はぐれ雲から群雲へ
                    ―18話・女幹部と風流人―

天井が崩れ、壁も崩落しかかった砦の最奥部。そこは至る所に激しい戦闘の爪跡がくっきりと残されている。
崩れ落ちた瓦礫は真っ黒に焦げ、床は原形を保っているものの、ひび割れが多数走っていた。
そして、露出が少ない忍者装束に身を包み、長く淡い金髪を乱したまま壁に磔にされた血まみれのくノ一。
今この場で動いているのは、彼女を倒した黒いマントの男達だけだ。
「ふ〜ぅ……散々てこずらせてくれたぜ。なあ?」
得物の三連刃の赤い鎌を軽く振り回しながら、自分の体がぼろぼろなのも気にせずに飛段が立ち上がる。
腹部には大きな刺し傷があるのだが、それを気にしている様子はない。
彼にとっては怪我よりもオールバックにした銀髪が乱れた方が重要らしく、軽く手で撫で付けて整えていた。
戦闘に使ったと思われる丸と三角を組み合わせた単純な円陣が、彼の足元でたっぷり血を浴びている。
「さすがに隙を作るのも一苦労だったな……砦1つまとめるだけの事はある。」
相棒に答える角都も、ここまでの多数の相手と手強かったらしい人柱力の相手で、それなりに消耗しているのだろう。
倒した相手へ送る評価の言葉には、少しばかり疲労の色がにじんでいた。
熟練の忍者同士の激戦により、力の温存を度外視した戦いを強いられたのかもしれない。
「とにかくさっさと拾って、押し付けてこようぜ。そんで、この間逃しちまった七尾を探さねーと。」
今倒したくノ一をアジトの仲間に引き渡したら、今度は先日振り出しに戻ってしまった方の捜索が待っている。
まだ気を抜いてもいられないのだ。
「捕まえたら終わりじゃないぞ。忘れたのか?」
「封印だろ?分かってるって。」
物覚えに自信があまりない飛段だが、この後の手はずなら確認されるまでもない。
子供扱いするなとばかりに、返事は投げやりだ。しかし、角都は別に怒らなかった。
「そうか。なら、俺達がいますべき事も分かってるな?」
「……おうよ。おらぁ、出て来いねずみ共!」
こちらに向かっている人間たちの気配や音に、当然2人は気付いていた。
飛段が赤い鎌を勢いよく振り回し、気配があるとにらんだ壁に命中させる。
当たった壁はもろく崩れたが、手応えはない。どこだと首を巡らせる暇もなく、床のコンクリートが突然砕けて陥没する。
飛段が描いた術の陣も崩れ、たちどころに形を失った。
「飛段!!」
「うわっ、今度は何だよおい?!」
飛段が転がるようにかわすと、今まで立っていた場所やその周辺の裂け目からマグマの壁が噴出し、猛烈な勢いで天井の高さまで噴き上がる。
「やっかいなっ……!」
「くっそ、塞がれちまったじゃねーかよー!」
人柱力と距離を置いていたのが災いした。ちょうど分断される位置を塞がれてしまい、飛段は歯軋りした。
そこに、崩落した壁の隙間を縫って二手からクナイと長い針が雨のように飛んでくる。
もちろん2人ともそれぞれにかわし、あるいはいなす。うっとうしくはあるが、彼らにとっては牽制以上の意味は成さない。
「しかしいつの間に援軍を……4、いや5人以上か?」
雑魚は残らず死亡あるいは戦闘不能に追い込んだはずなのに、一体いつの間に助けを求めに出て行ったのだろうか。
あるいは、異変に気が付いて通りがかりの忍者が駆けつけてきたか。
角都は様々な可能性に思いをめぐらせた。
「とにかく、とっととやっちまわねーと!角都、まだ戦えるだろ?!」
「追い払わない事には、人柱力も連れて行けないからな!」
飛段に言われるまでも無く、敵に対して排除以外の選択肢はありえない。
角都は瓦礫を吹き飛ばすため、マグマに塞がれていない方向へ向けて強烈な風圧を生む術を発動する。
壁が吹き飛び、巻き込まれかけて逃げたらしい人間の足が見えた。
「そこか!」

吹き飛んだ壁と、追撃で放たれた丸太のように太い水流から逃れ、ナルトは息を潜めた。
当たれば地平線まで吹き飛びそうな強烈な攻撃と、敵の位置を確信して吼えた角都の声にはどきりとしたが、慌てず反撃の機会を伺う。
別の物影からその様子を見ていた老紫は、仲間の次の一手を促すために再び術を使った。
―熔遁・溶岩柱!―
「またか!」
吹き飛んだ壁の穴の前に立ちふさがる角都が、邪魔をするマグマの柱に舌打ちする。
威力の高い水遁で勢いをそぎにかかるが、マグマを消すためには否応無く時間とチャクラを消費する。
―影分身の術!―
相手が視界を塞ぐものにてこずっているうちに、ナルトは手早く20体ほど分身を作り出す。
だが、すぐには物影から出させない。
(舞手を彩る篝火よ、魅惑の舞台の華となれ。妖術・火幻演舞劇。)
分身達を、狐炎が幻で大きな炎の姿に見せかけた。
そのまま彼らだけが付近にあった別の壁の隙間から飛び出し、矢継ぎ早に次々飛び掛って波状攻撃を仕掛けていく。
「ちまちまうっとうしいんだよ、こらぁっ!」
分身が化身した踊る炎は、生き物の動きでまつわりつく。豪快に三連鎌を振り回して難なく消すが、数が多く切りはない。
―へん、いくら弾いたって、次をどんどん出してやるってばよ!―
いつまで冷静に弾けるか見物である。ナルトは狐炎に目配せした後、また印を結ぶ。
作った端から狐炎が先程の術をかけ、新たな炎の分身が生まれていく。
「新手がどんどん押し寄せて来るぞ、気を抜くな!」
角都は水遁でマグマや分身に対処しながら、相棒にも目を配る。
「分かってるって!」
相棒に頼れない事は分かっている飛段は、鎌一本で角都よりはやや少ないものの確実に分身を消していた。
しかしチャクラもしくは妖力なら有り余る2人のえげつない連携により、
潰すペースを上回る速度で炎の分身は生まれ続ける。徐々に包囲網が分厚さを増していく。
―姿を見せないまま終わらせる気か……。
どうにか引きずり出さない限り、こっちが消耗する一方だな。―
角都は手を休めずに、状況を判断する。
悪い事に、先程人柱力を含む忍者達と交戦してチャクラがかなり消費されている。
これらをまとめて鎮火させるような大掛かりな術を使う事は出来ない。
飛段の術のための陣は平地でないと描きようがないし、今は自分に降りかかる攻撃を払うだけで手一杯とあまり当てにならない。
向こうは明らかにこちらを消耗させる戦法で攻めてきており、長引くほどに不利になるのは明白だ。
こうしている間にも、次の手を仕掛けてくる恐れがある。しかしじっくり考える暇はない。
「チィッ!」
取る物を取って逃げれば勝ちと、
角都が人柱力側のマグマを消そうというそぶりを見せたとたんに、割れた地面から次々と飛び出す岩の槍。
この砦の惨状を知りつつ勝負を仕掛けるだけあってか、全くもって抜け目が無い。
避ける暇に、これ幸いとばかりに炎の分身がどんどんマグマの壁に集まって始末を悪くしてくれる。
向こうの方が絶対的な手数が上であるからして、こちらが少しでももたつけばそれだけであちらが有利になると言うわけだ。
頭では角都も分かっているが、腹は立つ。そして、そこに更なる追い討ちが掛かった。
「……?」
「何だぁ?」
かすかに鼻や口の粘膜がひりつき、飛段は眉をしかめた。
すすと煙でやられたのだろうか。不快感を振り払おうと何度か咳き込むが、ひりつきは治まる気配がない。
彼の身に起きた不調を見た角都が血相を変えた。
「馬鹿、離れるぞ!」
「え?おい、何でだよ?!
おっぱらっちまえば、後もうちょいで二尾が捕まえられんだろぉ?!」
人柱力と2人を分断するマグマの壁だって、角都の水遁で冷やせば済む。
こんな横槍如きで逃げ出すなんて、飛段には我慢ならなかった。
「気づかないのか?!毒だ!
いくらお前が丈夫でも、このままここに居たら死ぬぞ!!」
煙にまぎれて届いた目に見えないものの気配から、角都は解毒が難しい毒の存在を感じ取った。
―こんなものをこれ以上吸ったら、アジトに帰る前に動けなくなる……!―
毒消しは無いので、退路を断たれつつあるこの空間ではこれが命取りになる。
今は戦果を惜しむよりも、命を優先すべきだ。生きてさえいれば、チャンスはまたつかめる。
彼だって悔しくないわけがない。
歴戦を潜り抜けてきた自分が、姿さえ見せない相手にいいようにされている現状には怒りがこみ上げていた。
しかし熟練の戦士であるからこそ、それを堪えるべき時だとも分かっている。
「来い、こっちだ!」
ためらいなく強い水流を放つ水遁で炎の分身を弾き飛ばし、脱出路を確保する。
「くそっ……今度会ったら、ジャシン様の捧げ物にしてやる!」
逃走を促す角都に従ってその場を離れる直前、未練たっぷりに飛段が吐き捨てる。
そしてくるりと背を向け、あっという間に2人揃って瞬身で離脱した。それを見咎めたナルトが鼻白む。
「あいつら、逃げたってばよ!」
「深追いするな。あんなものはどうでも良い。」
「うっ……分かったってばよ。」
肩を掴んで制してきた狐炎に反論したいが、今は我慢しておく事にした。
大事なのは人柱力の安全確保であり、彼らを倒す事ではない。

ナルトが術を解除して用が済んだ影分身をさっと消す頃には、噴き出していたマグマも引っ込んでいた。
陥没した床も、砕けたコンクリートの下はいつの間にやら平らに戻っている。
もちろん大気に撒き散らされた毒も消し去られていて、崩れかけた大部屋はすっかり静まり返っている。
辺りに気配が無いのをじっくり確認していたのか、ここでようやく離れた位置に隠れていた老紫やフウが顔を出した。
「おー、無事かの?」
「じいちゃんのおかげでね。ところで、人柱力の姉ちゃんは?」
「はいはーい、ここだよー♪」
磊狢の明るい声が、人柱力が磔にされていた壁の真下から聞こえる。
瓦礫がもぞもぞ動いてどいてしまうと、下に隠れていた磊狢と件の人物が現れた。
「おおっ、でかしたぞい!」
「姉ちゃん、大丈夫?」
一同駆け寄って、近くで彼女の状態を見る。全身傷だらけだ。
動けなくなるほどなのだから当然重傷だが、気絶しているのか声をかけても反応がない。
「ちょっとお医者さん、早く診てあげて!」
「分かってる。」
フウの急かす声に応えて姿を現した鼠蛟は、慣れた手つきで冷静に診察を始めた。
当然着衣の下も見るのは分かっているので、
用の無い男性陣は適当に距離を置き、視線をそらして終わるのを待つ。
「それにしても、思ったより根性無かったのう。」
手当てを待つ間の暇潰しに、先程逃げていった暁の2人組について、老紫が感想を口にした。
気配で感じられる限りでは、様子を伺ったり戻ってきたり出来そうな距離に彼らは居ないようだ。
「うん。もっとしつこく攻撃してくると思ったってばよ。
けっこう、殺す気で来てたと思ったんだけどなー……。」
危うく壁ごと吹き飛ばされるところだったナルトは、そう実感していた。
数の暴力で畳み掛けたこちらの連携の甲斐があったにしても、彼らが逃げ出すのはずいぶんと早かった。
「意外とチャクラが無かったんじゃないの?何だかばててるっぽかったじゃない。」
「こちらが仕掛けた直後に、そのような事も口にしておったな。
恐らく、いざという時は戦力を温存しろとでも言い渡されておるのだろう。」
替えが利かない人材を大切にするのは、裏で幅を利かせるかの組織も同じ。
砦をたった2人で襲うような無茶苦茶な戦略を実行出来る人材は、そうそう居ないものだ。
先程こそ拍子抜けの展開を見せてきたが、万全であれば、恐らくもっと余裕を持ってあしらっていたに違いない。
「ふふん、チームワークの勝利じゃの!」
「この調子で行けば、あいつらをぶっ潰すのも夢じゃないってばよ!」
適当に総括して、老紫とナルトがにわかに盛り上がる。
消耗したところに付け込んだ人外込みの6人がかりなら、
袋叩きに出来て当然だろうと横から言ったところで、全く耳に入らなさそうだ。
それをよそに、向こうではちょっとした進展があった。
「あっ、来たー♪」
「どうしたの?」
急に磊狢が嬉しそうな声を上げたのを不思議に思って、離れて話していた一同が人柱力の方を向く。
するとそこには、先程まで居なかった1人の女性が立っていた。
「助かったよ、あんた達。」
突然現れた彼女は、艶やかな笑みを浮かべて礼を述べた。
濁りがない澄んだ青い髪は緩く波打ち、下向きの輪を作るように結い上げている。
金銀の鈴が両端に飾られた結び目の下から余った部分が広がり、それだけで錦のように豪華だ。
黄緑がかったレモン色の瞳も、宝石のように美しい。袖無しの深いピンクの着物が、その妖艶な美貌を引き立てる。
「礼には及ばぬ。危なかったな。」
「この子が化けているとあたしは出られないもんだから、ヒヤヒヤさせられて困ったよ。」
チラッと治療してもらっている最中の器に視線をやって、彼女は苦笑いした。
どうやら人柱力が尾獣化している時は、妖魔は偽体を作って出て来れないらしいと、ここで初めてナルトは知った。
―あー、それでやられちゃうまでほったらかしだったってわけか。―
道理でと、彼は密かに納得した。
あの冷たい狐炎でさえ危なければ自分を助けてくれるのに、彼女が器の最大の窮地を救わなかった理由もそれなら分かる。
「のう姉ちゃん、名前は何じゃ?」
「あたしは鈴音。そこにいるユギトの中に居る、猫の女王さ。」
「鈴音さんか〜。いや〜、無事でよかったってばよ〜。えへへ……。」
微笑みかけられただけで、美女に弱いナルトはもう顔が崩れきってだらしない有様。
照れ笑いする口元に、若干どころでは済まない下心が見えている。
つい今しがた真面目に考えていた事なんて、もう頭から飛んでしまっているだろう。
「可愛い坊やだねぇ。どうだい、あたしといい事する?」
「え?そ、それはちょっと、心の準備が……。」
女性経験の少なさを丸出しに、まんざらでもないのか戸惑ってるのかはっきりしない態度でおろおろする。
狐炎が聞こえよがしに露骨なため息を付いた。鈴音に冷ややかな視線を向ける。
「始まったな……御稚児趣味も大概にしておけ。」
「おや、人聞きが悪いねえ。あたしは可愛い子が好きなだけだよ。」
「わーっ!ちょっ、近い近い近いってば!!」
たしなめられても知らん顔の鈴音に、後もう少しで息までかかりそうな距離に詰め寄られて、ナルトはすっかりパニックに陥った。
初対面の相手のため、どこまで冗談か分からないせいも多分にある。
「りんりんってば、相変わらず燃えてる〜♪」
ナルトの焦りを承知で、磊狢が声を弾ませて茶化した。助ける気はさっぱりない。
「御稚児趣味って……むっ、という事はこの間のホモショタっちゅーのは、二尾じゃったのか!」
「そう。守鶴と狐炎のせいで、言えなかった。言いたかったのに。」
後ろには振り返らないまま、渋い顔で鼠蛟がぼやいた。治療の手は止めない。
「なーんだ。タダのショタなら、この間騒いだみたいなことにはなんないよね。」
老紫もフウも拍子抜けした。ふたを開けてみれば、何の事はない。
磊狢の「ホモショタ」という説明と、意地悪な狐狸が黙っていたせいで、すっかり勘違いさせられていただけだった。
「そうそう、あたしの趣味はいたって健全って事。
どうだい坊や?そんじょそこらのねんねと違って、あたしはいい事たくさん教えてあげられるよ。」
「えーっと、えーっと……。」
至って健全と言いつつ、ナルトの頬に片手を添えて覗きこみながら囁くのは、色っぽい含みたっぷりの誘い文句。
今までこんな経験なんて無かった彼は、ほぼ同じ高さから注がれる視線の直視さえ憚られた。
眼を泳がせつつ赤面するのが関の山だ。もちろん周りなんて目に入りもしない。
「悩むな、大うつけ!」
「ふぎゃっ!」
いい事の内容を絶賛妄想中だった脳天を殴打され、ナルトは悶絶した。
青少年の不健全な妄想は、痛みにより即刻退散だ。
「狐炎〜、おまっ、手加減しろってばよ!!」
不意打ちの強打に涙目になって、頭を抑えたまま食って掛かる。
しかし殴った本人は、まくし立てる剣幕にも涼しい顔だ。
「手加減?目一杯してやっておるだろうが。」
「頭割れない程度とか、そういう落ちでしょ?!分かってるってばよ!!」
パターンはお見通しなのでそう返すと、狐炎は馬鹿に仕切った嘲笑を浮かべた。
「ほう、よく分かったな。ようやく洞察力の種が備わったか。」
「種?!芽じゃないの?!」
「こら、騒ぐな。」
一通りユギトの治療を終え、塞ぎ忘れた傷が無いか確認中の鼠蛟に怒られ、ナルトはすごすごと引っ込んだ。
自分だけ怒られたような気がしていい気持ちはしないが、医者を怒らせていい事はない。
「……うっ。」
騒がしくしたせいなのか。傷が癒えたちょうどいい頃合いで、ユギトがうめき声を上げて薄目を開ける。
まだ意識が定まらないのか、少しぼんやりした焦げ茶の瞳が露わになった。
「おや、気が付いたかえ?」
「鈴音……私は、あの時確か……。」
血に染まった自分の黒いシャツや、胴を守る薄紫の防具、
片側に雲の模様が入った黒いズボンまで、半身を起こした彼女は体の隅々を落ち着かない様子で見回す。
ユギトは、助かった事をにわかには信じられずにいるようだ。
普通は敵に負けた時点で無事で済むわけが無いのだから、当然の反応だろう。
「感謝おし。あたしの知り合いが、通りがかりに助けてくれたんだよ。
あの黒服のならず者は、尻尾を巻いて退散さ。」
「そうだったのか。ありがとう、あなた方は命の恩人です。」
鈴音の説明で事情を把握した彼女は、きちんと座りなおしてからナルト達に深く頭を下げた。
「礼はいらんぞい!美人のピンチを助けんかったら、男が廃るからの!」
「もー、調子いいんだから。アタシ達だって頑張ったでしょ!」
目立とうと胸を張る老紫の露骨な態度に呆れて、フウがわき腹を小突く。
「失礼ながら、お名前を――。」
「あんたを診てくれたのが鼠蛟で、鳥の長。橙の髪のお人が狐炎。狐さ。
緑の髪がむじなの磊狢。残りの3人が、それぞれの器さ。」
ユギトの言葉をさえぎって、鈴音が自分の同輩の名前を教える。
「四尾に九尾、それに七尾と……?」
「おれはナルト。こっちは老紫じいちゃんとフウ。」
目を丸くしているユギトの顔に気付かず、ナルトがさっと残りのメンバーの紹介を済ませた。
誰と誰が組なのかという疑問の解消にはなっていないが、その辺りの配慮は頭に無いらしい。
「こりゃ孫よ、無花果と呼べと言ったでじゃろう!」
「いやだって、それ本名じゃないじゃん!」
「ったく、男共は〜……。えーと、お姉さんはユギト、でいいんだよね?」
また本筋そっちのけで騒ぎ始めた2人に呆れ返りつつも、無視してフウは話を続ける。
「ええ。二位ユギトと言う。この砦の責任者だ。」
「うわー、姉ちゃんすっげー!って事は、やっぱ偉いわけ?」
「ふふ、そこは、相応の地位と言う事にしておきましょう。
しかし、あなた方ほどの方々がこんな所においでとは……。一体どんな事情が?」
この場には鈴音の同輩とその器しか居ないと理解した彼女は、怪訝そうに眉をしかめた。
1組居るだけでも珍しい尾獣と人柱力のコンビが3組も居る事情なんて、当然だがそうぱっと思いつくものでは無いらしい。
「おれ達、みんなで人柱力を探してるんだってばよ。
その途中に風影の我愛羅から頼まれて、雷影さんへお手紙を届けに来たって訳。
そしたらいきなり砦が爆発したから、助けに来たんだけどさ。狐炎、証明書ー。」
やましい事情は何も無いので、ナルトは正直に事情を説明した。
狐炎が我愛羅から預かった証明書をユギトに渡すと、彼女は丁寧に封を開けて中をあらためた。
「確かに。しかし、こんなそうそうたる面々が、こんな使いなんて……。」
「砂は知っての通りの人手不足。鳥に届けさせたものと思えばいい。」
まだちっとも納得がいっていない様子だが、ここでいきさつの説明をするのもふさわしくないので、狐炎が適当にはぐらかした。
腑に落ちないとしても、後で補足すれば済むことだ。
「ずいぶんと大きな伝書鳩に頼んだものだねえ。」
鈴音は意味深に微笑み、ちらりと鼠蛟に視線を送った。
そのものずばりの鳥である彼は、ユギトを手当てしている間の姿勢のままぼうっとしゃがんでいる。
視線には特別反応をしなかった。
「……。」
「まあいいさ。この顔ぶれだけで、訳有りなのは十分承知してるよ。
いきさつは後でじっくり聞かせてもらおうかねえ。」
「分かっておる。」
妙に意地悪に聞こえる声音に、事も無げに狐炎が返す。
彼女らから問いただされるまでもなく、ここまでのナルト達のいきさつの説明は必須事項だ。
「さてと。ユギト、そろそろ立てそうかえ?」
「ここまで手当てしてもらえば、もう大丈夫さ。」
ユギトは立ち上がってほこりを払う。足はしっかり地面を踏み締めていて、病み上がりの危なっかしさは欠片もない。
人柱力の常なのか、しっかりした手当てを受ければ回復は早いようだ。
「それにしても……我が里の手練れがここまでやられるとは。暁の奴ら、以前より確実に力をつけている。」
「前はそうでもなかったわけ?」
砦の被害を考えて顔を曇らせた彼女に、フウが尋ねた。聞かれた彼女は首を横に振り、こう答える。
「いや、元々あれは抜け忍組織の中でも上位でした。
それでも以前は、もう少し大人しかったのに。」
「とにかく、さっさと報告に帰らないとねえ。こんなんじゃ、放っておいたって大差ないだろうし。」
「ああ、もちろんすぐに行くつもりさ。」
鈴音の言う通り、守り手も全滅した挙句に手酷く崩壊した砦なら、報告に帰る間に空っぽにしてもしなくても似たようなものだ。
それよりも、この件を早急に里に報告する義務がある。
「もう行くのかってばよ。」
すっかり万全に戻されたとは言え、今傷が治ったばかりの体で動こうとするユギトにナルトが目を丸くした。
ぐずぐずいつまでも居られるような状況でもないが、彼にとっては驚きである。
「当然です。一刻も早く、この大事を雷影様にお伝えせねばなりません。
何しろ、私1人を残して全滅なんて有様では……。」
「もう1人いるはずじゃぞ。
さっき入口にいたくノ一なんじゃが、もしかすると帰って助けを呼びに行ったかも知れんの。」
老紫が横からすかさず口を挟む。
すっかりほったらかしにしてきてしまったからどうしているか分からないが、
ナルト達が到着した際に入口で会ったくノ一の事を忘れてはいけない。
このまま何も伝えずにユギトが帰ってしまったら、色々とややこしい事になるだろう。
「おや、しょうがないねえ。どんな子かえ?」
「えーとね――。」
磊狢が鈴音に適当に背格好を説明をする。それで彼女は理解できたようで、ふんふんとうなずいていた。
「じゃあ、あたしがお使いを出しとくよ。」
そう言って呪文を唱え、虎のように大きな猫の妖魔を1体呼びだした。
「ご機嫌うるわしゅう、大女将様。どうぞ何なりとお言いつけ下さいませ。」
「あんたも知ってるこの子の部下のワタって女に、ユギトは無事に里に帰ったって伝えて、里の門まで送っておくれ。
まだこの近くにいるはずだそうだから。」
「承知いたしました。お任せくださいませ。」
用事を言いつけられた猫は、恭しく顔を伏せてからすぐにこの場を去った。
それを見届けると、鈴音はナルト達の方に向き直る。
「さあて、と。それじゃあ、これからあんた達を里に案内してあげないとだね。
あたしの周りに来ておくれ。」
「遥地翔じゃな。ラッキー♪」
彼女の手招きに、待ってましたと老紫が胸の前で両こぶしを固めた。
しめたという歓喜の念が露わなガッツポーズだ。
「もう山道がやだったんだね……おじいちゃん。」
おれも嫌だけどと付け足して、ナルトは術者のそばに寄っていった老紫に続く。
1分足らずで全員が有効範囲に集まりきった事を確認してから、鈴音は遥地翔を唱えた。


―前へ―  ―次へ―  ―戻る―

ユギトさんと鈴音登場。器がやられてる時に中身がふがいない理由も、本人の名誉のため説明しておきました。
原理説明無しのあいまいなレベルですが。
てこずった戦闘は、ゲームでボスを袋叩きにするイメージでやりました。人数多いので連携や役割分担は醍醐味。
苦労の割に大変短いのは、何とも言えない気持ちになりますけども。
それはそうと、次はようやく雲隠れの里。ユギトの勧誘はえらく面倒くさそうですけどね。
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