※悲劇・死にネタ嫌いの方は注意

         デジャ


過ちは、二度避けられるとは限らない。

ひどく既視感を覚える光景だった。
2人の少年が、己の大技を発動させんとチャクラを集中させる。
彼らの目は、お互いの姿を敵として映していた。
いや、これは知らぬものに対する既視感ではない。サクラはこの光景を知っている。
2年前の病院の屋上で放たれた千鳥と螺旋丸。
成長した今、同じことが繰り返されようとしている。
これは心のどこかで、また起きてしまうかもしれないと予想していたこと。
けれど、絶対に起きて欲しくないと思っていた。
ほとばしる憎悪と殺意が、肌に突き刺さっていく。
集結するチャクラは、もう今にも臨界点へと達しようとしている。
間をおかず、それらはぶつかるだろう。
お互いを殺すために。


“また、皆で一緒に……。”その期待は、ただの幻想に過ぎなかった。
私が描いた、ただの夢。
ささやかだけど、絶対に叶ってほしかったのに。


幸せだったあの頃の思い出が、走馬灯のようにサクラの脳裏を駆け巡る。
あの頃よりもはるかに強い千鳥と螺旋丸が激突するまでが、ひどくゆっくりに見えた。
ぶつかった時に何が起こるか。そんなことを考える余裕は、彼女にはなかった。
「やめてぇぇぇーーー!!」
サクラはためらいなく地を蹴り、2人の間に飛び込んだ。
それさえも、2年前と同じ光景。
『!』
急に視界に入ったサクラの姿に、ナルトとサスケが目を見開いた。
彼らにとっても、それはかつて見た光景。
(だめだ、止められないってばよ……!!)
勢いがついたそのチャクラを、いまさら霧散させることが出来るわけもない。
非情な力学の法則は、慣性のままに力と力を衝突させる。
間にサクラが入ったままの状態で。
高密度のチャクラの塊がぶつかり合い、その場にいた全員の視界を白い閃光が覆う。
爆風が細かな瓦礫を吹き飛ばす。
傷つき倒れていたサイとヤマトだけでなく、
術を放った本人達もその爆風に吹き飛ばされ後退する。
「……っ!」
なんという衝撃だろう。
寸前に飛び込んだサクラはどこに行ってしまったのか。
我に返ったナルトは、もうもうと立ち上る白い煙に必死で目を凝らす。
すぐに煙は薄れていき、見慣れた薄いピンクの髪の主が立っていた。
(サクラ……無事、なのか……?いや、だが……。)
離れたところでその姿を見たヤマトが、いぶかしげに眉をひそめた。
「ナル……ト……・?」
「サクラちゃん!!」
どうにか無事でいてくれたのか。
かすかに安堵を覚えたナルトが駆け寄ろうとしたその時、サクラの体が揺れた。
まるで糸が切れてしまったように崩れるサクラの体。
その体が血まみれであることを認識したナルトの瞳が、衝撃に凍りついた。
もはや指一本にすら指令を出せない脳の代わりに、体が勝手に動いてサクラの体を受け止める。
けれど受け止めるまでの時間が、とても長かった。
「サクラ……ちゃん……?」
「……サク・・ラ?」
先ほどまで殺しあっていた2人の声に、もはや勢いはない。
ただただ信じられないものを見るような目で、血まみれになったサクラを見るだけだ。
ナルトはまるで石になったかのように表情が固まり、
少し離れたところではサスケが呆然と立ち尽くしていた。
「わ・・たし……――。」
どうなっているのかと聞きかけて、サクラは途中で言葉を切る。
聞くまでもない。医療のプロである彼女には、今の自分の体の状態が嫌でもわかった。
「そんな……。」
「・・なんて……顔、……して・・んのよ。」
今にも泣き出しそうなナルトに、サクラは呆れたように笑った。
全身が悲鳴を上げているというのに、彼女はナルトを心配しているのだ。
「俺のことはいいから、自分の心配をしてくれってばよ!
早く、傷を……!!」
「……無理、ね。ここま……でなったら、自、力で傷を……・治す、ことは、不可能よ。」
力なく首を横に振って、自分でも驚く程冷静にサクラはつぶやいた。
これだけ傷が深いと、自己治療は不可能だ。
チャクラを練る事さえ出来ない状態で、どうして医療忍術が使えるのか。
もはや、死を待つほかに手は無い。
「そんな……!!」
ナルトが自身に他者を癒す力がないことを、これほど呪った時はないだろう。
目の前で大事な少女が弱っていくというのに、ただ体を抱えていることしか出来ないのだから。


これが夢だといってほしい。
とてつもない悪夢でも、夢なら覚めることが出来るから。
でも、血まみれの体は現実だった。


「ねぇ……サスケ、君は……ど、こ……?」
「……サクラ、俺はここだ。」
抑揚のない単調な低い声を聞いて、サクラの首がかすかにそちらに動く。
焦点が定まっているかどうかも怪しい瞳がサスケの姿を認めると、かすかに安堵したように細められる。
「……そう……2人とも……無事で、良かっ……ゴホッ!!」
どちらも倒れないでいてくれてよかったと、
そう思った時に真っ赤な鮮血がせきと共にあふれた。
ただでさえ大量に失われた血液が、残された生命の火と共にさらに失われていく。
2人を守れた代わりに、サクラは死ぬ。
もうわかりきっている事なのに、死神がしつこく追い立ててきているようだ。
『サクラ!』
「サクラちゃん!」
「サクラさん!」
ナルトもサスケも、冷静なヤマトも、いまだ感情に乏しいサイすらも叫ぶ。
ヤマトとサイは動けないが、その視線はサクラの方を向いている。
それぞれの叫びがサクラの耳に響き、彼女の顔が曇った。
結局、最後まで足を引っ張っただけかもしれないとサクラは自嘲する。
だが、何より心残りなことはそれではない。
「ごめ……んね。今度……は・・私、も一緒……にっ……て、言ったのに……。」
「そんなこと……言わないでくれってばよ!」
彼女に迫る運命はわかりきっている。
それでも、本人には認めてほしくはなかった。
自らの残酷な運命を認めるようなことだけは、言ってほしくない。
「それ、と……サス、ケ君……。
暗い、とこ……ろから、助け、てあげ……られ、なくて……ごめんね。」
「こんな時に、何を――。」
最後の最後まで、彼女はサスケを案じている。
そのあまりに深い思いに、暗く凍っていたサスケの心に何かが溶け込んだ。
動揺して揺らめく漆黒の瞳が、言葉にならない思いをたたえる。
眠っていた何かがざわめいた。


忘れていたはずの感情が、俺の中で波を立てた。
心の奥で、何かが叫ぶ。俺は、こんな結果を望んだことはない。と。


「……もう、一度……、7班の皆、……で、写真、を……撮りた、かった……なぁ。」
儚い笑みを浮かべてサクラがつぶやいたのは、ささやかな願い。
もはや二度と叶わないであろう、小さな望み。
その脳裏に浮かんでいたのは、班の結成後間もなく撮られた、あの集合写真。
幸せだったあの頃が、今はとても遠い。

小さな真珠が一粒、こぼれ落ちた。


過ちは、二度避けられるとは限らない。
悲しく愚かな争いは、慈しむべき命を黄泉路へ追いやるだろう。
気付いた時にはもう遅い。
そして過ちは、償うことすら許さぬ罪へと変わる。



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丁度サスケが復活した頃、原作でそろそろ誰かお亡くなりになるかなとか根拠もなく考えたり、
例の病院の屋上の決闘、もう一度起きたら間に入った奴は絶対死ぬなとか思ってました。
で、その結果できたのがこれです。ごめんサクラ。
最後のサクラの願いは、まあ妥当な線かなと思って設定しましたが。
あえてテーマをつけるなら、「救いようがない」とか「手遅れ」で決まりでしょうね。
それじゃやだって方は、反則+命以外助かってないでいいんなら、次の話をどうぞ。

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