はぐれ雲から群雲へ
                  ―12話・味噌の香りと身の上と―

―ラーメン一級流―
鼠蛟が教えてくれた方向にあった飲食店街に唯一あったラーメン屋は、昼時という事もあって多くの人でごった返していた。
この辺りはうどんの方が主流らしく、周りの店が掲げるのぼりはうどんと書かれたものばかり。
その中で、他とは違う味噌ラーメンの文字は良く目立つ。
列に並んで待つ最中、ふんふんとナルトが鼻歌交じりに歌っていると、
露骨な浮かれようを疑問に思ったらしく、後ろに居たフウが肩をつついてきた。
「アンタ、そんなにこれ好きなの?さっきもすごいはしゃいでたけど。」
「おう!もうラーメンは、特に味噌味はおれの魂だってばよ!」
ラーメンと名のつくものはしょうゆも塩も豚骨も食べるが、中でもナルトにとっての一等一番は味噌味だ。
想像しただけで垂涎物の魅力といっても過言ではない。
「たかがラーメンで魂って……そこまでおいしい?」
そこまで思い入れのないものについて熱く語られても、残念ながら彼女はついていけない。
「うまいに決まってるだってばよ!っていうか、食べたことある?」
「食べたことくらいあるってば。
ただ、ラーメン屋とかに限んないけど、お店に入って食べたことってないよ。」
「そっか。やっぱり、あんなところに住んでたから?」
里外れに住んでいた所を見れば、ろくにあそこから出ないことはナルトにも想像がつく。
外食経験に乏しくても驚きはしない。
「まあね。……っていうかアンタも知ってると思うけど、うちらって出歩いてもろくなことないでしょ?」
「……ああ、うん。まあね。」
ナルトにも身に覚えはある。木の葉でも、事情を知っている大人が意地悪をすることは多々あった。
特に1人暮らしを始めてすぐの頃までは、そういう事が多かった記憶がある。
(ここだけの話、おれも大人が物を売ってくれなかったりとか、そういうのもたまにあったしさ。)
(はぁ、やんなっちゃうね。そういうの。)
声を潜めてそう耳打ちすると、彼女は心からの同情の言葉をかけてくれた。
自分よりマシな待遇と言っても、やっぱり扱いはそんなものかという心境なのだろうか。表情は少し苦い。
「次のお客様、奥へどうぞー。」
ようやく順番が回ってきて、店の中から案内の女性が2人を呼んだ。
「あ、来た来た。」
「どこの席?」
「あっちのテーブル。あれ、だめ?」
通されたのは一番奥のテーブル席だ。位置が気に食わないのかと思ったが、フウは首を横に振った。
「別に。カウンターはなんか気が進まないし、そこで平気。」
「え、カウンターいいじゃん。店の人が目の前で作ってくれるのが見えるってばよ?」
「……興味ないし。」
「あ、そう……ごめん。」
もしかすると、人目があると落ち着いて食べられないのかもしれない。
普通の人間でもカウンターは苦手という意見は珍しくないので、人目が嫌ならこの反応も当然だろう。
ナルトはむしろそれが好きだから、うっかり気が回らなかった。
「謝んなくてもいいけど。」
「でもさ、何で苦手なんだってばよ?別に店の人と話さなくたっていいし。」
普段のナルトなら反対意見につい不満を漏らしてしまうところだが、そこを我慢してたずねてみた。
だが、彼の質問に明確な答えを持たないフウは口を濁す。
「あー……そういう問題じゃないの。」
「そんなもんか……あ、ところで何食べる?おれ、この黒味噌のチャーシューにするけど。」
里の人間にいい思い出がないから、他の人間の近くというだけで嫌なのかもしれないと、ナルトは勝手に結論付けた。
いつまでも引っ張る話でもないので、さっさとテーブルに置かれていたメニューを開いて本題に移る。
表紙にも載せられた写真のインパクトに引かれ、ナルトの注文はすぐに決まった。
彼女も自分の分のメニューに目を通し、同じようにぱっと決めてしまう。
「アタシは白いの。一番安いのでいいや。」
「せっかくおごってもらったんだし、この辺いっとけば?」
そう勧めながら、指で具沢山の品名をいくつかなぞった。
1人100両なんて、ナルトにとっては贅沢極まりない昼食代だ。滅多に食べられない高額メニューの食べ時である。
しかし、髪をかきあげるフウの顔はあまり乗り気ではなさそうだ。
「別にいいよ。おなかいっぱいになればいいし。」
「うーん……。」
欲がないというべきか、投げやりというべきか。
別に珍しい反応でもなんでもないが、ナルトには物足りなく感じた。
「そういやさ、何か好きな食べ物とかある?」
「好きな食べ物?うーん……。」
フウは目を瞬かせた後、少し考え込む。
女の子らしく甘いものと来るなら、お汁粉辺りだと気が合うのだがどうだろうか。
返事を待つ短い時間に、そんな考えがナルトの頭によぎった。
もちろん彼の考えは露とも知らず、再び口を開いた彼女はこういった。
「うどんとか。」
「うどん?」
それはまた渋い好みだという軽い驚きから、聞き返す声の調子が高くなった。
「そう。この国、結構いい小麦と水が取れるんだって。だからうどんがおいしいの。
ほら、外にも一杯あるでしょ?」
「あ〜、どうりであんなにいっぱい……。」
店に入る前に見たのぼりを思い出して、確かにとうなずく。
シンプルなうどんはもちろん、カレーうどんに天ぷらうどん、味噌煮込みなど、各店が自慢のうどんを掲げていた。
たまにそこにまぎれてそばや普通の食堂、洋食屋などが看板を出していたが、この通りの7,8割はうどん屋だ。
「でも、もうちょいラーメンもあっていいと思うけどなあ……。」
「よそに行けばあるでしょ、ラーメン屋くらい。こんな田舎にもあるんだし。」
適当な返事をしてから、フウは先程の店員が案内のついでに置いていったお冷をあおる。
今まで入ったことがないというだけあって、ラーメン屋にそこまで執着はないようだ。
そもそも外食そのものに対してそうなのかもしれないが。
「そういうアンタのところは、ラーメンまみれなわけ?」
「んー、色々あるってばよ。甘味処もいっぱいあるし、あっちこっちの郷土料理とかもあるし……。国がでかいからさ。」
大国の食事事情に興味が少し出たので、今度はフウがナルトに聞いてきた。
火の国は国土が広く、元々農業向きの土地柄だから食材が豊富だ。
大国と名のつくところの常だが、周辺から人と物が集まってくる結果、多様な食文化も形成されやすい。
自来也と諸国を旅して回るようになってから、ナルトも訪れた国と自国の文化の違いが大まかに分かるようになっていた。
「ああ、じゃあこんなところよりよっぽど都会ってわけか。」
「い、いや……別にここが悪いって思ってるわけじゃないってばよ?」
過去、旅先で時々田舎の人間の不興を何度か買ってしまったことがあるので、ナルトは必死に否定する。
「気にしないでよ。アタシがここを田舎って思ってるだけだから。」
「ならいいけどさ。でも、こういう所はこういう所で、結構いいところあると思うけどなあ。」
都会にはない田園風景やのどかな自然は、のんびり暮らすならもってこいの土地柄だろうし、
色々と田舎ならではの楽しいこともあるに違いない。ナルトは素朴にそう考えた。
「ふーん。ま、アタシみたいなのには、故郷以外ならどこでも天国かもね。」
「まあまあ、そういうなってばよ。」
さらりとした呟きから漏れた故郷への思いは辛辣そのもの。
同意を避けたナルトには苦笑いしか出来ない。
―でも、おれも小さい頃は木の葉が嫌いだったもんな……。―
イルカや同期の旧友と知り合うまでは、特に大人からの扱いに何度参ったことか。
幼少期の記憶はもう薄くなっているが、三代目との思い出の他は、所々はっきりと嫌な記憶がこびりついている。
「だってさー、他の連中から嫌われまくってると、自分の顔を誰も知らないところならって、思うじゃん。」
「ううっ……否定できないような。」
一体どういう時にそう感じていたかまでリアルに想像がつき、ナルトの口元は引きつる一方だ。
大人にあっちへ行けと追いやられた嫌な思い出が、頭の片隅でちらちらと再生される。
「でしょ?あ、アンタ時々は気が合うかも。」
「どうせなら、もっと明るい話題の方で合いたかったってばよ〜。」
フウは嬉しそうだが、こんな後ろ向きな話題で気が合っても困る。
とはいえ彼女が持っていそうなマシな話題というと、うどんの味か自分の妖魔との相性くらいだろうか。
前者はともかく、後者は食い違いそうな気もした。
しかし、話題に妖魔を持ち出すのは悪くなさそうだと考える。過去の嫌な思い出を掘り返すよりはずっとましだ。
「ところでさ、あの緑の人ってば、いつもこう……こんなんなわけ?」
人が多いので名前を出さないように気を使いながら、動物を抱く仕草でそれとなく伝えようとする。
「ああ、あいつね。うん、いつもこんなんだったりそんなんだったり。
昨日今日みたいに、こういう格好って方が珍しいよ。アンタの所はいつもこの格好なわけ?」
フウはマフラーを首に巻くような動作や、片手を四つん這いの動物のようにして机を這わせたりした。
その後、自分の服を軽く引っ張りながら逆にナルトに質問してくる。
「うん。いつもあの格好だってばよ。」
「へー。そっちが普通なわけ?」
「うん。じいちゃん所のもそうだし。違う格好はあん時初めてだってばよ。」
狐炎にしろ鼠蛟にしろ、磊狢と違って動物に化けることは普通はない。
昨日のように必要があれば話は別だが、基本的に人間に化けたらずっとそのままだ。
「そっか。うちの所だけなのかな?」
「かもね……もう1人違うところに住んでる奴知ってるけど、そいつも2人と一緒だし。」
人間と行動を共にする妖魔は、基本的に人間姿で通す方が都合がいいのだ。
それは砂の里で生活している守鶴についても変わりない。
聞かれたらまずい部分だけをぼかしながら話していると、テーブルにラーメンが運ばれてきた。
「黒味噌チャーシューラーメンと白味噌ラーメン、お持ちしました。」
「あ、どうも。」
運んできた女性は、手際よくメニューを回収して去っていった。
目の前に置かれたラーメンからは、それぞれ味噌のいい香りが立ち上る。
白と黒の対照的な見てくれだが、どちらも同じくらいおいしそうだ。
「おー、うまそうだってばよ!んじゃ、いただきまーす♪」
歓喜の声をあげ、早速ナルトは黒味噌チャーシューラーメンをほおばる。
ずるずると景気のいい音が響いた。
「うわー、急に元気になったねアンタ。」
ラーメンを魂と称するのは本気だったと悟り、フウは呆れ半分に一口目を口に運んだ。
彼の口には、その間にすでに二口目が入っている。多分、彼女の半分の時間で空になるだろう。
「ん〜〜、濃厚で最高!ここ、替え玉あんのかな?」
香り高く風味豊かな黒味噌のスープは絶品で、ナルトは舌鼓を打った。
そして口の周りも拭かずに、紙ナプキン入れに書かれた小さいメニューを眺める。
お望み通りの文言は端の方に載せられていたのだが、完全に思惑通りとは行かない。
「あ、有料か……20両は高いってばよ。」
木の葉の一楽や、旅先で見たいくつかの店では替え玉が1回位無料だったのだが、
ここは1回からきっちり料金を取る側らしい。
チャーシュー麺の値段を引いたらナルトの手持ちは10両しかないので、残念ながらお預けである。
(う〜ん……ちょっと奮発しすぎたかも。)
釣り銭に余裕のあるフウから借りようかという思いが一瞬よぎったが、あつかましいのでやめておく。
女の子からお金を借りるのもちょっと恥ずかしい。そんな男のプライドだ。
「何?まだ食べるわけ?」
「あー……いやぁ、何でも。」
気づかれないように、あくまでナルトは平静を装った。とはいえ、傍目にもそれがポーズであることはバレバレだ。
「何か食べたかったら勝手に食えば?」
「え、いいの?!」
フウの言葉で、条件反射的にナルトの顔がぱっと輝く。
やっぱりと彼女は内心呆れながら、先程までしまっていた100両札をひらひらさせてこういった。
「だって、これアイツの金じゃん。」
「あー、それもそうだってばよ。」
確かに本をただせば鼠蛟の金だ。
しかしせっかく取り分を分けてもらうことだし、
彼女と分けられる餃子に注文を変えようかなと思い直して、ナルトは付近の店員を探そうと辺りを見回す。
しかし入口の脇の壁際、カウンター席の端にあまり遭遇したくない類の人間を見つけてしまい、背筋が凍った。
「あ……。」
「どうかした?」
いきなりの変化にフウも戸惑う。だが、彼は首を横に振った。
「ううん、気のせいだった……うん。あ、それと追加はいいや。夕飯まで取っとく。」
ぎこちない態度を隠せない様子で、ナルトは自分の気を落ち着かせるかのようにラーメンの汁を口に流し込み始める。
あからさまにに歯切れの悪い返事が腑に落ちず、フウは眉をひそめた。
何を見たのかと思って同様に視線を巡らせるが、これと言って変わったものはない。
強いて言えば、やけに隙のなさそうな男がいる。何となく同業者のにおいがした。
―もしかして、同じ里の奴なのかな。―
ナルトが急に静かになったので、たぶんそうなのだろう。
変化の術は手軽に姿を変えられるが、よく観察できる状況だと腕の立つ忍者は見破ることも多い。
余計なことを言って目立たないよう、フウもさっさと食事を片付けることにした。
黙って食べれば麺が消えるのも早く、5分と経たないうちに汁まで綺麗になくなる。
こそこそと席を立ったナルトと、その後についたフウがレジへ向かおうとすると、件の男が声をかけてきた。
「おい、そこの坊主。」
「!」
ナルトの心臓が飛び上がる。声をかけないでくれという彼の祈りは届かなかった。
「……アタシの連れに何か用?」
固まってしまったナルトを背中にかばうように、フウが割って入る。
半分睨みつけるようなきつい目で見てやったが、相手は特に動じるそぶりはない。
「いや、気のせいだったみたいだ。悪いな。」
「あっそ。今度から良く見てから声かけなよ。」
無愛想に言い捨てて、ナルトの二の腕をつかんで引っ張る。
会計を入口のレジで手短にすませて、背後の気配に注意を払いつつ店から離れた。
今のところは追って来る気配はない。
「……とりあえず、いいかな。」
「っぽい。……サンキュー。」
彼女の機転で何とか切り抜けられて、ナルトはほっと一息ついた。
男に声をかけられた時は、大げさではなく生きた心地がしなかった。
「別に。さ、まっすぐ帰ろ。そしたら安心でしょ?」
「うん。」
待ち合わせ場所はここからそう遠くないし、この時点で半分助かったようなものだ。
それでも用心は忘れずに、2人は気配に注意を払いながら立ち去った。


町を出発する予定時刻の少し前。
町外れの門のそばの影で、2人は先に来て待っていた他の仲間達と無事落ち合った。
途中で別れた鼠蛟も先に戻ってきている。
「たっだいまー!」
戻ってきて完全に気が緩んだナルトは、元気よく仲間に声をかけた。
「帰ったか。ラーメンでも食べてきたか?」
「あ、やっぱ分かる?なんか黒味噌のおもしろいのがあってさ〜。」
漂った匂いに気づいた狐炎に聞かれる。妖魔は鼻がいいからすぐに勘付くのだ。
とはいえ今日はお墨付きをもらっているから、ナルトはヘラヘラ笑っているだけで堂々としたものである。
「アタシは白味噌のー。」
「鼠蛟、お前か?」
ナルトが財布を置いたまま出て行った事は知っているので、狐炎は彼らを見ていたはずの鼠蛟にたずねた。
そう、と答える代わりに彼は軽くうなずく。
「無一文だったから。だめか?」
「お前の判断なら構わぬ。」
旅慣れている鼠蛟が渡したのなら、狐炎がとやかく言わなくても大丈夫だ。
他人が好きでした事にくどくど言うほど狭量でもない。
「磊狢はどこか知ってる?」
いい加減彼と口を利こうと思ってフウが尋ねる。
「そこにいるが。」
「あ、フウおかえりー♪おいしかった?」
狐炎があごをしゃくって示すと、彼の斜め後ろ辺りから磊狢がひょっこり顔を出した。
姿が見当たらないと思っていたフウは少し驚いたが、どうも街路樹の陰に居て、ちょうど死角になっていたらしい。
今朝から一言も話してないことなんて水に流したのか、にっこり笑って自分の器を出迎えてくれる。
「う、うん。初めて食べたけど。」
意外とすんなり話が出来たことに、フウは内心拍子抜けしつつほっとする。
向こうから声をかけてもらったことと、時間を置くのは有効だったようだ。
「ナル君と仲良くなれたみたいだし、良かったね〜。」
よしよしと頭を撫でられ、子供扱いにむっとしつつも今日だけはと思って一応我慢する。
それに狐炎や周りの様子を見ると、もう移動を始めそうな気配がした。今日はこの町に泊まらず、道中で野宿にするのだ。
「さて。揃ったところであるし、そろそろ歩くか。」
「おお、もう出るんか?」
よっこらせと大儀そうに立ち上がって、老紫は背もたれにしていた荷物袋を背負う。
「日暮れまでそう時間は無い。行くぞ。」
次の目的地である鼠蛟の本拠地までは、かなり隔たっている。
少なくとも途中までは歩くつもりなので、距離は今のうちにできるだけ稼いでおくのが得策だ。
「鼠蛟さーん、背中に乗せてくれってばよ〜。」
「嫌だ。」
ナルトは単に移動が億劫で冗談交じりに言っただけなのに、きっぱりとけんもほろろな調子で断られた。
「えー。」
「昨日の非常時と一緒にするな。黙って歩け。」
狐炎からは当然怒られ、ナルトは予想通りの結果だと思いつつもむすっとふてくされる。
ちょっと位ノリのいい返事をしてくれたっていいじゃないかと思うが、そうは行かない。
「飛んでくのは楽なのにのー……。」
「ねー……。」
「うう、やりきれんぞい……尻ボンバー!」
「ギャー!何でそこでおれのお尻に八つ当たり?!」
ナルト共々不平を言っていたと思ったら、いきなり老紫はナルトの尻に強烈な平手をお見舞いした。
意味不明な不意打ちに思わず飛び上がる。結構痛い。
「何やってんのおじいちゃん……。」
「鬱憤晴らしには、隣のケツを叩くのが土の国流じゃ!」
「意味わかんないし!」
フウに呆れられてもナルトにつっこみを入れられても、老紫はふんぞり返って大威張り。
当然こんな謎の風習があるわけもないので、むしろ意味が分かったら大変だ。
「……。」
ところがこの光景を、いつも彼の珍行動に辛口な鼠蛟が何故か咎めない。
少しの間様子を眺めた後、おもむろに口を開く。
「老紫。」
「ん?」
“気づいたか?”
鼠蛟が念話でたずねると、老紫は軽くうなずいて尻をどついた手をひらひらと振った。
若者2人は意図に気づいていないので、不審物を見る目で首を傾げただけだ。
それに内心ほくそ笑みたくなるような気分を覚えつつ、老紫は今日買った新聞を持ち出した。
「おお、そうじゃ。狐炎よ、こいつを渡しとくぞい。とっとくんじゃろ?」
「ああ、済まぬな。」
渡された新聞を受け取り、狐炎はそのまま自分の荷物袋にしまう。
それから、すたすたと 町を出る方向とは逆に歩き始めた。
「あれ?どこ行くんだってばよ?」
「少し、買い忘れがあったのを思い出してな。先に行っておいてくれ。すぐに追いつく。」
呼び止めてきたナルトにそれだけ言って、狐炎はそのまま行ってしまう。
「ふーん。じゃあ、早く来いよー。」
珍しい事もあるなとナルトはぼんやり思うが、
たまにはこれ位やる方が人間味があっていい気もしたので、特に気に留めない。
もう他のメンバーが町の外に向かって移動し始めたので、置いていかれないようにそれについていった。


仲間を先に行かせた狐炎は、1人で狭い路地裏へとやってきていた。
召喚した3体の妖狐に渡したのは、老紫が新聞にまぎれて渡してきた小型の発信器だ。
彼らはそれを受け取ると、すぐに順々に回してそれに付着したにおいを確認した。
「これの持ち主ですね、主様。すぐに探し出してまいります。」
「まだ近くに居るはずだ。行け。」
『はっ!』
命を受けた狐達は忽然と姿を消した。有能な彼らは、恐らく日が落ちきる前に使命を果たすだろう。
妖狐は、犬や狼の妖魔程ではないが鼻がいい。顔も声も不明だが、手がかりはこれで十分だ。
ナルトが通ってきた経路の近くに居る事は分かっているのだから、なおさら分かりやすい。
―町中であっても、あやつらだけでの行動は控えさせるべきだな。―
来た道を引き返しながら、ナルトとフウの処遇について思考をめぐらせる。
少なくとも先程の細工は、彼ら以外は気づいていただろう。そぶりをちっとも見せなかった磊狢にしてもだ。
鼠蛟には少々苦情をつけたい部分もあるが、食事の前後の不在はあまりうるさく言っても仕方ない。
今回は、文句が出るのを承知で若輩者達に行動制限を言い渡すことで終わらせようと決めた。


―前へ―  ―次へ―  ―戻る―

地味な展開なのに地味に時間がかかって泣けた一話です。まとまらないったらありゃしない……。
ちなみに途中でちょっと出てきた木の葉の忍者は、ナルトが任務受付所で顔を見かけたことがある程度の人です。
それはともかく、これでフウとナルトが仲良くなるまでのパートは終了。
次は移動先でまたちょろちょろと作戦会議とかその辺ですね。
それにしても、自分が書くと戦闘シーンがえらく少ないなあ。壷の2本含めて長編3本全部そうって。
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