はぐれ雲から群雲へ
                     ―17話・山間の砦―

それから数日。途中大きなアクシデントに見舞われたものの、その後の船は何事もなく航海を続けた。
そして予定されていた到着日の昼過ぎ、ほぼ定刻通りに雷の国の大きな港町に到着した。
「ついたー!」
船から降りてすぐ、ナルトが上機嫌で第一声をあげる。
踏んだのはコンクリート固めの地面だが、久々になる陸地の感触は感慨深いものだ。
船がひしめき合う埠頭を照らす、昼下がりの強い日差しも清々しい。
そんな空気満喫する彼とは対照的に、フウはうんざりとした様子だ。
「はー……アタシ、もう船はこりごり……。」
船酔いの忌々しい記憶を引きずっているのだろう。トラウマが1つ増えましたと顔に書いてある。
何しろ立てなくなる位酔ってしまったのだから、もう当分船は乗りたくもなくなって当然だ。
「あははー、今度から蛟ちゃんの言う事はちゃんと聞こうねー。」
「うっさい!」
けらけら笑い声を立てた磊狢の頭に、怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたフウがこぶしを見舞った。
「やれやれ。」
早速始まった七尾コンビのどつき漫才を見ながら、鼠蛟がやや呆れた顔で呟いた。
横ではあらかじめルートに印をつけておいた地図を老紫が確認しながら、港から目的の街道に早く出られる道を探す。
何しろ広い町だから、行き当たりばったりに歩いたらどこの門にもたどり着けはしない。
「まずは、砦がある東街道っと。お、あっちじゃ。」
雲隠れにつながる街道は、地図によれば町を出てすぐに山の方向へとある。
街道は山の中を縫うように延びていて、等高線を読み取る限り平地らしい場所はなさそうだ。
「うわー、ほんとにすぐそこに山があるってばよ。」
「やっぱここも山国なんだねー。」
船から見た時、建物がびっしり並ぶ町のすぐ背後に迫るように見えた山々は、降りてから見物してもやっぱり近い。
フウが言うように、ここ雷の国が山がちな国だからだろう。
「里もああいう山の上?」
「うーむ。あそこの山より、もうちょい標高が高そうじゃの。うう……ひざに優しくないぞい。」
老紫は読みながら渋い顔をする。
里の付近でいきなり標高が何百mも上がるわけではないのだが、
その分緩やかな山道を延々と歩く派目になる事はここに来るまでの間で予想済みだ。
もう若くない彼にとっては、正直に言って気楽とは言いがたい道になるだろう。
「じいちゃん、ひざの関節には深海鮫エキスがいいらしいってばよ。」
「わしはそこまで年じゃないわい!」
「嘘つけ。」
別にナルトのような若年者視点でなくても、老紫は立派にいい年だ。
少なくとも年じゃないと言い張るのは見苦しい。だが、彼の往生際はとことん悪かった。
「何が嘘じゃ、ひざが磨り減るなんて、70以上の年寄りだけじゃぞ!」
「残念。ばっちり発症年齢だ。」
「ふふーん、わし40だもーん。」
(ひざに、水を溜めてろ……。馬鹿じじい。)
あからさまな嘘を言って胸を張る老紫を半眼でにらみながら、鼠蛟が小さな声で毒づいた。
地味だが医者らしさとえぐさが同居している。ひざに水がたまったら大事だ。
「ナルト、あれを無駄な抵抗と言うのだ。覚えておけ。」
「へー……。」
狐炎の言う陰口に納得しながら、ああはなるまいとナルトは心に誓う。
その後、適当に放っておいたらすぐに喧嘩は終わったので、一行はそのまま大した寄り道もせずにまっすぐ町の外に向かって出発した。


町を出たら平坦な道はすぐになくなり、なだらかながらも傾斜のある道に変わった。
きちんと整備されているが、膝が笑う道である。
1時間も歩けば、変わらない道路状況にだんだんと嫌気が差してきた。
「ふう、坂道だらけで嫌になるぞい。」
水筒で水分補給をしながら、老紫がぼやいた。
「ねー。土の国もすごかったけどさ、ここも相当……。」
行く手に広がる坂道は、今のところ全く終わりが見えない。
まだ傾斜がきつくないとは言え、慣れていないと老若関係なくうんざりする光景だった。
「1000年以上昔から、こう。」
「え〜、ちょっとは直せばいいのに……。開拓するとかさあ。」
気にもせずに歩く 妖魔達を、恨めしそうにフウが半眼で見る。
普段から元気だけは余っている磊狢や、上背相応の体格の狐炎はともかく、
生っちろくて細身の鼠蛟までちっとも疲れた様子がないのは、彼女にとって大変理不尽な光景だ。
「この数の山を切り崩して平らにならす位なら、普通は諦めて足腰を鍛えるだろうな。」
至極真っ当な正論なので、誰も返す言葉はない。
斜め後ろのナルトが、何故か敬語を使ってですよねと小さく呟いただけだ。
「ちぇー……。ところで、あそこに何かぽつーんって立ってるのは何?町?」
「あ、ほんとだ。何だろ。」
山の影から、灰色っぽい建物の一部が顔を出している。
先程から時々手前の木々にまぎれて見えていたのだが、何の建物なのかナルトやフウにはよく分からない。
「あれは砦だ。港の近くだからな。」
「へー。結構目立つところにあるね。」
ここから全貌を見る事は出来ないが、多分頑丈で立派なものであろう事は、間近で見るまでもなく明らかだ。
まだ遠そうなのに、しっかり見えているからそういう印象を抱かせる。
「元々は、200年前に侍の砦があった。だから、堂々と見張ってる。」
最近はこちらに来ていない鼠蛟だが、昔からあった物については当然知っている。
ここから見える砦は、昔から沿岸防衛の要とされた場所なので、国内では歴史的にもかなり有名な場所だ。
「それを雲隠れが任されてるってわけかー。すげー!」
「さあ。」
そこまでは地図に載っていないので、鼠蛟は首をかしげた。
「えっ、違うの?」
てっきりそうとばかり思い込んでいたので、興奮したナルトは肩透かしを食らった。
ついでにフウもそう思っていたらしく、目が点になっている。
「というか……今どうなってるかは、知らない。」
そう話が流れるかは、さすがに行ってみないと分からないようだ。
「あれを横に見ながらずーっとこの道を行くんじゃ。うむ、今のところ道は合ってるの。」
「へー、あれが目印かあ。気付かなかったってばよ。」
単に道なりにずっと歩いているだけだと思っていたナルトは、感心してそう言った。
大きな分かりやすい目印は、事前に当てがあると便利なものだ。
「町を出る前に、おじいちゃんも言ってたよー。」
忘れたの?と、前を行く磊狢が振り向きながら笑っている。
「あれ?そうだったっけ。」
「アンタが話聞いてなかったんでしょ。」
「そういうフウも聞いてたっけ?」
確かあの時の彼女は磊狢とどつき漫才を演じていたので、とても聞いていたようには見えなかった。
しかしその素直な感想は、ナルトの脳天にこぶしを招く。
「〜〜っ、どうでもいいでしょ!」
「いってぇ!何でおれが叩かれんの?!」
大した事を言ってないのに叩かれて大損の彼は、もっともな抗議をした。
もちろん理不尽な真似をした当人はまともに取り合わず、つんとそっぽを向いている。
それでも横から諦めずに抗議が続いてくるが、完全に無視だ。
「う〜ん、やっぱり子供は元気だねー♪」
「喧嘩をする元気だけは、無意味にあるな。」
子供のしょうもない喧嘩と同輩ののんきなセリフのせいで二重にうんざりした狐炎は、嫌そうな顔でそうぼやいた。
いつもの事ではあるのだが、余分な体力は山歩きの方にまわして欲しいと思うのが本音だ。
何しろ雲隠れまではまだまだ遠く、今夜もしも夜通しで歩いたとしてもたどり着かない。
次の人柱力を探すため、少しでも早くと先を急ぐべき旅路なのだが、
果たして喧嘩に気を取られる彼らが分かっているのか、それは大いに疑問が残るところであった。


時々木々に隠れる砦を見失わないように、歩くことさらに2時間。
港に着いたのがすでに昼を過ぎていたため、もうすっかり日が沈みかけている。
歩いた甲斐あって目印はだいぶん近くなり、ようやく山間にたたずむその全貌が見えてきていた。
「おー……でっかいなー!」
まじまじと眺めて、ナルトが歓声を上げた。
コンクリート仕立ての頑丈な箱が3つほどつながったような建物を、高い塀がぐるりと取り囲んだ威圧感たっぷりの巨大な構造。
背後はすぐ崖で、守りを固めやすそうないい立地にどっかりと腰をすえている。
内部には恐らく、何百という人が詰めているのだろう。
「こんな大きなの、初めて見たかも。さすが五大国。」
小国出身のフウも思わず色めき立つ。大国の威容をしかと感じているようだ。
一方、さすがに妖魔達はこういった物を見慣れているらしく、昔と姿が違うと誰かがぼやいた他には特に感想はないらしい。
「ここまでくれば、後もう少しで次の街道に突き当たるはずだが――。」
いったん地図を確認しようと思い、狐炎が後ろの老紫に話かけようとして振り返る。
そのとたん、砦の一部からいきなり爆炎が上がった。
『?!!』
和やかだった空気が一瞬で凍りつき、全員に緊張が走った。
「な、何事じゃ?!」
持っていた地図を腰の袋にねじ込み、老紫が血相を変えて叫ぶ。
「誰か襲ってきたんじゃないの?」
「見れば分かるって!いったいどこのどいつが?!」
砦から遠いこの場所では、正確な状況の把握さえも困難だ。
焦れたナルトが、苛立って声を荒げた。
「分からん。じゃが、あそこに奇襲をするなんて相当大胆な奴じゃぞい。」
見るからに大勢の人間が詰めていそうな、大きな砦に攻め込む手合い。
どこの誰だか分かったものではないが、老紫の言うとおり大胆不敵だ。
「戦争でも、したいのか?」
鼠蛟は怪訝そうに眉根を寄せた。あの砦は、昔から先程来た港町を外敵から守るために維持されている。
軍事上、雷の国が昔から特に重要視して来た場所であるだけに、
史実においてもここへの襲撃から本格的な戦争に発展した事が少なくない。
そこに堂々と攻め込むという事は、宣戦布告をしに来るようなものだろう。少なくとも、彼はそう解釈した。
「せ、戦争?!」
「くそっ、そんなの許せるかよ!狐炎、行こう!」
まさかとは思うが、そんな事になってしまうなら見過ごすわけには行かない。
ここがよその国であろうと、平和を脅かす輩の存在をナルトは許せなかった。
今にも走り出しそうな面持ちで、彼は相方の妖魔を促す。
「待て。」
「何で待たなきゃいけないんだってばよ?!」
顔色も変えずに制止する狐炎に苛立ちを覚え、ナルトは鼻白む。
「阿呆!わしらはあくまで、一般人として振舞わねばならぬ事を忘れたか?」
「だけど、あそこで誰かが襲われてんのを見過ごせないってば!」
「後の事も考えておらぬ分際で、正義感だけは一人前だな。」
狐炎は、いっそこの場の空気にそぐわない程落ち着いた声音で皮肉を言った。
一気に冷え込むナルトと狐炎の周りの空気。
片や熱血片や冷血。根っから対極の上、どちらもそう簡単に折れない性格だから厄介である。
こんな時の喧嘩は勘弁して欲しいと思ったのか、フウが突然こんな事を言い出した。
「あ、あのさ。もしかしたら、人柱力とか居るかも知れなくない?」
「理由は?」
あくまで頭は冷静なので、狐炎は淡白にそう返す。
「ア、アタシさ、あそこに居た時なんだけど、任務で国境の砦にも行った事あるの。
慣れてないと、いざって時使えないとか何とか言われて……うん、そんだけ。」
しどろもどろになったせいか所々裏返った声で、フウは何とか言い切った。
頼りない物言いだが、彼女の経験談はナルトにとっては力強い援護だ。
「ほら、フウだってこう言ってるし!行くしかないってばよ!!」
「どうする?」
「お前はどうなのだ?鼠蛟。」
狐炎は我が意を得たりとばかりに勢いづいたナルトは無視して、判断を仰いできた鼠蛟にそうたずねた。
すると、一拍間を置いてから彼はこう答える。
「見に行く位は、いいかと。」
「奇遇だな。わしもそう考えていたところだ。
どこぞの早とちりが先走らねば、そう言うつもりだったのでな。」
さりげなくナルトに嫌味の刃を突き立てつつ、狐炎は小声で呪文を唱えた。
姿が揺らぎ、濃い霞が包んで大きな獣の形をとる。それが晴れた後には、金の毛皮を持った大きな狐が居た。
「人間の足には合わせていられぬ。さっさと乗れ。」
砦まではまだまだ距離があり、いくら忍者の足でも走る間に事態がどんどん進んでしまう。
フウが言った通りの事になっていれば、なおの事猶予はない。
「おお、太っ腹じゃの!」
「こんなの初めてじゃ……って、それはいいや。急ぐってばよ!」
指示通り素早く3人が背にまたがる。それをチラッと振り返って確認すると、狐炎は地面を蹴った。
その横を残りの妖魔2人が併走するが、自分達のペースで走る彼らの足は人間が目をむくほど速い。
しかも道を外れているのに、これは上忍よりも早いと言っていいのではないだろうか。
めまぐるしく後方に流れていく山道の景色を見ると、普段は人間に合わせていると言うのが良く分かった。
「この分だと、10分もかかんないんじゃない?」
ナルトの真後ろで、驚き混じりにフウが言った。
「かかんないよー。さ〜、今の内に気合入れとこうね!」
横の磊狢に言われるまでもなく、ナルト達は臨戦体勢だ。
到着したらすぐに敵が居るかも知れないという予測は、十二分に出来ている。

そしてようやく見えてきた砦の門。その入り口に、酷く傷ついたくノ一が倒れていた。
どうやらここに詰めていたのは、侍ではなく忍者だったらしい。
一行はここでいったん足を止め、狐炎は背中の人間達が降りたところでまた人間の姿に戻る。
「おい姉ちゃん、大丈夫?!」
倒れていた彼女にナルトが駆け寄り、すぐに助け起こす。
それに反応して弱いながらも目を開けたので、幸い意識はあるようだ。
傷薬を探そうとする彼を、横から磊狢が手で軽く制止する。
「ちょっと待ってね。――豊穣の梢。」
術を唱えると、周りの植物から少しずつ集めた生命力が柔らかな木の葉となり、ひらひらと舞って彼女の傷を癒す。
地の恵みを生かした独特の回復術は、見る間に失われた力を取り戻させた。
「ありがとう……助かりました。」
「なあ、どいつに襲われたんだってばよ?」
この分なら詳しく聞けそうだと踏んで、早速たずねる。すると彼女は険しい顔になった。
「黒地に赤い雲のコートを着た……暁の2人組に。我々を瞬く間に蹴散らし、あっという間にこの有様です。」
「それじゃ、今戦ってるのは?」
フウの問いに答えるかのようなタイミングで、再び轟音が耳をつんざく。
一番大きな中央部の建物のすぐ脇の棟が崩れ、そこから青く細長い2つの塊のようなものが見えた。
「また爆発じゃ!ぬぉっ、あれは!!」
「何あれ、尻尾……?!あそこで戦ってるの、もしかして!」
間違えようもない、人間とは異質なチャクラ。
かなりの量を放出しているのだろう、まだ離れているこの場所でもはっきりと感じ取れる。その力は圧倒的だ。
くノ一が血相を変えて立ち上がった。
「ユギト様!ユギト様が、まだ奥で戦っていらっしゃいます!」
「しかもあれは……尾獣化しとるの!」
「尾獣化?」
「アンタ知らないの?!要するに、中の連中に変身するって事!」
聞き覚えのない単語のせいとはいえ、のんきに聞き返したナルトに苛立ちながらフウが説明した。
彼女の言うとおり、尾獣化は人柱力が多量に妖魔のチャクラを引き出す事で、尾獣の姿に変化する事だ。
「えっ、じゃあ相手はすげー強いって事じゃね?!」
「そうなっちゃうね〜。」
内なる妖魔の力を最大限に用いる尾獣化は、人間では通常ありえない力が使えるようになる奥儀のようなもの。
各国が望む、1人で戦局を変える生物兵器の真骨頂と言っても過言ではない。
しかし防衛側がそれに頼る状況は、お察しと言ったところか。
とても激しい立ち回りを演じているらしく、大きく揺れるチャクラの塊はそれをありありと物語る。
「ああ、あそこまでお力を……!今、助けに参ります!」
「よせ、死にに戻るつもりか。」
今にも心臓を潰してしまいそうな顔で駆け出そうとしたくノ一の腕を、すかさず狐炎が捕まえる。
あんな状況では、ただの人間が1人加勢したところで何の助けにもならない事は明らかだ。
「たとえそうであっても、行かねばならないのです!
わたくしには、里のため砦のため、灰になるまで戦わねばならない責務があります!」
「大丈夫、おれ達に任せとけってばよ!」
元より、居るかも知れない人柱力を助けるつもりでやってきたのだ。
ここまで来たら、ナルト達にとっては後は目的を果たすのみである。
「えっ?!そんな、しかしそれは――あっ、待ちなさい!」
「ごめんねお姉さん、言い訳は後でするから〜!」
何しろ事は一刻を争う。
わびもおざなりに、一行は申し出に面食らったままの彼女の制止を無視して崩れかけた砦に駆け込んでいった。

内部は広く複雑な構造の上、見取り図もないからひたすら音源と勘を頼りに奥へ進むしかない。
「うっ……あいつら、ひでぇ事しやがるってばよ。」
あちらこちらに事切れた忍者が倒れている様子が、走る通路のあちこちに見受けられる。
今の所、先程のくノ一のように幸運な生存者は見かけない。漂う血の匂いに、ナルトは顔をしかめた。
「どいつもこいつもそこそこ以上じゃろうに、全くとんでもないのう。」
「こんなにたくさん、本当に2人なんかでやれるわけ?」
ここに詰める雲忍は、中忍などの手練れ揃いだったであろう。
どれ位の時間で一掃してしまったかは定かではないが、先程の爆発までそんなに長かったとは思えない。
それだけに、余計に信じがたい光景だ。
「さあ。どこでも、例外はいるし。」
「確かにそうだな。すでにここに、種族内の規格外が3名ほどいる。」
寿命も力も平均値を大幅に上回る、文字通りの化け物ぞろい。かなり極端な実例だが、人柱力達は妙に納得がいった。
確かに妖魔界にもこういう論外が居るのだから、人間にだって居るだろう。
「そういえばそうだった……。」
並の人間が何人かかっても傷1つつけられないどころか、人間かどうかも疑わしそうなような規格外がこの先に待ちうけている。
ナルトが少し苦い顔で呟くのも、行く手の敵を考えればこそだろう。
一行は敵に気づかれないように、通れない場所は避けて通りながら、確実に暁と人柱力が交戦している場所に近づいていく。
音は徐々に大きくなり、術が飛び交っているのか足音さえかき消される勢いだ。
「大激戦って感じだねー。」
「のんきにしてる場合?!急がなきゃでしょ!」
後もうほんの少し、目と鼻の先に戦いがあるという所まで来たこの時。
空気を震わせて、悲鳴のような咆哮が響いた。
『!』
状況が一変した。走っていた一行の足も止まる。
「音が止んだ。」
「もしかして、やられた?!」
人柱力としての全力を尽くしたのに敗北を喫する。
それがそれだけ重大な事か、過去に守鶴に化けた我愛羅と戦う派目になったナルトは薄々理解していた。
並の人間なら、高位の口寄せ動物の力を得なければ対等に渡りあう事すら困難なのに、それを人間だけで倒していたならば。
信じがたい状況に、驚きは隠せない。
しかし口元に指を当てて考える磊狢は、いたずらを思いついたような顔で、声を潜めてこういった。
(だけど、お仕置きするならいい機会かもねー。)
(何で?あいつらに人柱力をさらわれるって時じゃないの!)
(そうだってばよ!)
こんな切羽詰っている状況を、好機とは何事か。
緊迫した最中のおふざけならさすがに許せず、フウとナルトは眉を吊り上げた。
“だからこそだ。奴らは人柱力を仕留めた事で気が緩んでいるはずだ。
それに、今までの戦いで多少なりとも消耗している。”
声を潜める代わりに、念話で狐炎がそう言った。その補足で、ようやく疑問符が浮かんでいた人間にも納得が行く。
(だからチャンスって事か!でも、どうやって近づくんだってばよ?
この道全部ふさがってるし、あいつらもおれ達に気付いてるんじゃ……。)
何しろもう、後1分もいらないうちに到着するところまで来ている。
こちらだって人がいる気配を感じるのだから、
音が止んだ以上、どんなに遅くとも現在の時点で敵もこちらに気付いているはずだ。
(ぬぅ〜……。孫達よ、ここは引っ掛け戦法じゃ!)
(え?何それ。)
意味が分からずにフウは聞き返し、ナルトもつい首を傾ける。
“陽動。”
(それなら了解。)
即刻発された鼠蛟の説明は、この上なく短く分かりやすい。
さすが付き合いが長いだけの事はある。器の適当な造語の翻訳はお手の物らしい。
“どう行こっか?”
現在いる通路の先は丁字路になっていて、合流する横道の壁の向こうに敵と人柱力がいるはずだ。
“三方向に分かれた後に影から奇襲をしかけ、人柱力を確保する。よいな?”
(よし、おれ達が攻撃するから、援護は任せたってばよ!)
(ふふ、腕が鳴るぞい!)
(さっさと追っ払って、助けなきゃね!)
敵は強いが、こちらの戦力は十分だ。
お互い確認を取るようにうなずきあった後、散開した。


―前へ―  ―次へ―  ―戻る―

何と言うか、どっかんどっかんうるさいイメージが今回です。
そしてその度にびっくりしてますね。ちょっとくどいかもしれません。まあ普通に驚くでしょうけども。
次回は戦闘。ちなみにユギトがいるこの砦は、原作と同一かどうかはちょっと怪しいです。
原作で壊れてた砦と思しき建物、山地にある以外の立地が分からなかったんで。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送