はぐれ雲から群雲へ
                    ―21話・熱風が吹く里―

遥地翔でたどり着いたのは、砂の里からかなり離れた辺り。街道から逸れた砂漠の真ん中だ。
里は見えるが、建物が小さく見えるほど遠い。
街道の方を見やれば、歩いている人々の姿がこれもまた小さく見える。
「あっつー……いきなり放り出されると、きっついなあ。」
「もっと町の近くには出れなかったの?」
突然の熱気に晒されて、一瞬人間2人はめまいを覚える。砂漠の手荒い歓迎だ。
立ち上る熱気で、一気に不快指数が上がった。
「砂の里には、わしも直に来たことがないのだ。諦めろ。」
遥地翔が記憶にない土地に行けないという法則にのっとれば、
お世辞にも目的地に近いとは言いがたいここが、彼の知る限りの最寄り地のようだ。
「えー。狐炎は、守鶴と昔あっちで会ったりしなかったっけ?」
「あいにく、こちらに来る時は奴の居城で会っていたのでな。
いちいち不都合なあそこの住まいは使っておらぬのだ。」
狐炎は術を使わないと話も気兼ねする我愛羅の家は避け、用事があれば行き慣れた守鶴の本拠地を選んでいた。
だから、砂の里には行った事がないのだ。
守鶴に会いにいく用事を抜いてしまうと、砂の里に立ち寄る理由は1つも残らないので、それも当然なのである。
「それに、いきなりお家の中に行って、出た先に人が居たら大変だもん。
どうせ暑さに慣れないといけないんだし、頑張ろうよ。ね?」
「はいはい、ここまで来たら諦めますよーだ。」
磊狢に言われるまで考えないようにしていたが、この暑苦しい普通の砂漠以上に目的地は暑いのだ。
これ位でへこたれていては、灼熱砂漠には立ち入る事すら適わない。
「ここで体を慣らしといたら、あっちでも何とかなる?」
「いや、慰めにもならぬな。あそこがいかに過酷か、昨日も話しただろう?」
「聞いてたけど、砂漠自体ほとんど来た事ないし、そもそも岩砂漠ってのがまだイメージつかないってばよ。」
砂漠と言えば、今周囲に見えるような一面の砂地という先入観があるので、
岩しかない暑い荒地がどんなところか、ナルトはちゃんと分かっていない。
「そもそも気温……えーっと、60度だっけ?あれがアタシ分かんない。
ここだってもう死にそうな位暑いのに、これより暑いって何なの?」
ありえない。と、フウがぼやいた。
昨日妖魔達から聞かされた時には話半分だったが、暑さがいかに常識外れか、彼女もやっと身にしみてきた。
上には上があるとはよく言う言葉だが、考えるだけでめまいを覚える。
「でもさ、守鶴に頼めばもっと涼しい所通れるって言ってたじゃん。何とかなるってばよ!」
「でも、そっちもここと同じ位暑いって言ってなかったっけ?」
フウの肩を叩いて励ますナルトが、一瞬絶句した。
「……うん。」
「超憂鬱なんだけど……アタシ、生きて帰れる気がしない。」
熱を溜め込む溶岩石が地層に詰まっているせいで、かの地は夜でも気温が40度を切らない。
その熱気は話によれば地下にも及び、やはり暑いという。
地下は日差しがないだけで、この鉄板の上のような熱気からは逃げられないのだ。
フウは正直に言って、かなり先が思いやられた。


「灼熱砂漠だと?!」
「が、我愛羅……そんなびっくりしなくてもいいってば。」
人払いを済ませた執務室で対面し、ナルトから事情を話して早々のこの反応。
突然の依頼だから驚くだろうとは彼も予想していたものの、実際の我愛羅の反応はそれ以上に大きかった。
「いくら妖魔がついてるからって……雷影殿は正気か?
俺達でさえ、あそこへ行く依頼は問答無用で却下するぞ。」
「えっ、そうなの?」
「もう聞いてるだろうが、あそこは人間が行ける所じゃない。まったく、何で……。」
「だから、守鶴に相談しに来たんだってばよ。何とか出来るって言うからさ。」
ぶつぶつと言い連ねる言葉をさえぎって、ナルトはそう持ちかける。
「でも、かー君居ないね。もしかして奥さんの所行っちゃった?」
広い部屋を軽く見回す磊狢の目には、守鶴の姿は入ってこない。
居ればすぐに分かるはずなのだが、この間彼がさらっと紹介した加流羅の元へ行ってしまったのだろうか。
すると、我愛羅が首を横に振った。
「母さんは嫁じゃない。……まあ、それはそうと残念ながら今は留守だ。」
『えーっ?!』
ナルトとフウ、ついでに磊狢の口から声が上がった。
「いやー、申し訳ありません。うちの大親分は、この間から木の葉に行ったきりでして。
まだお戻りになられないんですよ〜。」
我愛羅の机の近くに控える留守番の砂狸が、困った様子で事情を説明した。
それを聞いたとたん、ナルトの眉が引きつる。
「我〜愛〜羅〜?おれがこの間さぁ、気をつけろって言ったばっかりじゃなかったっけー?」
思わず机に乗り出して、至近距離から半眼で親友をにらむ。これには我愛羅も目が泳いだ。
先日の忠告を無碍にしてしまった以上、彼の立場は劣勢止む無しである。
「お前も人使いが荒いな。あやつがうるさかろうに。」
この所業には狐炎も呆れ、はあっとため息を付いた。
彼は先日の仕事の件は覚えていたが、あれから1週間以上も経ってまだ終わらないような仕事とは思っていなかった。
表向きの立場があるとはいえ、守鶴も良く我慢するものだという感想が湧く。
「いや、ご心配は無用だ。」
「我愛羅はちょっと位気にしろってばよ……。まあいいや。いつ帰ってくるわけ?」
「明後日だ。」
不運は続くものである。空気がどんよりと重くなった。
「……またおれ達ってば、泊まり?」
「そうも行かぬ。あまりこちらへの滞在は延ばせぬぞ。そこの狸、主人への取次ぎを頼めるか?」
待機している砂狸の男に、狐炎が話を振る。彼は即座にうなずき、大きな尻尾を緩く揺らす。
「へいっ、ただいま。えーと、ご用件は灼熱砂漠への立ち入り関係だけでしょうかね?」
「あ、後もう1個!玉璽がいるからって言っといてね。」
「灼熱砂漠に玉璽ですか。確かに承りやした。では!」
直後に呪文を唱えた砂狸の姿が周囲の歪みと共に消える。木の葉に居る主人の元へ、すぐに連絡が付く事だろう。
いったんは足止めを予想して落ち込んだ空気も持ち直す。

そうして待つ事、ものの10分足らず。先程の砂狸と一緒に守鶴が現れた。
すぐにやってきてくれたのは嬉しいが、喜ぶのは早計である。
何しろただでさえ傾斜がきつい眉がさらにつり上がり、今にもそこいらのごろつきの胸倉を掴んで締め上げそうな顔だ。
言うまでもなく、機嫌は悪い。うかつな事を言ったら、即火の粉が飛んでくるだろう。
「っとに次から次に面倒事持ってきやがるよな〜〜ぁ、てめぇらはよ。」
(露骨に機嫌最悪だってばよ……!!)
予想はしていたが、鬼のような形相にナルトでさえ引く。
大概怖い物知らずで一言多くなりがちな彼であるが、今は黙っておいた方が賢明と本能で悟る。
「ごめんね〜、かー君に恨みはないんだよー。だってさ、雷影おじさんがわがまま言うんだもん。」
「だからっていきなり呼びつけんじゃねぇよ!
こちとら腐れまゆなしのせいで、過重労働強いられてんだぜ?!」
「何してるか知らないけど、そんなに大変なの?」
怒鳴り散らす守鶴に、ある意味ナルト以上の怖い物知らずが首をつっこむ。
しかしこんな時でもフウの性別は幸いし、かっかしていた彼の声音は次の言葉からころっと変わった。
「そうだぜ〜。何しろ、こいつのお守りに自分の執務がかぶってくんだ。
ったく、ろくに嫁と愛を語らう暇もねぇってことよ。おかげで加流羅には、寂しい思いをさせちまってなぁ。」
「マジで?狐炎は、そんな事無さそうだってばよ。」
ふざけ半分のこれ見よがしな語り口を差し引いても、
確かに我愛羅からよこされる仕事に加えて、自分の実家の仕事まで来るのでは大変だろう。
しかし、一緒に旅している狐炎や磊狢、鼠蛟にそんな様子はない。ナルトは少し不思議に思った。
「旅暮らしではろくな政務は執れぬ。だから、重要なもの以外の決済は向こうに任せてある。
定期的な報告は来ておるぞ。お前達が休んでいる間にな。」
「うちもナル君達と一緒になってからはそんな感じ。滝隠れに居た時は、ちょこちょこ書類仕事したけどね。
という事で、定住してるかー君は……ふう〜。」
なるほどそういうからくりかと、疑問を呈したナルトも納得の説明だ。
確かに根無し草状態の主に出来る仕事なんて、あまりなさそうである。
するとここでフウは我愛羅に思うところがあったようで、口を開く。
「アンタさー、さすがにそれって可哀想じゃない?」
『え?』
こいつに可哀想?という疑問で一致した我愛羅とナルトが、声を揃えて聞き返す。
彼女の意見は彼らにとって斬新だった。
「えって何?アタシ変な事言った?」
「いいんだ。どうせこいつは飲む打つ買うの傍若無人。こっちも色々と迷惑を被ってるんだから、相殺だ。」
我愛羅の日常を知らないフウには分からない事だが、守鶴との生活は真面目な彼にとって非常に我慢ならない事も多い。
しかし、具体的な行状を教えたわけではないので、彼女はきょとんとした顔をする。
「そうなの?よく分かんないけど、アンタ達も仲悪いねー。
何か男同士ってだめみたいだけど、ちょっとは仲良くすれば?」
チラッとしか見ておらず判定外の雲隠れの2ペアを除いたら、尾獣と人柱力のコンビは揃いも揃って仲が悪い。
ナルトと狐炎にしろ、老紫と鼠蛟にしろ、日頃相方に飛ぶ文句が罵り文句である。
率直な感想だったのだが、何故か彼女に向けられるナルトと我愛羅の目が妙に優しくなった。
「フウ……男には、譲れない価値観って奴があるんだってばよ。」
「そうだ。そこが相容れない相手とは、とても親睦を深められるものじゃない。」
珍しく深い含蓄の匂いさえ漂うナルトの言葉。我が意を得たりと、我愛羅は大いにうなずく。
「だまされんなよ嬢ちゃん。んなご大層なもんじゃねえ。
単に気に入らねえってのを、大げさに言ってるだけだからよ。」
「ちっ……。とにかく、用件に戻ろう。
灼熱砂漠での溶岩石採取と、俺の印、それからこいつの玉璽が欲しいって事だったな。」
口喧嘩でのされる前に、我愛羅は素早く話を本題にそらす。
「そうそう。それが雷影おじさんのお願い。」
「しっかし玉璽を寄越せかよ。人間如きにしちゃ、ずいぶんご大層な注文じゃねぇか。」
「向こう……雲にいたのが、鈴音と皇河でな。皇河め、雷影にわしらの正体を暴きおった。
やり取りを察するに、雷影の身内が奴の器のようだ。」
「なるほど。それで事情を探るためにそんな事を。」
里長が妖魔の事情を知る立場にあったのなら、妖魔の王の印である玉璽を要求する事もうなずける。
雷影は我愛羅がナルト達にどれだけの信用を置いているのか、
人柱力と接触を取れるかという点で量ろうとしているのだろう。それを我愛羅は理解した。
「でさ、やってくれる?」
「印が必要ならいくらでも押そう。それより問題は砂漠だ。
本当にあそこでないと駄目なのか?溶岩石なら死の砂漠辺りでも取れるぞ。あそこもかなり暑いが……。」
死の砂漠は灼熱砂漠と同じ方角にある砂漠で、これまた他より暑いという場所だ。
こちらも過酷だが、まだ人間が立ち入れる見込みがある。
「あいにく、他では質が良くない。かなり奥地に行けば別だが、それでは片道に2日はかかる。」
「そうか……それだと、ナルトとフウが一緒だとつらいな。あそこも消耗が激しいところだ。」
死の砂漠は名前の通り、何人もの旅人の命を奪ってきた砂砂漠だ。
少し道を間違えれば、問題の灼熱砂漠に迷い込んでしまう点も恐ろしい。
今回の場合に問題なのは、うろつき回る時間が長くなり、先方が満足できる品の入手に手間がかかってしまうことだ。
時間が長引けば、砂漠に慣れていないナルトとフウにかかる負担は計り知れないものとなる。
「だから、灼熱砂漠の地下道を使いたいんだってばよ。守鶴が知ってるって言うからさ。」
「地下道なら通してやるよ。でなきゃてめぇら人間は、あっと言う間にお陀仏だ。
1里どころか1キロも持たねぇ方に、1万両賭けてもいいぜ。」
「やめろ、縁起でもない。」
ニヤニヤ笑って一万両分の札をちらつかせた守鶴に対して、狐炎が眉をひそめた。
彼がいったん金を賭けると、博打の要領で一山当てられるからたまった物ではない。
「で、お前に1万両賭けられずに済むには何が要る?」
冷静に我愛羅が問うと、少し考えてから守鶴が口を開く。
「地下に行くから、水は素人がよその砂漠に行く時の3割増し位でいいだろ。
飯はすぐ傷んじまうから、予備の水と一緒に召喚用の印付けて部屋に置いかねぇとな。」
「何か大がかりっぽいね。」
食料1つ、水1つの扱いも、普段の旅路とは勝手が違っている。
荷物を運ぶ負担や手間を増やさない事が、かなり大事になってくるのだろう。
出来るだけ身軽にしておこうという意図が読み取れた。
「当たり前だねー。砂漠って怖いんだよ〜。」
「特にそこの2人は、根本的にこの酷暑に耐性がなっておらぬしな。」
温暖な木の葉の里や滝の里で育ったナルトやフウは、砂漠の暑さに不慣れだ。
そんな身で土地の人間も逃げ出す場所へ行こうと言うのだから、案内側も念入りな支度になる。
「うぐぐ……そう言うお前らは?」
「この程度の暑さで死にはせぬ。かといって、灼熱砂漠に好んで行きたいとは思わぬがな。」
妖魔は頑強な体なので、気温の高低で生死の心配はまずしない。
ただ、育った環境や種族で得手不得手はある。
火を操るとはいえ、狐炎も直轄地が火の国領土なので、砂漠の極端な環境は好きではない。
「あそこは岩ばっかりだもんね〜。あんまり面白くないよー。」
「オレ様達砂狸の聖域に向かって、ずいぶんじゃねぇかあ?おいドMむじな。」
尻馬に乗って悪口を言った磊狢に、また機嫌を悪くした守鶴がすごんできた。
彼の地は文字通りの灼熱地獄だが、守鶴とその眷属にとっては重要な土地なのだ。
「えー、だってぺんぺん草も生えてないじゃーん。」
「あんな軟弱な草が生えるか馬鹿。」
「いや雑草だってばよ、あれ。」
砂漠でも育つ多肉植物に比べれば暑さと乾燥には貧弱だが、
ぺんぺん草ことナズナは温暖な土地ならどこにでもある丈夫な雑草だ。気候穏やかな暖地育ちには釈然としない。
とかく常識外に生きていそうな印象の守鶴には、言っても無駄な事かもしれないが。
「ああそうだ、まゆなし。」
「何だ?」
「オメーも連れてくからな。覚悟しとけよ。」
立派な嫌がらせされているはずなのだが、我愛羅は意外にも黙ってうなずいた。
「えっ、何で我愛羅まで?風影の仕事はどうするんだってばよ。」
「仕事は大丈夫だ。もう今日の分は終わっている。それに、お前とフウが心配だからな。」
こいつだけだと、という注釈は賢く省略し、我愛羅は当然と言う態度で答えた。
「だとよ。」
(……さては守鶴、長期赴任で力の目減りが気になったな。)
(があ君の反抗期が酷いんだよ……。)
ひそひそと妖魔2人が話す。偽体は力の供給源から一定距離離れると、供給が断たれてしまう。
我愛羅と離れる事が多い守鶴は当然対策を講じているだろうが、充填チャンスを逃したくないに違いない。
護衛の都合とも取れるが、それなら留守番を預かるさっきの狸で十分だ。
「えー、でも危ないんでしょ?いいの?」
「ああ。さっき、ナルトに怒られたばかりだしな。」
フウに言われるまでもなく、本来なら里が仕事を請けない程危険な場所に、里長自らというのは大胆だ。
確かに一緒に居るようにという意味で叱ったが、しっくり来ない展開である。
「あれは今日限りじゃなくて、ずーっと気をつけて欲しい事だってば。分かってんのか?」
「分かっている。だから、今から実践すると言うわけだ。」
「うーん……何かごまかされた気がするってばよ。」
真面目な我愛羅に何かおかしいかと顔で語られてしまったら、ナルトは何となく追及の手が緩んでしまう。
それでも渋い顔をしたまま、ぼやく事は忘れなかった。


一方その頃。木の葉の火影邸の小さな会議室では、不穏な空気が漂っていた。
そこで行われているのは、火影の綱手、相談役のホムラ・コハル、
そして暗部を養成する根という組織の長であるダンゾウを交えた話し合い。
ナルトの件が議題であるが、その途中で相談役から出た提案に綱手の柳眉がつりあがる。
「ふざけるな!追い忍を追加するだと?!」
「そうは言うが、事は人柱力の逃亡じゃ。未だに見つからない以上、仕方ないだろう?」
渋い顔でコハルが諭す。綱手の物分りが悪いと腹を立てているらしく、声が少し荒い。
眉間のしわが深いのは、加齢によるものばかりではないのが明白だ。
「だから、言ってるだろう!元々ナルトは逃げたわけじゃない。
戻れない空気を作ったのは里の方だ。だから、身の危険を感じた自来也が逃がしたんだぞ?!
そこにこれ以上追っ手を出すなんて、私は反対だ!」
「だが、表向きはこの通りだ。真実を住民に説明出来ない以上、他に納得させられないぞ。」
ホムラの顔も渋いが、こちらは現状を諦めたという様子だ。
最近の実務で心労が溜まっているのか、あまり顔色が優れない。
「そうだ。ここでしっかりと規範を示さねば、下の失望は避けられん。
大体、よそからもこのように馬鹿にされている。恥ずかしくて仕方ないとは思わんのか。」
これ見よがしにダンゾウが机の上に差し出してきたのは、緋王郷から来た書簡。
冒頭を一見すると内憂に悩む木の葉を見舞っているように読めるが、
全文を要約すると、上も下もろくでもない木の葉からナルトが逃げるのは当然だという嫌味が書いてある。
わざわざこんな物をという事で、届いてすぐに綱手以下木の葉の上層部の怒りをあおった代物だ。
「お前達……!」
同調したホムラとダンゾウに対し、キッと綱手は鋭い視線でにらみつけた。
「呆れたぞ、姫よ。儂はてっきり、即日で暗部を出したと思っていたのだがな。」
「上忍と中忍の部隊は出したし、砂からも捜索協力は得たさ。」
ダンゾウの嫌味につっけんどんな返事をする。綱手は対外的に必要な初動をおろそかにしたつもりは無かった。
しかし、それで引っ込むならそもそも彼はここでつつかない。
「甘い。少なくとも初動で、暗部を一小隊だけでも出すべきだった。
名目はそれこそ、お前の好きな捜索とやらでもな。」
「だが、それでは結局ナルトへの心ない噂の裏付けになってしまう。
だからその前に、噂を何とかしようと動いた。」
ただの捜索に暗部が出ることは滅多にない。火影が何も言わなくても、里の民はただ事ではないと思うだろう。
綱手はそれを危惧して、先に噂の出所などの調査を優先させた。
「残念だが、それは自来也の単独帰還で台無しになったな。
まあ、暁の下部組織が潜り込んだという件さえなければ、そもそもこんな面倒にならなかった事なら、儂も同意しよう。」
木の葉周辺のみならず、内部にスパイが入り込んでいたら、今後ナルトの身の安全に重大な危機が迫りかねない。
だから師匠の自来也は、自ら徹底的に里と周辺の安全確認に勤しんだ。
ところがその動きは、事情を知らない里の人間の不安をあおってしまった。
不安はいつしか封印が危ないという噂を生み、かえってナルトにとっての脅威を増やしてしまったのだ。
「お前直々の声明も、事態収拾には役立っている気配がない。
もう指名手配もかけているし、早く捕まえねば……。」
ダンゾウが言い掛けたところで、ドアを叩く音が聞こえた。
「綱手様。中央より、使者の方がお見えです。」
「通せ。」
声の主は、綱手の側近のシズネだった。中央からの用件とは何だろうか。
「失礼する。」
入ってきたのは、刀を差し赤い鎧をまとった眼光鋭い侍だった。
「遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました。今回はどういったご用件でありましょう?」
「急に尋ねてきて申し訳ありません。殿の使いで参った次第であります。」
「殿の?」
「はい。火影殿、及び上役の多数の方々は、至急登城をするようにという、殿のご命令が下りました。
これは最優先の命令とし、拒否はまかりなりません。
必ずこちらが決めた日程通りに登城しなければ、処罰も辞さないとの事でございます。」
「何と……そんなに急ぎで、一体何を?」
普通なら必ず日程の調整を打診してくるはずなのに、横暴な言いようだ。
場に居る面々は、聞き返したホムラも含め全員が面食らっていた。
「あなた方木の葉隠れの里の今後に関わる、重要な会議です。これでお分かりでしょう。」
否応無しに場の空気が凍りつく。この説明で呼び出しの理由が分からないものは、ここには居なかった。


―前へ―  ―次へ―  ―戻る―

しばらくぶりに一尾コンビ登場。我愛羅は狸使いが荒いです(※一部私怨
灼熱砂漠の登場は次回持越しですが、相変わらずな面々とは温度差のある木の葉のその頃も入れました。
原作だといまいち仕事してなさそうなお殿様が、ちょっとご機嫌斜めな様子という。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送