※擬人化九尾あり
※ある意味前の話よりも救いがありません


         エクスピアシオン


代償は、命を捧げる覚悟よりも重い。

どんどん弱くなっていく鼓動。
紙のように白い肌。焦点の合わない目。その全てが、消え行く命を暗示している。
「サクラちゃん……!!」
こんな事があっていいはずがない。
彼女には幸せになる権利こそあれ、こんな形で命を失っていい理由などないのだ。
しかし、消え行く命を引き止めたくとも、
引き止めるだけの力はこの場にいる誰一人として持っていない。
破壊の力では、命を救うことなどできるはずもない。
(くそっ……せめてカブトがいれば!!)
もう手遅れかもしれないが、
医療忍術の使い手である彼がいれば、まだ助けることが出来るかもしれないというのに。
サスケは歯噛みするが、それは叶わない。
もはや彼らになす術などないのだ。
その時だった。ナルトは、心の奥底にある九尾のおりの前に意識が飛んでいった。

“小娘を助けたいか?”
―狐炎……?!
なぜ急にナルトを自分の前に呼んだのか。
狐炎の真意をつかめず、ナルトは頭の中がぐちゃぐちゃだ。
だが、ナルトを落ち着けもせずに、狐炎はさらにlこう続けた。
“今は封印が弱まっている。
小娘を助けたければ、封印を解け。話はそれからだ。”
―それからって……!?
彼自身にはほとんど関係ないはずのサクラを、どうして救ってやろうなどというのか。
全然真意が見えず、ナルトはますます混乱する。
だが、選択に迷う時間は与えられない。
“放っておけばすぐに死ぬぞ。いいのか?”
―……・!!わかったってばよ。
この封印を解いてしまえば、彼の力は全て解放され、自由も戻る。
その結果、どうなろうともかまわない。サクラさえ助かってくれるのならば。
たとえ自我が食われたとしても、彼女さえ助かればいい。
ナルトは何のためらいもなく、無我夢中で封印の象徴である小さな札を引き剥がした。
カッとほとばしる赤い光が、心の空間を埋め尽くす。

現実ではほんの瞬きほどの時間。
だが心の底で封印を解き、現実を意識が認識した瞬間に、ナルトの体に変化が起きた。
「……っ!!」
ナルトの体から、何か巨大な力が一気に出て行く感覚。
そして一瞬後、呆然とするナルト達の前に、一人の男が立っていた。
橙色の髪を結い上げ、それを3つに分けた独特の髪型をした若い男。
九尾の狐・狐炎だ。
「愛する娘を己らが手で葬るとは、真に愚かなことだな。」
「あなたは……?!」
「てめぇは……!!」
ヤマトとサスケ、それぞれの口から飛び出した問い。
だが、それを狐炎は鼻で笑う。
「ふん。わしの正体に構っている余裕が貴様らにあるのか?」
『……。』
その一言で、2人とも口をつぐむ。
彼がまとうチャクラを見れば、その正体が人ではないことは火を見るより明らかだった。
うかつな事を言うのは得策ではない。
「さて……お前たち。この小娘を救いたいか?」
「そんなの――。」
「言われなくても、決まっているか?まぁ、そこまでは良かろう。
小娘の時間が、少しだけ延びたぞ。」
ナルトの言葉をさえぎって言うと同時に、狐炎の手から生じた淡い光がサクラに吸い込まれて消える。
だが、全快とは程遠い。死からほんの少し遠ざかっただけだ。
狐炎が手を引けば、すぐにまた死神が手を伸ばす。
「てめぇ……!」
「にらむのは勝手だが、
わしが気まぐれを起こして手を引けば、この小娘は死ぬしかないぞ?」
そう言われてしまっては、にらみつけたサスケもぐうの音も出なかった。
口ではどのように言うかはさておき、サスケもまたサクラを救いたいのだろう。
今、サクラの命を握っているのは間違いなく狐炎だ。
だから、一呼吸置いてこう聞いた。
「……何か、代償を要求する気か。」
「ご名答。我ら妖魔の性質をよく理解しているな。
代償は、そう……何が良い?」
ナルト達の心を知った上で弄ぶような言動をする狐炎は、
まるで戯れに小石でもはじいているようだ。
簡単に手の内を明かそうとしない態度は、わざと苛立たせるためと言ったら勘ぐりすぎだろうか。
「まさか、おれ達の命とか言うんじゃ……。」
ナルトはそれでも構わないとさえ思う。
本意でないとはいえ、自分でサクラを死に追いやろうとしたのだ。
強がりでもたとえでもなく、ナルトはそれくらいの代価は覚悟していた。
「クックック……案ずるな。小娘が死んだわけではなし。
お前達の命なぞ、奪ったところで仕方がない。」
「じゃあ、何を望むんですか……?」
命でないのならば、何を要求する気なのか。
木の葉の忍者として受け入れがたいことか、それとも。
いまだ人心に疎いなりに色々と思案しながら、サイが問いかけた。
「お前たちには、起きたことを受け入れる覚悟さえあればいい。
もっとも……その覚悟がなければ、小娘はこの場で死ぬだけだがな。」
『!』
起きたことを受け入れる覚悟。
何が起きるかもわからないのに、どう固めろというのか。
だが、それが出来なければサクラは死ぬ。ならば、ナルトにはもう選択肢はなかった。
「覚悟ならできるってばよ……何が起きるかわかんないけど……。
それでも、サクラちゃんが助かるんなら、おれはどうなってもいい!」
「では、お前はどうなのだ?うちはサスケ。」
ナルトの答えは予想済みだったのだろう。
彼に返事はせずに、サスケの方に問いかける。
だが、サスケは。
「……。」
「答えぬか。まぁ……お前が答えを持ち合わせているわけはないか。
どうせ一度見捨てた女の命だ。
どうなろうが、お前の知ったことではなかったな。」
サスケ本人さえも自覚しない、
奥底に潜む感情を逆なでするように狐炎は冷たく嘲笑した。
自覚していない感情に起きたさざなみは、サスケに静かな苛立ちをもたらした。
はっきりと眉間にしわがよったことが見受けられて、狐炎はさらに嗤う。
だが、すぐにその顔から嘲笑は消え、サスケにそれ以上構わず体をサクラの方に向けた。
強い妖力が、彼の手に集中し始める。
「万物にあふれる氣の力よ。
大いなる篝火となりて、消えゆく命に輝きを灯せ。妖術・万象の宴。」
周り中から、蛍に似た色とりどりの無数の光が次々と放出される。
それらは炎の揺らめきのような生命の光と化し、緩やかにサクラの体を包み込む。
大いなる自然、森羅万象の持つ無限の力。
それが、今にも消え入りそうなサクラの命のともし火を、再び強く燃え上がらせる。
ずたずたに裂かれた肌は陶器のように滑らかになり、
傷つき命を支えられなくなった五臓六腑が、かつての活力を取り戻す。
まるで神の恵み。人の力をはるかに超えた妖術に、誰もが瞬きも忘れてその光景を見つめた。
やがて、生命の光が全てサクラの中に溶け込み消える。
横たわったままのサクラは、先ほど黄泉に引き込まれかけていたことが嘘のように生気に満ちていた。
首筋にかかっていた死神のカマを、一瞬で退けた万物の恵み。
その力は、まさに命の饗宴そのものだ。
「すごい……。」
目に映るものが信じられずに、ナルトは息を呑む。
「さて……仕上げだ。」
仕上げといって、狐炎が最後にサクラに一枚の術式符を飛ばした。
発動した符は、すぐに力を解放してただの白い紙になる。
すでに全回復しているサクラに、何を施したのかはわからない。
だが、恐る恐る触れたサクラの頬には、もう体温が戻ってきていた。
呼吸も穏やかで、まるで今の今まで何事もなかったかのようだ。
意識こそなかったが、もう何の心配も要らないだろう。
ようやく、ナルトはほっと息をついた。
「サクラは……これで助かったのか?」
半信半疑といった様子で、サスケが狐炎に問う。
あまりにも現実離れした術のせいで、サスケもまた自分の目で見た光景が信じられないのだろう。
「ああ、助かったとも。命はな。」
「?!……どういう意味だ?」
肯定の言葉の後ろに続いた但し書き。
抑揚をつけることすらなくさらりと流された、意味深な単語。
だが聞き流すことはできず、サスケは険しい顔で問いただした。
「なに。その身が時の流れで朽ちるまで、永遠に幸福な夢を見続ける。
それだけのことだ。」
「まさか……。」
事も無げに狐炎は言うが、不吉な予感が全員に走る。
すぐに勘付いたが、確かめられずにはいられない。
「サクラちゃんに何をしたんだってばよ?!」
「言わねばわからぬか?先ほどの術式符は、治癒のための符ではない。
お前達忍者では、決して解けぬ呪いをかけるためのものだ。」
決して解けない呪い。それがあの符の意味だと言う。
何のことはない。こぼれかけたものを取り戻したと思ったら、取り上げられていたのだ。
これで、怒らない者が居るわけがない。
「っ……てめぇ!!」
「言っておくが、ナルトにサスケ。お前達にわしを咎める権利はないぞ。
サクラを『殺した』お前達には、な……。」
『!』
狐炎の指摘に、ナルトとサスケが凍りつく。
サクラを「殺した」。
その言葉の意味を悟れないほど、2人は愚かではない。
もっとも、そこに込められた全ての意味を悟ったかどうかはわからないが。
「……っ!けど、だからって、どうしてサクラちゃんを!おれは――。」
「くどい。まだ分からぬのか。」
冷たく突き放す視線には、極北の氷に似た静かで冷たいものが宿っている。
2人を見放したとしか言いようがないその表情は、反論すら許さない威圧感に満ちていた。
凍りついたように動けない。
「貴様らには、罪を償う権利すらない。
同じ過ちを二度も繰り返し、守るとのたまっていた娘を己らの手で葬った、救いようのない愚か者共め。
貴様らに、許される資格など存在するものか。たとえその小娘が許そうともな……。」
サクラの苦しみを、過ちの深さをお前たちは本当に知っているのか。
そうきつく問いただすような鋭利な言葉が、ナルトとサスケの心に突き刺さる。
まるで、冥界の審判のようだ。
出来ることなら耳をふさいでしまいたいとも思った。
けれどそれは許されない逃避だと、2人ともどこかで分かっている。
「……。」
「もしもサクラを眠りから覚ましたければ、
サクラの願いを叶えてやってから、我が領地に来るのだな。
もっともそんな日は、永久に来ないかも知れぬがな……クックック。」
まるで、その日は来ないと知ってて言うかのように、狐炎は忍び笑いをもらした。
そしてナルト達に、くるりと背を向けた。
「待て!」
ヤマトが引きとめようと叫ぶが、狐炎の姿は一瞬で消える。
帰っていったのだ。彼があるべき地へ。
「サクラちゃん……!!」
ごめんと、息がかすれた音が、ナルトの涙と共に零れ落ちる。
どれだけ謝罪の言葉を連ねても、決して彼女には届かない。
責めも許しもされないことは、とてもつらい。
サクラは生きている。けれど何も語らず、動かない。
意思を奪われた少女は、さながら生きているだけの人形。
ナルトとサスケの過ちが作り出した罪の体現とも言える眠り姫。

罪の象徴が目覚める日はいつの日か。
誰も、その日を知らない。
そして少女が目覚めた時、罪が許されるかどうかもわからなかった。



代償は、命を捧げる覚悟よりも重い。
はかなく散るはずだった命は、大いなる力によって黄泉路より呼び戻された。
それでも罪の跡は消えない。
そして代償は、永遠に解けない枷となる。



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無理やりサクラの復活です。題名の意味は、フランス語で「贖罪・償い」。ネーミング辞典でつけました。
どう考えても、その前に否定の助動詞か何かが来る気がしますけどね。
「妖魔に最低呼ばわりされた」TAKE2(TAKE1は災いの黄金)になっただけという気がします。
救われたのは、文字通りサクラの命のみです。
ちなみに狐炎が何を考えてるのか、よくわからないように見える可能性に、書いた後で気がつきました。
一応、「救ったと見せかけて地獄の底に叩き落す」という風に書いたつもりなんですけどね。
妖魔を怒らせると怖いという話(そんな話じゃないだろ

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