鬼の居ぬ間に命の洗濯。
いない間に、来客の準備でもしておこう。


              狐日和
                      ―3話・来客のノウハウ―


朝はいつもドタバタするものだが、今日は珍しく落ち着いていた。
だからのんびりとパンを食べていたナルトは、狐炎が告げた事に目を丸くする。
「バイトぉ?」
「ああ。家に居るのも退屈だしな。
暇つぶしで金がもらえるならば、一石二鳥だろう?」
「暇つぶし扱いかよ!真面目にやる気あんのかってばよ!」
「うつけ。忍ならずとも、仕事は甘くない。
まともにやるに決まっておるだろうが。でなければ正規の給金を受けとれんからな。
それに、いい年をした大人が仕事をしないというのも変な話だろう?」
「そりゃそうだけど……バイトする妖魔って何なんだってばよ……。」
確かに言っていることはもっともなのだが、複雑な気分になることは否めない。
死んだ四代目や三代目が聞いたら、どんな顔をする事やら。
しかし、人間が作った勝手なイメージに合わせるような性格ではないので、言われた本人は全く意に介さない。
こういうのを、「人を食う」というのだろうか。
ボキャブラリー不足のナルトには、よく分からないのだが。
「じゃあ、今日おれは留守番ってわけ?任務もないし。」
最近は人手不足で任務が多いのだが、今日は珍しく休みだ。
7班の部隊長であるカカシが、別のAランク任務で留守にしているためである。
ちなみに、2日留守との事だ。
「まあ、そういうことだ。
とりあえず朝飯は済んだからいいが、
どうせお前の事だから家事はまともにやれんだろう。
植物の世話以外は、一通り片付けておいたぞ。」
「ほっといてくれってばよ!あ、片付けてくれたのは助かるけどさ。」
三代目火影の元で10年ほど過ごし、1人暮らしを始めて約2年。
お世辞にも、完璧に家事をこなしているとは言いがたい。
まともにこなしているのは、趣味で育てている草花の世話とカップラーメンの湯沸しくらいである。
洗濯は機械任せなので例外と言いたいが、
1週間経ってようやく洗ったりする事もあるのでこちらも論外。
掃除はどうかといえば、普段過ごす部屋はともかく修行部屋はゴミ溜め状態だ。
先日、在庫一掃処分を開催したとはいえ、ほうっておけばすぐに元に戻るだろう。
自分でも家事が苦手と言う意識はあるので、言い返せないのが悲しい。
1人暮らしなら家事がうまくなるというのは、幻想なのだろうか。
そもそも妖魔に負けている時点で、人間のアイデンティティーが危うい。
「先に言っておくが、わしが居らずともまともな飯位食っておけ。
間違ってもラーメンなどで済ませぬことだな。」
「えー、何でだってばよ〜!」
言うまでもなく、昼をラーメンで済ませる気満々だったナルトは、先手を打たれてふてくされる。
「やかましい。毎日毎日、あれだけ食っておっただろうが!」
「ひっでー!!おれの血ってば、ラーメンのスープで出来てんのに〜〜!
食わないと死んじま……へぶぅ!」
心ゆくまで昼にラーメンを楽しみたかったナルトだが、
ギャグにしかならない抗議を言った瞬間、脳天にこぶしが降ってきた。
「黙れ、ラーメン中毒患者。それ位で死にはせん。少し位はラーメン断食して丁度いいくらいだ。」
「うわ〜〜、鬼!悪魔ーーー!!」
「何とでも言え。逆らったらお前が生野菜地獄に陥るだけだ。」
「うわ〜〜、最低だってばよお前ーー!根性悪!甲斐性なしー!」
分かりきった悪口を撒き散らしながら、ナルトはぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる。
声が大きいのと見苦しいのとで、狐炎はいやそうに眉をしかめた。
「失礼な。甲斐性はある。家事もろくにできんお前と一緒にするな。」
「いや、そもそもお前ができることの方がおかしいからそれは!」
こんなことだけには鋭いナルトは、即座につっこみを入れる。だが。
「ではな。」
「え、無視?シカト?!」
無論そんな事を聞く狐炎ではなく、さっさと出て行ってしまう。
残されたナルトは、朝の水遣りをしつつ植物に愚痴りまくった。
「聞いてくれってばよー……ほんっとあいつ鬼だとおもわねぇ?」
オリヅルランや幸福の木といった定番の観葉植物に、どんよりとした表情で愚痴をこぼす12歳。
はたから見たらただの不審人物であるが、他に人がいるわけでもないので問題はない。
水遣りの後に液肥のボトルを取り替えて、世話はお終いだ。
忍者という仕事の間隔が不規則な職業柄、手のかからない植物ばかりなので楽なもの。
本当は女の子が喜びそうな花類も育ててみたいが、枯らしそうなので今は育てる気になれない。
もっとも今は実質2人暮らしなので、育てられるかもしれないが。
だが彼は、「育てる」という建設的なことをしてくれるのだろうか。
―あいつは家族ってカウントしたくないけどな〜……。
性格は悪い、いやむしろひどいというべきか。
少なくともナルトにとっては、一番身近にいて欲しくない部類に入る。
大蛇丸よりはマシだが、そもそもそういう対象として比べてはいけないので除外済みだ。
だが、ナルトに対する態度がひどいとは言っても、大多数の木の葉の住人よりはマシだという点が複雑である。
そこまで考えて、ナルトはがっくりきた。
「妖魔よりひどい人間って……何?」
そこら辺どうなんだろうかと考えかけて、やめる。
多分泥沼に違いないし、考えても分からない。
とりあえず今は友達にも恵まれているし、それでいいのだ。
過去よりも、今と未来が大事である。
深く考えないということは、時にポジティブな思考の助けになってくれるものだ。
「う〜ん……それにしてもヒマだってばよ。」
少なくとも掃除は昨日狐炎がやってしまったし、洗濯物だってまだ洗うほど溜まってはいない。
そもそも狐炎がやるようになってから溜めなくなった。
それ以前に、今日はナルトが朝食をとる前に片付けていったというのだから、
家にいてもただ単にヒマなだけだ。
ここは、外で暇つぶしをするしかない。
黒いランニングの上にいつものオレンジの上着をはおり、ナルトはさっさと我が家を後にした。

―アパートの玄関―
各部屋ごとに分けられた郵便受け。
ナルトは一応、出かける前と帰った時にはチェックするようにしている。
もっとも、チラシなどしか入っていないのが常だが。
と、いつもはダイレクトメールやチラシくらいしか入っていないそこに、なにやらかわいらしい茶色の封筒が一通紛れ込んでいた。
「まさか、女の子からとか……?!」
ドキドキしながら差出人を見ると、残念ながら女性ではなかった。
だが、それはある意味その辺の大して喋りもしない女性よりも嬉しい名前だった。
背景に夏の太陽とひまわりをしょったように明るくなったナルトは、
地に足がつかない様子で一気にかけていったという。
もちろん、右手にはしっかり封筒を持って。


―サスケの家―
舞い上がった気分のままサスケの家に行くと、サクラが先にお邪魔していた。
そこで、家の主であるサスケも加えた3人で、一緒に手紙を読んだ。
内容はこうだ。

ナルトへ
この前は、口で言えないくらいの迷惑をかけたな。
あの場に居たお前の仲間は大丈夫だったか?
それと、お前のおかげで色々ものの考え方が変わった。
だから、テマリやカンクロウとも最近はまあまあうまくいってる。
それで話は変わるんだが、×月%日に木の葉に3人一緒に遊びに行こうと思ってる。
まぁ、お目付け役としてバキも来るが。
行けたらお前の家も見てみたい。
あ、俺の中の守鶴が覚醒して壊したりはしないから、そっちの心配はしなくていいぞ。

追伸 風の国特産の土産も持ってくから、楽しみにしててくれ。  我愛羅より

「へ〜、我愛羅君がこっちに来るんだ〜……。
この日付だと、4日後くらいよね。」
「あれだけこっちで暴れたくせに、よく来る気になるよな……。」
サスケが聞こえよがしに毒づいた。
確かにあの時は散々苦戦したので、まだ根に持っていても仕方ない。
「まあまあ、いいじゃない。もう、木の葉と砂は仲直りしたんだし……。
そんなに目くじら立てなくてもいいでしょ?」
「……わかったよ、お前がそう言うんなら……。」
サクラになだめられ、サスケはしぶしぶながらも素直に引き下がる。
「珍しく物分りがいいじゃん。こりゃ、明日雪が降るってばよ……。」
「お前の頭に火球なら降らせてやるよ。」
「んじゃ、サスケの頭には明日おれの分身を……。」
延々と言い合いが続きそうになった時、サクラがパンパンと手を鳴らした。
言い出すときりがないので、強制終了させるに限る。
「はいはい、2人ともそのくらいにしといてね。
それよりナルト、手紙ってこれだけ?」
気を取り直して、サクラはナルトに手紙の話を振った。
「ん〜っと……他は特にないや。
ていうか我愛羅の手紙、短くない?」
「そうね〜。でも、こんな感じって気はするわね。」
必要最低限の用件しか書いていない手紙は、
書き慣れていないせいもあってか、少しそっけない感じもする。
だが割と無口な彼のイメージ通りと思えば、それらしいなかなかの手紙かもしれない。
「まあ、そうだな。
それよりナルト、お前のとこのすかした兄貴は知ってんのか?」
「ううん。あいつは今日バイトで留守だから、まだ言ってないってばよ。」
何しろ行きがけにポストで見つけたので、狐炎には届いたことすら知らせられなかった。
教えておいた方がいいだろうとは、分かっているのだが。
「早く言っとけよ。お前はどうせあいつを家に呼ぶんだろ?
人を呼ぶときは、色々支度ってもんがいるぞ。」
「え?そう?」
「そうよ。あんたんち、お茶のパックだってなかったじゃない。
炊飯器とかだって、狐炎さんが来るまで埋もれてたんでしょ?」
サクラに痛いところを突かれ、ナルトの顔が盛大にひきつった。
「う゛……そうだったってばよ。」
狐炎が発掘するまで、ほこりに埋もれていた哀れな調理器具達は記憶に新しい。
実は1人暮らしをする時に亡き三代目から一式もらっていた物だが、ナルトは存在自体忘れていた。
そして発掘されたそれらを見て思わず声を上げ、
狐炎に冷たい目で見下された事も記憶に新しかった。
「まぁ、そんなにはりきることはないけど……。
とりあえず、お茶とお茶菓子くらいは用意したほうがいいわよ。」
「わかったけど……何買えばいいんだろ?
そーいうの、全然わかんないってばよ。」
アウトドア派のナルトは、遊ぶといえばいつも外遊びばかり。
おまけに家の中で騒ぐときも、人の家にお邪魔したことしかなかった。
親も居ないので、客の扱いというものがよく分からない。
「どうしようもねーな、おい。じゃあ、今から買いに行くか?」
正直、我愛羅に対する心証は良くないが、ナルトが妙なことをやらかしても困る。
それなら一緒に行って、物くらい用意した方がよさそうだ。
「そうね。それがいいんじゃない?
一緒に選べば、たぶん大丈夫だし。」
「サンキュー!んじゃ、行くってばよ!」
こうして3人は、連れ立って買い物に行く事になった。


―スーパー・与市(よいち)―
3人は、サスケの家の近くのスーパーに向かった。
ここはナルトの家のそばのスーパーとは少々違い、鮮度と品質にこだわった良品が多く並ぶ。
他の店より少々高めになるが品質も相応で、多くの買い物客が訪れている。
「う〜……モクレンより高いってばよ。」
生鮮食料品もメーカー品も、他の店より1,2割は高い。
安価だが品質もそこそこという品がないせいだ。
ちょっとした別世界を作る値札の群れに、ナルトはげんなりとする。
何しろ、主婦でもないのに特売のチラシを隅まで眺めるくらい、安さを重視するのが常なのだ。
げんなりしないわけがない。
「サスケ君、いつもここで買ってるの?」
「あぁ……やっぱり、ここは近いからな。でも野菜は八百屋で買ってる。
野菜はよく食うし、トマトはそっちの方が安い。」
さりげなく金銭感覚がしっかりしているサスケの言葉に、サクラはしっかりしてるなと素直に感心する。
だがそれとは対照的に、ナルトは意地悪な言葉を漏らす。
「サスケ、所帯じみてるってばよ……。」
「うるさい!一人暮らししてると、嫌でもそうなるんだよ!!
お前だってこの間、インスタントと冷凍食品の特売のチラシ見て目が血走ってたじゃねーか!!
しかもその後、店でなんか目を真っ赤にして主婦の群れにつっこんでたし。」
「ギャーーー、それ言わないでってばよ〜〜!!」
たまたま任務の切れ目で金が消えかけた時、
またとない安値の特売に食いついた現場を見られていたとは。
しかも主婦の群れにつっこんでいるその間、うっかり目が九尾モードになっていたらしい。
特売時のスーパーは、ある意味最大の戦場なのだ。
狐炎からチャクラを借りる意味は、ほぼ皆無だが。
「ナルト……あんたそんなに家計苦しかったの?
もし良かったら、今度うちでおかず余ったら持ってってあげるから。ね?」
「うぅ……ありがとうサクラちゃん!」
なんて優しいのだろう。
悲惨な食卓事情に同情したサクラの言葉に、思わずナルトは感涙しそうになった。
サスケがものすごく恨めしそうな目で見てきたが、そんなものは気にしない。
心の中でちょっとした優越感に浸りつつ、
ナルトは気を取り直して早速品選びにかかることにした。
我愛羅のためなので、この際値段は度外視だ。
度外視といっても、次の任務で下りる給料が入るまで路頭に迷わない程度だが。
路頭に迷うほど金を使ったら、後で狐炎に何を言われるか分かったものではない。
「う〜ん……いっぱいありすぎて、どれがいいかわかんないってばよ……。」
「そうよね〜……好みがわかんないもんね。」
難しそうな顔をして、ナルトとサクラは棚のはじからはじまで見回す。
何しろ普段使わない店なので、ただでさえ目移りする。
ついつい好奇心が勝りがちになるのも選ぶ邪魔になるが、それ以上に我愛羅の好みが分からないことが痛い。
いくら高かったとしても、口に合わなければ価値が半減だ。
「ちょっと高いせんべいとかで十分だろ。
甘いもんが出なければ、別に大人の集まりじゃないし平気なんじゃねーのか?」
「えー……そんなもん?だって、我愛羅遠くから来るのにさ〜。」
いくら自分の客ではないとはいえ、そんな投げやりな態度もないものだ。
まじめに考えているのにと腹も立つ。
「気にしなさそうだって思っただけだ。
別にわざと安くしろなんていってないだろ、ウスラトンカチ。」
「ちょっと2人とも、お店でけんかしないでよ?」
家を出る前の喧嘩を思い出したサクラが、先手を打って2人に釘を刺す。
こんなところで喧嘩をされると困る。
「わ、わかってる……。」
「わかってるってばよー。」
こんなところでけんかしたら、いい笑いものだ。
第一、サクラの前でみっともないところを見せるのは、2人にとって考え物である。
かなり私的な理由で、だが。
「あ、これなんかいいんじゃない?」
「え、何だってばよこれ。も、モードリアン??」
洋菓子を集めた棚においてあったのは、赤い果肉のフルーツがパッケージにデザインされたお菓子。
8個入りで、お値段は80両。
客に出す菓子としては、まあまあ手頃な範囲だ。
「おもしろそう……よし、これにするってばよ!」
「迷った割には、意外とあっさり決まったな。
よし、レジに行くぞ。っと……そうだ、サンマでも買ってくか。」
「夕飯にするの?」
「ああ。確か魚はあっちに……。」
このスーパーの魚は、刺身用のシールが張られているサンマなどが、
ちゃんとその文句どおりに刺身に出来るほど鮮度がいい。
近くに魚屋がないこの近辺では、一番おいしい魚だ。
おいしいサンマの塩焼きを頭に浮かべながら、心なしか上機嫌のサスケは、2人をつれて鮮魚売り場へ入った。
しかし、いささか活きの良すぎる魚がそこにはまぎれていたようだ。
「あ、プチイタチさ〜ん♪」
ピシッと、サスケの周りの空気にひびが入った。
売り場の魚にまぎれて、突如出現した招かれざる「魚類」。
満面の笑みを浮かべているが、ものすごく気持ち悪い。
笑顔が気持ち悪いこともあると学習した、貴重な経験になるくらいに。
「なぁ……
あれは何だ?
「あー、あれ?
人面魚だってばよ。」
妙に冷静で低いサスケの声と、妙に投げやりな棒読み調のナルトの声。
無論、現実逃避の賜物だ。
「何であれがここに居るんだ?」
「さー……間違って入荷しちゃったんじゃないの?」
サスケの問いに答えるナルトの目が遠い。
現実から目をそらしたいという切なる願いが、ありありと伝わってくる。
が、イライラしたサスケの短い堪忍袋の緒は、その一言でぶち切れる。
「いつから与一はサハギンを売るようになったんだよ!」
「違うってばよサスケ!あれはマーマンだってば!!」
「え……その前にあれって、着ぐるみとかじゃないの?」
なぜかどうでもいいことに激しくつっこんでくるナルトに、状況についていけないサクラ。
ニ方向から同時にセリフがふってきたことで、サスケの堪忍袋の緒は、早くも二本目が切れた。
「細かいモンスター名なんてどうでもいいだろナルト!
それとサクラ!あれはサハギンでマーマンで、着ぐるみなんかじゃないんだよ!
すごく残念だけどな!」
「じゃあ、特殊メイクなの?」
「失礼ですねお嬢さん。私のこの顔は生まれつきですよ。」
一応人間という前提でサクラが質問していることを知ってか知らずか、鬼鮫は心底不快そうな様子で答えた。
だがこの場合、特殊メイクと答えた方がまだましなことに、当然彼は気づいていない。
「気安く声かけてんじゃねーよ、この魚類!
人面魚の分際で、高等生物の哺乳類に話しかけんな!」
「そ、そんな〜!イタチさんみたいなこと言わないでくださいよー!」
「ギャーーー、変態兄貴と思考回路がかぶったぁぁぁ!!!」
本気でショックと嫌悪感でいっぱいになったサスケは、
全身に鳥肌ならぬじんましんを発生させて絶叫した。
兄アレルギーでアナフィキラシーショックでも起こしたのだろうか
「ちょ、ちょっとサスケ君!ここお店なんだから、静かにしなきゃ!!」
「もうだめだ……俺は変態馬鹿兄貴と同じことを考えちまった……。」
きのこが生えそうなほど落ち込んだサスケは、ぶつぶつとつぶやくだけだ。
なかなかの重症である。
「サスケ、お前ってば何ぶつぶつ言ってんだってばよ……。
人面魚の言うことなんて気にすんなってば!」
「おや、これはこれは……。
こうやって恥を忍んで、売り場に潜入したかいがありましたね。」
今頃ナルトの存在に気がついた鬼鮫が、
ノルマのことをいまさら思い出してにやりと笑う。
が、この状況で格好つけようとしているあたり、かなり無謀だ。
「潜入?陳列されたんじゃなくて?」
「ひどいですね〜。何でそんなことを言うんですか。」
即座にサクラにつっこまれ、鬼鮫は少々傷ついたようなそぶりを見せる。
が、どのみち気持ち悪さと魚臭さは変わらない。
「あんたに1両って書かれた値札がついてれば、そうも言いたくなるってばよ!!」
「ああ、これですか?偽装ですよ。
木を隠すなら森の中って言うじゃありませんか。」
鬼鮫はナルトのつっこみをものともせず、得意げに語る。
が、そんな言葉でだまされてくれるわけもない。
「それ、本気で言ってんなら今すぐ魚の医者に行け。」
「見ただけでバレバレだってばよ。ねぇ?」
ナルトもサスケの言葉に全面的に同意を示し、ついでに横のサクラにも同意を求める。
サクラは彼の予想通り、即座に首を縦に振った。
「うん……絶対変よ。
こんな魚、どんなに詳しい図鑑にも居ないと思うけど。」
「く、口の悪いお子様達ですね……。
いい加減私も堪忍袋の緒が切れますよ?!」
むしろ数々の暴言によく持った方といえる鬼鮫の堪忍袋の緒も、いい加減限界が来たらしい。
「げ、やばいってばよ……。」
「ちっ、確かに陸上とはいえ……サメとやりあうのはきついな。
サメのクセに、陸で肺呼吸できる規格外なやつだし……。」
いかに自分達哺乳類よりも鬼鮫が下等だと思っているサスケでも、
怒って暴れられれば分が悪いと分かっている。
何しろ敵は、「海面の三角形」。
見たら即座に岸に逃げないと危険な存在なのだから。
「サメ、サメ連呼しないで下さいよ!!」
けっこう傷ついて切れた鬼鮫は、とうとう鮫肌を振り回し始めた。
そんなに人類と認めて欲しかったのだろうか。
と、サクラは一瞬思ったが、鮫肌の軌道がサスケを狙っていると気づきはっと我に返る。
「さ、サスケ君!危ない!!」
慌ててサクラが飛び出した瞬間に、ひじがダンボールにぶつかって崩れる。
崩れたダンボールから、売り物のスープの素やレトルト食品が飛び出してしまった。
そしてそれが、うまい具合に襲いかかってきた鬼鮫の上にも飛んでくる。
「ぶっ、うっとうしいですね!!なんですかこれは……!!」
出鼻をくじかれた鬼鮫は、腹ただしげに飛んできた品物を手に取った。
そしてパッケージを見た瞬間、顔色がいつも以上に青くなる。
「ヒィィ〜〜〜、ふ、ふかひれ〜〜〜!!!!
な、仲間がこんな姿にーーー!!!」
飛んできたものを見て、パニックになって鬼鮫はのた打ち回る。
あまりに急な事態に、ナルトたちも戸惑うばかりだ。
「な、なな何、何??何がどうしたの?!」
無意識のうちに弱点を突いてしまったサクラも、わけが分からない様子で戸惑っている。
別に自分が何かした覚えはないのに、
たかだか店の品物で相手がパニックしているのだから当然だ。
「さ、さぁ……なんか、パックのふかひれの姿煮かなんかを見たみたいだってばよ。」
「と、ともかく今のうちにさっさとレジに行くぞ!」
鬼鮫が見た品物は、正確にはふかひれスープの素だったのだが、
パッケージにはでかでかとふかひれの姿煮の写真がある。
ともかく、おかげで逃げるチャンスが出来た。
散らかしたままで行くのは店に申し訳ないが、これを逃すわけには行かない。
「サスケ君、サンマはいいの?!」
「もうかごに入れた!!」
『早っ!!』
ちなみにサンマは、今ナルト達が居る場所からはちょっと遠い。
いくらドサクサ紛れとはいえ、一介の駆け出しの下忍が良くできるものだ。
きっと、夕飯のおかずへの執念がなせる業に違いない。
そんなこんなで、3人はようやくレジにたどり着き、お会計を済ませて転がるように店を出た。
ナルト達も鬼鮫も散々だったこの日。鬼鮫の日記には、こう書かれていた。

×月@日 天気・ふかひれスープの素

やっぱり人間って残酷だと思います。
何で私の仲間にあんなことが出来るんでしょう。
もう人間なんて……人間なんて……ううっ。

(以上、鬼鮫の日記より抜粋)


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普通に7班お買い物です(一部嘘
ちなみに我愛羅がナルトの住所を知っているのは、どうにか調べたということで。
最後の鬼鮫の日記は、出来心で追加。
OK、今回も無駄に長かった(ワードで計測した)
次回か次々回あたりに、我愛羅が登場する予定です。


(2009/5/6 改行減少・加筆・CSS追加)
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