、この際どうでもいい。
それより貴様、よくもこんなところでそんな年数を……!!」
「へ?あ、ひゃーっはっはっは、やっちまった〜♪」
指摘されてやっと気づいたかと思えば、男はあっけらかんと大声で笑い飛ばす始末。
これにはナルトも我愛羅も開いた口がふさがらない。
「笑い事か、この大うつけ者め。いいから貴様もさっさと協力しろ!」
「へいへい……めんどくせぇな。殺っちまえばいいだろー?」
「騒ぎを起こすつもりはない。無駄口ならば後で叩け……この粗忽者が!」
狐炎は心底嫌そうにはき捨てると、すぐに詠唱に集中し始めた。
男もほぼ同時に詠唱を開始する。
「真(まこと)の記憶を捨て、偽りを真実と信じて生きるがいい。妖術・記憶違(たが)え!」
「汝、安息なる忘却の海にその想いを流せ。妖術・忘却の法!」
2人が発動させた妖術により、それぞれ色が違う淡い光の帯が何本も現れる。
光の帯は通りに居た人々達の上を滑るように流れていき、その記憶を消し去り、あるいは書き換えていった。
あっという間のことで、通りの混乱も嘘のように収まる。
「え、今の何だったんだってばよ??」
ナルトも我愛羅も、状況が分からずおろおろする。
今の術で記憶を操作したのだろうか。
「説明は後だ。いったん家に戻るぞ。」
心なしかまだ怒っている様子の狐炎は、ナルトを引きずるように足早に家に向かう。
そしてその後ろを、金の目の男も我愛羅を引きずってついていった。


―ナルトの家―
帰ってきて早々、狐炎は部屋の壁に手を当てて何かを確かめると、ふうっと息をついた。
「さて……結界も張ってあるし、もう良かろう。」
「いいから、本返せよてめぇ。」
それしか頭にないらしく、金の目の男は再び催促する。
あれだけのことをやらかしておきながら、かなりいい根性だ。
「本は緋王郷だ。後で部下に持ってこさせるから、それまで待て。
それよりも貴様、よくもあそこで派手な真似をしてくれたな……!」
「うっせぇな!体が動いちまったんだからしゃあねぇだろ。」
狐炎が先程のことを指摘すると、男は逆に食って掛かる。
すると狐炎は、わざとらしく大きなため息をついてこういった。
「全然直らぬな、その悪癖は。
行動前に5秒考えろ、短慮軽率の阿呆狸。」
「大きなお世話なんだよ、こぉんの小舅クソ狐!」
傍で聞いていても低レベルな、
いや、そもそも高レベルの喧嘩があるのかどうかは謎だが、
話が進まなくなりそうなのでナルトは恐る恐る口を挟む。
「ケンカしてるとこ悪いけどさ……。そいつ、もしかして……ねぇ?」
出来れば当たってほしくはない予想。
当たらないでくれと願っても、現実は南極の風よりも冷たかった。
「オレ様は砂の守鶴様だが、そいつがどうかしたか〜?」
『やっぱりーーーー!!!』
神はどうやら2人を見捨てていたらしい。
そう知ったナルトと我愛羅が、頭を抱えて異口同音に絶叫した。
その特徴的な目といい、乱暴さといい、技の無茶苦茶さといい、
どこをとっても連想するのはただ一人だとは思っていた。
極めつけが、250年前というありえない単語だ。
ナルトに限って言えば、狐炎とのやり取りの様子から想像がついた。
どう見ても対等な関係としか思えなかったのである。
「何てことだ……夜な夜な人の睡眠妨害をするだけでは飽き足らず、
とうとう俺の日常にまで……うぅ……。」
この世の不幸を全部磁石で吸い寄せてしまったような顔をして、我愛羅はひざをついてがっくりとうなだれる。
ちーん、という弔いの音まで聞こえてきそうだ。
「我愛羅、しっかりするってばよ!
ほら、そういう目にあってるのお前だけじゃないし……。」
「まさか……お前もか?」
ナルトの最後の言葉が引っかかり、我愛羅がはっとした表情で見返してくる。
「うん。あいつ見た目あんなだけど、正体は俺の中に封印されてる九尾なんだってばよ。」
「何?!そんなこと、俺に言ってよかったのか?」
そうそう人に話せることじゃないだろうと暗に我愛羅が言うが、
ナルトは微妙にあきらめきったような笑顔でこういった。
目がどこか遠いところを見ているようだ。
「なんていうか……ほら、お互い化け物に困ってるし。日常侵食されちゃったし。」
「確かに、似たような立場だな……。」
全てを悟った我愛羅は、ナルトに深く同情する。
具体的にどんな日常を送る羽目になっているかはよくわからないが、このナルトの表情を見て大体わかった。
「おいコラ、まゆなしパンダに金ドリアン。
黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって。ザコ共の分際で、な〜に偉そうにほざいてやがる。
しみったれてホモってんじゃねーよ。」
そしてその同病相哀れむ湿っぽいムードを、ものすごく乱暴に守鶴は破壊する。
口でも行動でも、破壊魔な事に変わりは無い。
「ま、まゆなし……パンダ?!」
「え、金ドリアンっておれのこと?!
ギャー、いきなり変なあだなつけられたってばよーー!!」
口が悪いキバにも言われたことないのにと、ナルトはショックを受ける。
化け物呼ばわりは昔腐るほどやられたが、2人ともこういう珍妙かつ情けないネーミングは初めてだ。
「相変わらずだな……お前のその言い草は。」
そしてこういうあだ名のセンスは昔かららしく、
やると思ったというように狐炎があきれた視線をよこす。
「ヒャーハッハッハ〜!いいじゃねぇか、わかりやすくて。」
「ヒョウタンと金ウニでもありだとは思うがな。」
「お前までそういうこと言うなってばよー!」
なんだかんだ言って、そういう方では狐炎をちょっと信じているらしい。
裏切られたという叫びが見え見えだ。
「どちらにしろ、言われたくはないな……。」
げんなりとした顔で我愛羅がぼそっとつぶやく。精神的にどっと疲れたようだ。
ともかく妙なあだ名の話からは離れようと、我愛羅はずっと聞きたかったことを聞くことにした。
「で、何で外に出てきたんだ?
ついでに、何であの時俺の意思を無視して完全体になろうとした?手短に答えてくれ。」
まるで取り調べのような尊大な聞き方だが、
声が疲れているせいか、何となく情けない雰囲気が漂う。
「オメーが金ドリアン宛の手紙書いてた頃、火の国って言葉が引っかかってよ。
そういやあの金ドリアン、腹ん中に狐炎がいる気配したっけなー。
あ、そういやあいつに常緑漫遊覧貸しっぱだった!って具合に、思い出したんだよ。」
「それだけ?たったそれだけだったのか?
じゃあ、本が返ってきたら俺の中に戻るのか?」
せめてすぐに戻ってくれればと、我愛羅はいちるの望みをかけて問いただす。
だがここで、また運命の女神は彼らを見捨てたようだ。
「はぁ?何勘違いしてんだよまゆなしパンダ。
せ〜っかく出てきたんだから、シャバを満喫しまくるに決まってんだろ?」
最悪だーーー!!
我愛羅が、彼らしからぬほどの大音量で絶叫した。
壁の薄いアパートだから、結界がなければ外に筒抜けだっただろう。
隣にもし赤ちゃんがお住まいだったら、彼か彼女が泣き出して親が怒鳴り込んできたはずだ。
「こっちだって最悪だってばよ!
お前みたいな奴がその辺うろうろしてたら、木の葉は1週間後までに壊滅するってばよ!!
帰れ!お前だけ砂に帰れーーー!!!そんでもって二度――ぐぎゃ!」
お招きでないと全身で主張してわめき散らすが、あっけなく守鶴に足で頭を押さえつけられた。
硬いフローリングはちょっと冷たく、そして痛い。世間の寒風がしみそうだ。
「うっせぇ、生意気こいてんじゃねぇよ。てめぇの立場をわきまえやがれ。」
「ぐぶぅ……あ、足は勘弁してくれってばよ……。」
臭かろうが臭くなかろうが、足で踏まれるのはかなりいただけない。
屈辱的以前に、体重をかけてぐりぐりされるとかなり痛かった。
確かに本性よりは遥かにマシだが、今の外見だって長身かつ筋肉質な成人男性。
当然体重だってそれなりに伴っている。
痛い、重い、つらい。救いはあぶら足でないことくらいしかなかった。
そろそろギブアップしたいくらいである。
むしろ、助けてほしいと言った方が正しいかもしれないが。
「守鶴、人の入れ物を勝手に踏むな。中身が出ると困るのでな。」
「そーいう問題?もーちょっと心配してくれってばよ〜……。」
とりあえず狐炎がたしなめてくれたおかげで、足の下からは解放された。
いつもはともかく、今回は感謝しなければいけないだろう。
だが、ちょっと冷たい物言いにナルトは軽くいじけた。
「こいつにそういう情けを期待すんのは、お門違いだぜ?」
「……やっぱ?」
わかってはいたが肯定されると余計に悲しい。
しょせんその程度の存在かと思うと、むなしくすらなってきそうだ。
と、守鶴がそこにさらに追い討ちをかける。
「メスならともかく、オスはカスだし。」
「何それ?!」
「オスだけ山ほどいてもしゃーねぇけど、メスならガキ産めるだろ?」
堂々と言い切られて、ナルトも我愛羅もあごが落ちる。
あきれて二の句が接げないとはこの事かもしれない。
男尊女卑ならぬ女尊男卑。むしろそんな次元ではないかもしれないが。
「生々しいことを大声で言わないでくれ……。」
情けない声で我愛羅が弱々しくつっこむが、当の守鶴は当然黙殺する。
すると、狐炎がため息をついた。
「別に間違ってはいないが、それは貴様の価値観だろうが。」
「そこ、肯定するとこなの?!
お前らの感覚って何?!野生ワールド?!弱肉強食で一角獣?!」
てっきりつっこんでくれるものだと思っていただけに、ナルトの衝撃は大きかった。
種族は妖魔でも、人間の常識を解すると信じていたというのに。
「落ち着けナルト!言いたいことは大体分かるが、言葉がめちゃくちゃだ!!」
前頭連合野がむちゃくちゃになっているナルトを、
我愛羅は必死で正常に戻してやろうと躍起になる。
もはや一種の漫才と化しつつある2人を、混乱に陥れた張本人達は傍観者よろしく眺めていた。
「おい狐炎。金ドリアンって馬鹿すぎだろ。何語だよあれ。アリ語か?」
「仕方あるまい。しつけ損なったのだ。
もう少し早く外に意識を出せることを知っていれば、きっちりしつけたのだがな。」
「そりゃ、最大の失敗だな。」
狐炎の言葉に、守鶴が深くうなずいて同意した。
もちろん、当のナルトは聞き捨てならない。
「人がパニクってるどさくさにまぎれて、何ものすごい勢いで馬鹿にしてんだってばよ!!」
「はぁ?事実しか言ってねぇし。」
「余計タチ悪いってばよボケーー!!」
ますます馬鹿にされてヒートアップしたナルトは、
ボケといった次の瞬間に床と激しい抱擁を交わすことになった。
「二度も言わせっ気か?ザコ助。」
「はひ(はい)……しゅびびゃふぇん(すみません)……。」
再び足蹴にされ、ナルトは早々に降伏した。
狐炎といい守鶴といい、妖魔に逆らうとろくなことがない。
縦社会に生きるしがない生物の宿命だろうか。
「ナルト……。」
「うぅ……そんな目で俺を見ないでくれってばよ。」
我愛羅の哀れみのまなざしが痛くて、ナルトは地の底まで落ちこんだ。
うっすら目尻ににじんだ涙が、たぶんしょっぱい。
「お前の負けん気の強さはよくわかるが、この場合はむしろ無謀だと思う。
悪いことは言わないから、思っていても口に出さない方がいい。」
「うっわー……お前がそういうとは思わなかったってばよ。」
もちろんナルト自身も、この2人に下手に逆らうとまずいことはわかっている。
だが、我愛羅の口からこんなセリフを聞くとは思わなかった。
あの木の葉崩しの時のイメージからは、想像もつかない。
「忍者たるもの、相手の実力と危険さは早く悟った方がいいぞ。
命がいくつあっても足りない。」
「あ、それ今の状況だとすっげー納得できるってばよ!」
忍者たるもの、勝てる状況と勝てない状況の見極めは肝心だ。
我愛羅の言葉は、まさに今の状況に即している名言。
ただ1つ難点を言うならば、言ったタイミングだけは悪かった。
2人の背後から、どすの利いた冷たいセリフが降ってくる。
「おい、てめぇら。まとめてす巻きにして海に流してやろうか?」
『勘弁して下さい。』
その瞬間。
男というか、人としてのプライドは紙より軽くなった。


―1時間半後―
狐炎が、召喚した部下に取りに行かせた本は、さっさと守鶴に返還された。
あまりにスムーズに手元に戻ってきたので、守鶴も少し驚いたようだ。
「……お、時間経ってる割に早いじゃねぇか。」
「貴様と違って、わしの書庫は整理されているのでな。」
本を持ってきた部下を帰してから、狐炎がそっけない返事をよこす。
ナルトの修行部屋の汚さにぶち切れるだけあって、私物の整理はかなりきっちりしているようだ。
書庫を持っているということは驚きだが。
「ていうか、そーいうのあるんだお前んち……。」
「何がおかしい?」
「……えーっと……妖魔も本読むんだな〜って。
ほら、お前らってば正体あんなんだし、全然イメージ無くってさ。」
変なものを見る目で見られて、ナルトはあわてて言葉を付け足す。
もちろん、うそはついていない。
実際にあんな化け物の姿から、本を読むという行動を想像する方が難しい。
「読むに決まってんだろ?書く奴もいるし。」
「い、いるのか……。ところでお前、さっき引っ込む気はないといったよな?
もうあきらめたからその事は置いておくが、まさか本名でうろつくわけじゃないだろう?
どう呼んだらいい?」
ナルトの素直な観想を鼻で笑う守鶴にあきれつつも、我愛羅は彼に質問した。
これからずっと出ずっぱりのつもりなら、偽名が無いと不都合だ。
「そーだな〜……錬空紫電でいいぜ。」
「そうか。」
「その名字、どっかで聞いた気がするってばよ……。」
妙に下の名前は格好良さげな響きだが、上の名前が引っかかる。
今適当につけたのかもしれないが、記憶のすみに引っかかる感じは否定できない。
「お?馬鹿のクセに鋭いじゃねぇか。どっからとったか当ててみな。」
にやりと守鶴が意地の悪い笑みを浮かべる。
思い出せないと馬鹿にされそうな気がして、ナルトは素早く検索を検索した。
「……え〜っと……確かバトル中に……って、思い出した!
技の名前じゃんそれってば!」
「いくら偽名とはいっても……結構、いい加減な命名だな……。」
「うっせぇな!こまけぇ事つっこむんじゃねぇ。ケツの穴小せぇぞ〜。」
そういう問題だろうかとナルトも我愛羅も思うが、あえてつっこまなかった。
これ以上余計なことを言って、殴られるのはごめんこうむりたい。
もっとも、名前の話題自体どうでもいいと考える御仁もいる。
「どうでもいい。用が済んだのなら、さっさと出て行け。」
「うっわ!おい、それが久々にあった知り合いに対する態度かよ。」
「会いたくもない知り合いの間違いだな。」
「いちいち腹立つなこんのやろぉ・・!」
しゃくに障る物言いに、守鶴の短い導火線に早くも火がつき始めたのか。
部屋の空気がだんだん不穏な色を帯び始めた。
ナルトの顔から血の気が引く。
「ギャー!バトルんなら里の外行ってやってくれってばよー!
アパート壊したら、火影の前に借金王になるーー!!借キングーーー!!」
「よーし、壊してやろ〜っと。」
ナルトの必死の訴えが逆効果になったのか、守鶴は実に楽しそうに笑って指を鳴らす。
バキボキと骨が鳴る音が、これから柱や壁から出てくる音に聞こえるのは気のせいだろうか。
ナルトの血の気は引く一方だ。
「やーめーてー!!」
「冗談に決まってんだろ。やると小舅狐がうるさそうだし。」
「よくわかっているな。」
守鶴にフンと鼻で笑われ、ナルトは見事に肩透かしを食らった。
必死だった分反動は大きい。
「心臓に悪い冗談なんか、いらないってばよ!!」
本当に守鶴が壊す気だったらまず狐炎が黙っていないのだが、そこまでナルトの頭は回らない。
彼のクセやパターンをつかんでいる狐炎の冷静さが、ナルトには無性に腹ただしかった。
「ま、まあ落ち着けナルト。」
それから我愛羅は、言うだけ無駄だとナルトに耳打ちする。
もちろん聞かれないように、最小音量で。しかし。
「聞こえてんだよ、まゆなしパンダ。」
『地獄耳だーー!!』
そもそも至近距離でやること自体間違っているのだが、
人間にテレパシーという便利な力はないのでしょうがない。
とはいえ、最小音量の会話の中身を正確に拾った耳は、一体何で出来ているのだろう。
「ちなみに、わしにも聞こえたぞ。」
「えぇ〜?!う〜……妖魔の耳ってどうなってるんだってばよ……。」
考えたところでわかるわけも無いが、そう言わずにはいられない。
それが人の心というものだ。
「言うなナルト。人間の常識で量ったほうが馬鹿を見る。」
「あ〜、そうかも。
もしかして、こっから火の国の大名の城も見えたりして〜……。」
ここからどのくらい離れているのかはわからないが、かなり遠そうだ。
冬の晴れた日に土の国側の国境に行けば、
雄大な土の国の山脈が見えるとは聞くが、ここから火の国の城が見えたという話は聞かない。
当然冗談のつもりで、2人には馬鹿にされるとナルトは踏んでいたが。
「間に山さえなければな。」
「余裕だぜ。」
もはやどこまで冗談か本気か悟れない、さも当然といった2人の表情と声。
最近はいつも妖魔に驚かされるナルトだが、今回のインパクトはその中でもなかなかのものだった。
ずざざっと一気に後ずさる。
「わーっ!冗談だったのにさり気に肯定されちゃったってばよ!!」
「怖くてうかつな予想も出来ないな……。」
得体の知れない恐怖のようなものを感じて、さすがの我愛羅もひきつる口元を隠せない。
一方、ナルトは早くも衝撃から立ち直り、仰天事実をプラスの方に考えた。
「あ、でもすっげー便利そうだってばよ。チャクラなしで白眼みたいだし。」
「それを言うなら千里眼じゃないのか?
邪魔物があったら見えないって今言ってたじゃないか。」
「あ〜、そっかー。おれってば忘れてた。」
大体、自分がまね出来ないならしょうがないかと、実に残念そうにナルトはぼやいている。
それを傍で眺める妖魔2人はしらけ気味だ。
馬鹿すぎて付き合ってられないと、空気が語っている。
「おい狐炎。さっきもいったけど、マジであいつアホだな。
まゆなしの方がまだ自分のへぼさわかってんじゃねぇの?」
「まぁ、馬鹿にはつける薬も無いからな。
確かに、お前のところの方のがまだましだ。」
「ま〜、どっちもおちょくりがいはあると思うけどよ。」
「それは同感だな。」
それから狐炎は退屈しのぎに、作りかけていた木彫りの細工物を手にとって削り始めた。
守鶴は守鶴で、返ってきたばかりの本を久しぶりだからか読み始める。
ナルトと我愛羅は、2人そっちのけでだんだん話もそれ始める。
平和とは言いがたい、密度が濃い上に騒がしすぎるこの日。
妖魔が混ざった非日常すれすれの日常は、
今までが前座としか思えないほど大荒れになる、かもしれない。



―前へ―  ―次へ―  ―戻る―


我愛羅と守鶴がようやく登場です。我愛羅はひたすら不幸ですが。
自分で性格捏造しておいてなんですが、守鶴は動かしやすいです。
つっこみどころが多い奴がいるせいか、結局2話並に騒がしくなりました。
ちなみに、次回も彼は暴れる予定。ナルトと我愛羅はお休みですが……。

(2009/5/6 改行減少・加筆・CSS追加)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送