はぐれ雲から群雲へ
                    ―6話・不自然な経歴―

しばらくは身の上話も含め、くつろいだ調子で4人は話していた。
とはいえ、真面目な話もしないわけには行かない。適当なところで、狐炎が話題を変えた。
「ところで鼠蛟。わしらは人柱力を探しているのだが、お前は何か知らぬか?」
「確実なのは、土の国のこれの故郷に一人。」
「どんな人だってばよ?」
鼠蛟がもらした早速の情報に、目を輝かせてナルトは身を乗り出した。
それ以上前のめりになるなと、狐炎がさりげなく手で制したことにも気付かない。
「う〜む、わしより10は上だったからの〜……確か代替わりしたはずじゃ。
中身はこいつと仲が悪い、えーっと……えーっと、何じゃったかのう?」
老紫がなかなか名前が出てこないでうなっていると、横から呆れた冷ややかな視線が刺さった。
「……老年性の、痴呆か?」
「う、うるさいぞい!おお、そうじゃった、確か犬じゃったな!」
「彭候(ほうこう)か。」
「そうだ。」
鼠蛟がうなずく。狐炎はふむ、と一言呟いてからこうたずねた。
「あやつがあそこか……。岩隠れの警備はどうなっている?」
「かなり、厳しい。基本的に、国民以外は入れないから。」
山地にある岩隠れの里は、里に入るために必要な条件が厳しいことで知られている。
里の大規模化に伴い、一般人の受け入れに寛容になった里は多いのだが、ここは違う。
他国からの依頼は、金銭の授受も含め別の町の出張所でのみ受け付けていて、
里内に入るには土の国に居住して2年以上経つという証明が必要だという。
それでも一般人が立ち入れない地区が多く、外部の人間を常に監視下におきたいという姿勢が露骨だ。
「そうなると、正面からでは無理だな。」
「じゃあ忍び込むとか?」
正攻法の侵入がだめなら、忍者らしい手段をとナルトは提案してみたが、狐炎は望ましくないという顔で首を横振った。
「情報が無ければ検討しようがなかろう。最近の詳しい情報は知らぬか?」
里の構成も戦力の配置状況も分からないのに、侵入もへったくれもない。
そこで鼠蛟に尋ねるが、彼も微妙な顔をする。
「……あまり。これは、抜け忍になって長いから。」
「しかも、土の国なんてここ10年は戻っておらんぞい。
多分、わしが居た頃と結構あちこち変わっとるし。田んぼが家になっとるとかされたら分からん!
旅をする老紫は、扱い上は単なる抜け忍だ。
土の国は当然岩忍がうようよしているので、よっぽどの用事がないと近づきたい場所ではなくなっている。
当然近況には疎いので、持っている土地勘さえももう当てに出来ないのだ。
「そうか、ならば仕方ないな。」
予想通りの回答だったらしく、狐炎の返事に落胆の色はない。
とはいえ解決にはならないので、ナルトも腕を組んで悩んでしまう。
「うーん……狐炎、どうするってばよ?」
「彭候とは会っておきたいところだが……私情を優先させては本末転倒だ。」
「あれ?もしかして友達??」
ぽろっと漏れた意外な呟きに目を丸くする。
付き合いは3年以上になるが、会いたくなるような友人が居たとは初耳だ。
「そうだが、それがどうかしたか?」
「……お前に、知り合いじゃなくて友達っていたんだって。」
「わしを何だと思っていた。」
割と直接的に交友関係の欠陥疑惑をかけられ、狐炎の目が氷よりも冷たくなった。
どうやらよほど発言がお気に召さなかったようである。
もっともこんな事を言われれば、別に彼でなくても不機嫌になって当然だが。
「あ、いや、そ、そんな深い意味は〜……。
あ、あああ謝るから!だから、睨まないでくれってばよ〜!!」
どうやら逆鱗に触れたと悟り、ナルトは土下座する勢いで平謝りした。
さっさと謝っておかないと、後で食事のランクが落ちる恐怖が待っているかもしれない。
「友人が居ないのは、むしろ彭候……。」
「それは置いておけ。で、他に何かめぼしい話はあるか?」
さりげなく悪意が光る鼠蛟の言葉を遮って、話の矛先を変える。
今は横道にそれた雑談ではなく、建設的な話をしたいのだ。
「そうだな……。」
「うーん……そういえば最近、ビンゴブックに載ったばかりの変わった子が居るぞい。」
「ビンゴブックに載ったばっかり?」
載ったばかりと言うからには、まだ若いのだろう。
流れで行くと人柱力の話だろうが、一体どんな人だろうか。
「おう、そうじゃ。若い女の子じゃが、いい値が付いとるぞい。」
「この娘か?」
すかさず狐炎がビンゴブックを取り出し、付箋で印をつけていたページを軽く確認してから机に載せた。
老紫が赤い印のついた枠の中の人相を確認し、うなずく。
「そうそう、この子じゃ!」
「あ、印付けてるし。」
「年の割に妙に戦果がよいから、候補としてな。」
彼は突出した実力者と思われる人間を中心に目星をつけていたのだが、ここで早速役に立つこととなった。
枠の中には、若葉色の髪に橙色の瞳を持った、褐色の肌の勝気そうな少女の顔がある。
髪の色は少し珍しいが、基本的にはどこの里にも居るタイプのように見えた。
老紫は、人相の横や下に記された概略に沿って説明を始める。
「何でも、いくつもの小隊と出くわして、いっぺんに吹っ飛ばしたらしいんじゃ。
なかなか出来んぞい?」
「吹き飛ばした?どのように。」
見た目がナルトと大差ない年頃で、複数小隊を退けるとは大した実力者だ。
とはいえ論点は人柱力の可能性という点なので、その際の方法が気になるところである。
「衝撃波か何かで味方ごと吹っ飛ばしたらしいぞい。超豪快じゃの!」
「味方巻き添えって、乱暴だってばよ……。
昔の我愛羅じゃないんだしさー。って、アレ入る?狸寝入り。」
「一応、巻き添えはすれすれで回避していたと思ったぞ。」
突き飛ばす乱暴なやり方ではあったが、兄弟をあらかじめ遠ざけてから発動していたのでその少女とは違うだろう。
「じゃあ入んないか。」
今は守鶴の意識が体外にいるから出来ないだろうが、
我愛羅の狸寝入りの術は敵味方の区別が野暮になるほど広範囲の破壊を可能にする。
事前に配慮をしないと、件の少女のように味方を巻き添えにするのは間違いない。
だから我愛羅は少々手荒な準備をしてから変身したのだが、
彼女の場合はその衝撃波を発する直前に、そういう配慮はしなかったのだろうか。
「何の話だ?」
いきなり出た知らない人間の名前を聞いた鼠蛟が、狐炎に質問する。
「守鶴の器の話だ。あやつも昔は味方を省みぬ戦いをしておったが、この娘はそれ以上と来たか。」
「衝撃波、ねえ〜……。風遁?」
ナルトは乏しい知識を絞って考える。
具体的な術名は思いつかないが、吹き飛ぶといえば風遁だろう。
あるいは、何らかの理由による爆発か。あまり術に詳しくないナルトには、その位が想像の限界だ。
「威力が高いことに間違いはなさそうだが。
しかしこれだけ味方を犠牲にしておいて、何の咎もないのは不自然だな。」
普通、こんな無茶な真似をしたら大問題になるはずだ。
だが、ビンゴブックにそれらしい記述はない。それどころか、その後も問題なく同様の任務に出ているようだ。
ちなみに似たような事で罰を食らった経歴を書かれた人間は、他の欄でごろごろしている。
それだけに彼女が余計に目立った。
「厳罰が、相場だと思う。」
「その通りだな。」
鼠蛟の呟きに狐炎が同意する。
いくら任務を遂行しても、人材をこんなに無駄遣いされては組織はたまらない。
普通なら降格などの厳格な処分を下して、しかるべき懲罰を与える。
状況の酌量が加わったとしても、最低でもしばらく謹慎処分だろう。
最小の犠牲で最大の効果を上げるのが理想であるからして、どんなに強くてもこれでは兵として失格だ。
「それにこの子が居る滝隠れは、ちっこいくせに最近大規模な作戦も積極的に手を出しているらしいぞい。」
滝隠れは小国に属する里である。他国に名を轟かせるような忍者が多数在籍するわけでもない、普通の隠れ里だ。
ちっこい癖にと老紫が言うような、身の丈にあわない依頼に手を出しているという事は、
恐らく取って置きの武器があるのだろう。
「って事は、つまり?」
「人柱力……。」
「その可能性が出てきたな。」
たった一人で戦局を切り開く力を持つ存在が居るとすれば、規模に不釣合いな強気な態度も納得がいく。
彼女に対する処分の甘さも説明が付きそうだ。
「さて、そうと分かれば早く詳細を探らねばな。また裏の筋から聞くとするか。」
表に流れていない情報を探すなら、それが一番手っ取り早い。
この間ビンゴブックを手に入れたときのように、狐炎はまた情報屋にいくことを決めた。
「何じゃ、お前さん達もう行くんか?」
まだ席を立ったわけではないが、せわしさを感じた老紫が不服そうに言った。
「いや。もう1つ話したい事がある。暁を知っているか?」
「暁……ああ。」
耳にしたことはあるらしい。鼠蛟が訳知り顔につぶやいた。
「あいつら、おれ達人柱力を狙ってるんだってばよ。
ほっといたら危ないから仲間を探してるんだけど、じいちゃん達も一緒に来ない?」
鼠蛟の反応を仲間にするチャンスと見て、ナルトも積極的に誘いをかける。
「わしは構わんぞい。何しろもう何十年、この陰気な鳥と旅して飽きてたところじゃ!
お前も知り合いが居るんじゃし、いいじゃろ?」
待ってましたとばかりに、老紫は二つ返事で快諾した。同意を求められた鼠蛟も首を縦に振る。
「そうだな。我も、馬鹿ジジイは飽きた。」
「何じゃとー?!」
「ま、まあまあじいちゃん落ち着いて!」
手酷い毒舌にむかっ腹を立てた老紫が鼠蛟の胸倉を掴んだので、慌ててナルトがとりなす。
もっとも捕まれた方はちっとも慌てず、簡単に引っぺがして突き放した。
「ともかく話は決まったな。道中頼むぞ、鼠蛟。」
「こちらこそ。多分ジジイが、迷惑をかけると思う。」
とんとん拍子に、一行は4人に倍増した。この 勢いに乗って、早く次の仲間へと行きたいところだ。
そういうわけで、話がまとまったところでさっさと注文したものを腹に放り込み、勘定も済ませて茶屋を後にした。


―忍者専門情報屋―
昼は比較的閑散としている店に入り、
狐炎がビンゴブックの件のページを店主に見せると、すぐに彼はピンと来たようだった。
「あー、こいつか。」
「知っているのか?」
「最近、一気に値が釣り上がったんで注目株だ。緑のむじなを連れてる嬢ちゃんさ。」
「緑??」
どんな緑かは分からないが、植物じゃないんだからとナルトは思う。
むじなと言えばアナグマの別称である。普通、彼らは狸とよく間違えるような茶色っぽい毛色のはずだ。
緑の変種なんて聞いた事もない。
「変な色だろ?そいつがいつもちょろちょろしてて、多分口寄せ獣なんだろうな。
そこには載ってないが、この辺じゃ有名さ。時々、嬢ちゃんにくっついてこの辺を通ってくらしいぜ。」
「へー。」
この辺りを実際に通りかかることもあるのだろうか。
ナルトは自分と年頃の変わらない少女が奇妙な動物を連れている光景を想像しつつ、相槌を打った。
「そのむじなについて、何か話は無いか?」
「そう言われてもなぁ……土遁をちょっと使うって、それくらいだな。」
どうやら店主はあまり詳しいことを知らないらしく、もみ上げの辺りをかきながらそれだけ口にする。
「なるほど。分かった、感謝する。」
狐炎が口の端を片方上げて笑う。たったこれだけの情報で、もう何か確証を得たようだ。
その反応は、ナルトや老紫にとってはもちろん、店主にも意外に映る。
「あれ、これだけでいいのか兄さん?」
「手がかりとしては十分だ。では。」
去り際に小金をカウンターに置いて、狐炎はきびすを返した。
鼠蛟も訳知り顔で、同じようにさっさと出て行こうとする。
『?』
緑のむじなのどこが重要なのかいまいち分からないナルトと老紫は、揃って首をかしげた。
何か内輪でだけ通じるネタの一種には違いない。そこで、町を離れ街道に出てから聞いてみる。
「なーなー、緑のむじなって何?」
「人柱力の、証拠。」
ナルトにたずねられた鼠蛟が簡潔に答えた。
もちろんそれだけでは分からないことは分かっているので、さらにこう続ける。
「我らの同輩か、その血縁、あるいは直属の部下だと思う。
妖魔のむじなは、土の術が得意。体色を考慮すれば、間違いない。」
「確かにそんなみょうちくりんな色、化け物以外なさそうじゃのー。」
「で、誰の人柱力?」
老紫が納得したそばから、今度はナルトがたずねた。妖魔の名前を聞いてもどうせ分からないが、気になるので聞いておく。
分からなければ説明してもらえばいいだけの話だ。すると、今度は狐炎が答える。
「土を司る狢(むじな)の王・磊狢(らいば)。娘は恐らく、あやつの器だ。」
「どんな奴なんじゃ?性格悪いんか?」
もう性格が悪い事は規定路線らしく、当然のように老紫が言った。鼠蛟がげんなりした顔になる。
「……一言で言うと、変態。」
『え゛っ。』
どう変態なのかさっぱり分からないが、知り合いがこんな顔をするのだからろくでもないのだろう。
性格が悪いのと、どっちがマシなのかは不明だが。
ともあれ、一気に先行きが怪しくなったような気がした。


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前回登場した2人がパーティに加入しました。次のコンビの登場も、割とすぐの予定です。
中身の人柄を教えてもらった人間2人がドン引きしてますが、どの程度の変態かは登場までのお楽しみとして。
今まで名前しか出てこない暁の動きも、本人達が出るかは別として書いていきたいなと思います。
どこそこでどうしてるらしいとか。
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