はぐれ雲から群雲へ
                    ―11話・揺らめく水面―

「……はーぁ。」
風に若草色の髪とため息をそよがせて、フウは1人丘の斜面に座り込んでいた。
道中で昨日の事が書かれた新聞も見かけたが、それがまだ信じられない。
いつもペットのように振舞う磊狢がこんな事態を引き起こすとは、彼女は夢にも思ってもみなかった。
過去をどんなにたどっても、そんな真似をしそうな片鱗は見当たらない。
彼はいつも能天気でマイペース、時に悪質ないたずらばかり。
本性である化けむじなを描いた荒々しい絵を里の人間が見せてきた時でさえ、
そんな性格と結びつかずに首をかしげたことしかなかった。
いつも磊狢は、フウが唯一気を許せるパートナーだったのだ。

まだ5歳にも満たなかった頃の事だ。
怒られなじられが当然の修行の後に、親子連れや数人で仲良く遊ぶ子供を見た日は、ほとんどいつも泣いていた。
自分ばっかりどうしてと、子供心に理不尽な環境への怒りと悲しさを発散していたのだろう。
“ねぇらいば、アタシはずっと一人ぼっちなの?”
“一人ぼっちじゃないよ。ずっと僕が一緒だよ。”
泣いている時、慰めてくれたのはいつも磊狢だった。里の誰しもが冷たくても、この妖魔だけは彼女に優しかった。
“ほんとに?”
“うん、そうだよ。”
人目さえなければ、彼は泣いているフウのそばに居る時は人間に化けてくれた。
暖かくて大きな手に、にっこりと底抜けに明るい笑顔。
取り立てて目を見張る体格ではないが、優しい大人は本当に貴重で、背丈以上に大きく見えていたものだ。
“じゃあ、だっこして。”
“いいよー。”
フウがねだると、彼は二つ返事で引き受ける。
“わぁ。”
ひょいっと軽く抱き上げられるのが、フウはとても好きだった。
今はもちろん恥ずかしくて頼めないが、親が恋しかった当時の彼女は、身近で一番優しくしてくれた彼にそう言っていた。
世間の子供なら親にねだることを、フウは皆磊狢に求めたのである。
“磊狢、ありがと。”
肩にかかったモコモコの毛皮に顔を埋める頃には、怒り半分の悲しい気持ちもだんだん薄らいでいった。
父も母も居なくても、ちゃんと愛してくれる存在が居ると確認すると、それで満足できたのだ。

さすがに心境はすでにおぼろげだが、甘えたい気持ちや親が恋しい気持ちを全部ぶつけていたのかもしれない。
今思えば、子供っぽい彼はその時に一番年相応の事をしていたと、フウは回想する。
見た目では説得力に欠ける既婚者子持ちの経歴は、伊達ではない。泣かれても扱いに困ることもなく、余裕をもって接していた。
フウにいつも素直な愛情を向けてくれていた事も、誰より彼女自身が良く知っている。
それだけに、昨日の事件は色々な意味で衝撃が大きかった。
1つには、もちろん愛情の深さがあのような形で発露されたことだ。一のために万を斬る。
ナルトや老紫はその行為を非難していたが、彼らの妖魔である狐炎と鼠蛟は当然の事として受け止めていた。
妖魔にとって、磊狢が引き起こした事態は不思議でもなんでもないもので、扱いも軽いものなのだろうか。
しかしそうだったとしても、フウの心には重くのしかかる。
「どうすればいいんだろ。」
結局、今朝もまともに話をしていない。
周りに他の人間や妖魔がいるから、それを幸いにそっちにしか話しかけていないのだ。
磊狢は一見いつも通りだったから、もしかしたらフウが落ち着くまで待っているのかも知れない。
だが、話そうにも何て言えばいいのか分からなかった。
向こうだって話しづらいだろうが、彼女もどんな顔をして接すればいいか困っているのだ。
悶々として考えあぐねていると、後ろから声がかかった。
「おーい!」
「ん?」
振り返ると、茶髪の少年が走ってくるのが見えた。
誰だっけと考えるうちにすぐそばまで彼がやってきて、そこでやっと正体に気がつく。
「何だ、アンタだったの。」
町中用の変装のせいですぐに分からなかったが、何の事はない。ナルトだった。
「こんな所にいたのかー、探したってばよ。」
「探したって……ほっといてって、アンタのところのに言ったのに。」
黙って行こうとしたら狐炎に見咎められたから、仕方なく断りを入れて出てきたのだ。
行き先ぐらいナルトも知っているはずだが、遅いから探しに行けと彼に頼まれているのだろうか。
そう考えた彼女だったが、そうだとしても帰るもんかとこっそり意固地になった。
「そりゃ聞いたけどさ、昨日あんなんだったし……心配だってばよ。」
邪険にされていることは承知なので、少しためらいがちにナルトはそう言った。
「心配?」
「うん。」
ナルトは本気で言っているので、フウからオウム返しに確認されても平然とうなずいた。
「別に心配されなくったって……。」
何となく気まずくなって、フウは彼から目をそらした。
昨日初めて顔を合わせたばかりの人間に向かって、どうしてそんな言葉をかけてくるのか不思議だ。
これがお人好しという人種の現物なのだろうか。
フウは人間からそんな反応をされたことがないので、どうしていいか対応に困ってしまう。
「だってさ、今日から仲間だし。仲間のことを心配するのは当たり前だってばよ!」
「……仲間。」
今まで里の忍者からはとんとかけられた覚えのない言葉を、神妙な顔で反芻する。
いつも仲間外れだった彼女にとって、その輪に入ることは遠く忘れ去られた淡い憧れだった。
―そういえばこいつ、あいつらにもそんな事言って怒鳴ってたっけ……。―
滝隠れでフウを暁とやらに引き渡そうとしていた忍者達に向かって、
ナルトは『仲間に何て事を』と、まるで自分をないがしろにされたかのように怒っていた。
あの時はそれどころではなかったが、考えてみればその時点で不思議なことを言っていたものだ。
「フウ?ごめん、おれ何か変なこと……。」
完全にそっぽを向かれたナルトがおろおろとしている事は、背中越しでも彼女にはよく分かる。
「……アンタのせいじゃないよ。
アンタみたいな奴、今まで会ったこと無いだけ。」
周りにいた人間は、いつも邪険にしてくるばかり。年齢性別問わず、誰も味方などしてくれない。
心配してくれたのも磊狢だけだった。里の人間からは気にかけられたことがないから、彼女は戸惑うしかない。
「アンタ達って変。アンタもあのおじいちゃんも。妖魔は……元々変だろうけど。」
妖魔の感性は、はなっから人間とは別物だ。そう片付けてしまえばいいので、彼女は但し書きをつけた。
「どういう意味だってばよ?」
「あのさ、昨日会ったばっかりでしょ。どうして今日から仲間とか、そんな軽く言えるわけ?
利用しようって言うんなら、まだ納得できるんだけど。本当のところはどうなの?」
物分りの悪い反応に苛立って、フウの声がとげとげしくなっていく。
横目で睨むように見られた挙句、問い詰めるような口調で畳み掛けられたナルトは、一層落ち着かない挙動になる。
やましいところは一切ないにもかかわらず、視線が泳いでしまっていた。
「利用って……、そんなつもりはないんだけどなあ。
昨日あいつがちゃんと説明したじゃん。狙われてて危ないから、一緒に行こうって。本当にそれだけだってばよ。」
完全に疑われているなと理解して困りつつも、ナルトはとりあえず事実を率直に話す。
何故かは分からなくても、昨日初めて話した時よりも警戒されている事は、嫌でも分かる雰囲気だ。
「ふーん、『兵器』相手に、本当にそれだけで?」
「……いや、だからさあ。何でそんなに疑うわけ?昨日はちゃんと聞いててくれたじゃん。」
「そりゃ、アイツが自分の友達と話してただけだったから。任せてただけ。」
なるほど、その仲介がないから今はいちいち相手を疑ってかかるというわけか。
ナルトはやっとそう納得できたが、これでは彼のお手上げ気分は解消できない。
何とか彼女に理解を示してもらわないことには、話は永遠に平行線だ。
「まあ、理由っていわれちゃうと難しいってばよ。
利用するしないで言ったら、利用させないって風になんのかなあ。」
暁は危険な組織と自来也から教え込まれているが、うなずくばかりでどう危険かは漠然とした意識だ。
それに気づかされながら、その漠然とした感覚を明確なものに1つずつ変換しようと頭を働かせる。
ここでしくじったら、彼女に心を開いてもらう絶好のチャンスを逃してしまう。
少し間を置いてまとまったところで、こほんと咳払いをしたナルトは改めて彼女の顔を向けた。
「狐炎が言ったとおり、暁はおれ達を狙ってる。
それで何をするかはまだはっきりしないけど、おれの師匠は、だから怖いって言ってた。」
師匠の自来也が暁の話をする時は、いつもまじめな顔をしていた。
自分の安全の事だったから、ナルトもそれを茶化したりせずに聞いていた。それを思い出しながら、彼もまじめな顔でそう言った。
「変な奴に利用させないためにってのは分かった。アタシはその先をまだ聞いてない。
利用させない、利用もしない。じゃあ、ずっと逃げ回るつもりなわけ?」
昨日一度聞いているから、そこはもう彼女は理解している。
ナルトに聞きたいのは彼らの最終目的だ。そしてそこは、どうしても聞いておきたいところだった。
「おれはそんなつもりはないってばよ!
本当なら今すぐにでも乗り込んでって、ぶっ潰してやりたい。
でも、そんなのはまだ無理だってのも分かってる。多分、あいつもこのままずっとなんて考えてないしさ。」
時に多くを語らない狐炎だが、人柱力を集めて隠遁暮らしなんて事は考えてはいないだろう。
機が熟したと判断したら、新しい策を講じるはずだ。 その策が何に当たるかは、ナルトにも大体分かる。
「それは、まだ戦力が足りないって事でしょ?」
「うん。一度連れてかれそうになった時思ったけど、あいつらはただ者じゃない。
おれだけじゃ、今でも絶対無理だと思う。」
イタチと鬼鮫の襲撃は、ナルトにとって今でもはっきりと思い出せる人生最大の危機だった。
彼らに対抗するには、対等以上の戦力が必要だ。仲間を集めて力を合わせなければ、組織を打ち倒すことは難しい。
推測交じりにはなるがこちらの認識は一通り伝わったはずだ。
「そう。じゃあ、やっぱり利用しないってのは嘘じゃん。」
「ええっ?!な、何でそうなるんだってばよ?」
思ってもみなかった冷ややかな反応を浴びせられ、ナルトは落ち込むよりも先に驚かされた。
呆れたのはフウだ。彼は何も分かっていない。
「はー……アンタ、馬鹿?アタシも磊狢もね、別にこっちから混ぜてなんて頼んでないの。
そっちがいきなり話付けに来たんでしょ?」
「うっ。だ、だけど。」
それは事実だ。だが、その言い草は何か趣旨が違う。しかし彼女のかんしゃく玉は、弁解の暇すら吹き飛ばす。
「言い訳なんて聞かない!ったく、結局どいつもこいつも一緒じゃないの。……損した。」
「……フウ?」
何故か酷くがっかりした様子の彼女が、ナルトの目に違和感を覚えさせた。
最後に小さく付け足された言葉の意味が気になって仕方がない。
もしかすると、聞くまでは何か得になるようなことを期待していたのだろうか。
「もう用は済んだでしょ?さっさと帰れば?アタシは1人で平気だから。」
もはや彼女は睨む視線さえくれない。

「……。」
正直に事情を説明したつもりだったが、何かまずいところに触れてしまったらしい。鈍感なナルトにも分かる。
彼女の逆鱗がどこだったのか、しかしすぐにはわからない。分からないまま、妙な間が空いてしまった。
「ごめん。」
重い空気にいたたまれず、ぽとんと謝罪の言葉を落とす。
―って言っても、何がごめんなんだか分かってない奴に言われたって、嬉しくなんかないよなー……。―
実のない言葉にナルトは自分で嫌気が差し、深呼吸1つと共に肩が落ちる。
どんな気持ちで謝ったか、言葉が薄っぺらいか、すぐに彼女は勘付いてしまうだろう。きっと、心証は余計に悪くなった。
―何でおれってば、肝心の時に相手を怒らせちゃうかなー……。―
彼女からの返事はない。顔もよそに向けたままだ。
やっぱり怒っているのだろう。許してくれそうな気配もない。それでも諦めて帰りたくはないが、内心頭を抱えるしかない。
ただ、上手に相手の心をほぐす言葉を持たないのがもどかしいばかりだ。
ナルトには年長者の余裕も、正しい女心の扱い方の知識もない。つたない言葉を重ねるしか方法はなかった。
「……帰んないの?」
黙っていても離れる様子のないナルトに苛立ち、フウの催促が始まった。
あからさまな拒絶のオーラには少し心が傷つくが、そんな痛みは我慢する。
「今帰ったら、逃げたことになるってばよ。」
「何で?別に、そんな事ないでしょ。」
意味が分からないという風情の返事は、文字通り取り付く島もない。
しかし、ナルトにはそんな理屈が通るのだ。
「こんなこと言ったら笑うかもしれないけどさ。おれ、ちょっとでもフウと仲良くなりたいんだってばよ。
仲間とかそういうのもあるけど、せっかく知り合ったからさ。」
人付き合いは難しいが、とても素晴らしいことだ。
ちょっとした雑談で盛り上がったり、落ち込んでいる時に励ましあったり出来る友人の良さを、是非彼女にも知って欲しかった。
「アタシがそんな気ないって言ったら?」
少しナルトの様子を窺うように、フウは首だけ向けながらひねくれた問いかけをした。
簡単に信用できない言葉を、すぐに鵜呑みにすることは出来ない。
「そしたら、まず顔見知りから……って、何言ってるんだろ。
と、とにかく!フウが今まで見てきた連中みたいな付き合いじゃなくて、もっとちゃんとしたお付き合いがしたいんだってばよ!」
「ちゃんとした付き合い?どんな感じの?」
「どんなって……そうだった。
フウにはおれにとってのイルカ先生も、同い年の友達も居ないんだよな。」
彼女には見本となる関係が、磊狢との間にある特殊な関係しか存在しない。
ナルトと仲良くなるとしたら、それが正真正銘初めての友人になるはずだ。
どうやって説明しようかとまた頭を悩ませかけたところで、先にフウが口を開く。
「周り中が敵みたいなものだったからね。それ、アンタの大事な人?」
「うん、おれと仲良くしてくれた大事な里の仲間だってばよ。
会って仲良くなってからさ、いい思い出もたくさん作れたし。」
ナルトの微笑みに曇りはない。ここでお世辞を使う理由もない以上、きっと混じりっ気なしの本音なのだろう。
彼女には少し信じがたいことだが、彼は嘘がうまくなさそうなのでそう思うより他ない。
「ふーん。じゃあ、アンタはアタシより里が好きなんだ。」
「もちろんだってばよ!
昔は大人にいじめられたこともあったけど、木の葉の里は大切なものがある故郷だから。」
「アタシと違って、アンタは優秀だったって事か。
あれ?でもじゃあ何で、アンタ故郷から追い出されたわけ?」
途中からいい事もあったのなら、恐らくナルトは自分より優秀に育ったに違いないと、フウは考えた。
しかしそれなら、どうして里がわざわざ彼を邪険にしたのだろう。
昨日狐炎が説明していた時も気になったのだが、優秀な人柱力なら里に居られなくする必要なんてないはずだ。
それを不思議に思ってたずねると、とたんにナルトの顔が曇った。
「追い出されたっていうか……今はちょっと、帰れないんだってばよ。」
「何があったの?」
やはり、里から抜け忍の烙印を押されたということだろうか。
ただならぬ事情を察してフウは声を潜めた。周囲に人気がないことを確認してから、ナルトがポツリポツリと話し始める。
「おれ、この前までずっと自来也っていう、
うちの里で強いって評判の人の弟子やってて、そろそろ帰ろうかなって思ってたんだってばよ。
そしたら何でかおれが封印解けかかってやばいとか、そんな事言われてたらしくってさ。」
あれは寝耳に水の大事件だった。今でも信じたくないという気持ちが底の方で渦巻いている。
先程までとは一転して影が差した彼の顔を、向き直ったフウが神妙な面持ちで見つめてきた。
「どうして急に。」
「狐炎が言うには、暁が変な噂をばら撒いたせいだろうって。
里の人達は結構たくさんそれを信じてるみたいで、帰ったら危ないって師匠が言ったんだ。
詳しくは何も言ってなかったけど、多分捕まって閉じ込められたりするんだと思う。
里が敵に回ったって言うのは、そういう意味なんだってばよ。」
今までに聞いたおおよその情報をまとめるとこんなところだろうか。
うまく説明できた自信はないが、とりあえず彼はありのままに今までの経緯を語った。
「何それ……昨日の、滝隠れの連中みたいな態度!」
話を聞いてフウは立腹した。
それまでの経緯こそ違うが、いきなり手のひらを返して自分の敵になったところはそっくりだ。
都合が悪いと思ったら即座にその扱いとは、それまで友好的だったというだけなおタチが悪い。
「詳しくはおれも師匠のカエルから聞いたくらいで、里の状況はあんまりわかんない。
でも、もう追っ手も出てるらしくって、どうすりゃいいんだか……。
あ、ごめん。おれがグチっちゃだめだよな。」
うっかりその先を続けかけて、ナルトは慌てて打ち切る。
励まそうと思って探しにきたのに、自分の境遇をぼやいたら本末転倒だ。
たとえつらくても、今は彼女にそんな話を聞かせている場合ではない。
「いいよ別に。アンタはアンタで、追い出されて大変なんだから。」
「あはは……サンキュー。」
いつの間にか顔を合わせて話をしていることに気付かず、ナルトは照れ笑いをした。
予定と違う方に転がって、むずがゆいような気分だ。
「ところで、あのおじいちゃんはどうなの?」
「じいちゃんは旅してるんだってさ。
本気かどうか分かんないけど、里で毎日監視される生活が嫌になって逃げて、それからずっと抜け忍だって。」
これから滝隠れに潜入しようというドサクサで放言していたことだから、
どこまで本気かは保証の限りではないが、いくらかは多分事実なのだろう。
明るく振舞う人間に暗い過去があってもおかしくないこと位、ナルトは自分という見本が居るから想像がつく。
「……へー。」
聞きだした事情を、フウは自分の中で反芻した。何だかんだで、訳ありの人間ばかりという事か。
老紫の生活は想像がつくし、ナルトがさらっと一言で流した里の冷たい扱いも良く分かる。
昨日や今朝と話している限りはそんな事を感じなかったが、彼らは単に暗い経験を隠しているだけなのだろう。
能天気に見えても、境遇的に共通する要素はある。
そこで初めて、彼女は仲間という言葉に納得がいった。
「確かに、仲間かもね。」
「分かってくれたかってばよ?」
フウの言葉を逃さず捕まえて、ナルトはぱっと顔を輝かせる。
「似たもの同士って意味なら。仲良くするかは、もっとアンタ達の事に詳しくなってから決めるけど。」
すぐにはいとは言えない。だが、最初から無理と切り捨てなくてもいいという気にはなれた。
だから、彼女なりに色よい返事をする。それでもナルトは嬉しそうだ。
「うん、ゆっくりでいいってばよ。おれも、初めて友達が出来るまでは時間かかったから。」
「え、そうなの?」
自分から追いかけてきてまで話に来た積極性からは思いもよらず、素っ頓狂な声を上げた。
すると、ナルトの笑顔に少し苦い色が混じる。
「ほんっとに小さい時は、遊んでても大人に見つかるとすぐに離されちゃう事も多くってさ。
ちゃんとした遊び友達が出来たのって、アカデミーに入ってからなんだってばよ。」
「そっか……それじゃ、時間もかかるってわけか。
アンタって磊狢みたいによく喋るから、すぐ出来そうな感じだって思ったけど。」
どんなに本人に意欲があっても、周囲が機会を潰してくるのではそうもなるのだろう。
磊狢と違って狐炎は気安い空気もない。子供の遊びになんて付き合ってくれそうには見えないし、あまり話してもくれなさそうだ。
きっと、自分以上に友達が欲しい気持ちが強かったのだろうなと、フウは思う。
実際は、まだ当時狐炎は偽体を作ってすら居なかったので、彼女の想像以上にわびしいことになっていたのだが。
「フウだって、勇気を出せばすぐに出来るってばよ。磊狢さんとは普通に話してたし。」
「あ、アレはペットだから!後、アイツに『さん』はいらないし。」
照れているのか思春期の微妙な心境なのか、磊狢の事を出されたら即座に否定にかかった。
ナルトの目線で言えば、社交的そうな彼と小さい頃から仲良くしていたから、
人付き合いをするための下地が出来たような気もするのだが。
「それは後で、本人に聞いてから決めるからさ……。
とにかく、ちょっとずつでいいから、おれ達と喋ってくれると嬉しいってばよ。な?」
「もう結構喋ってる気がするけど、考えとく。」
控えめな提案は悪くない。自然とフウの口角が上がった。
「あはは、良かったってばよ〜。」
お互いすっかり表情が緩んだところで、和やかな空気が流れる。
束の間の休息にふさわしい穏やかさがようやく訪れた。
「フウ、そろそろ帰んない?」
もうそれなりに時間がたっている頃合いだ。ちょうど言い出しやすい雰囲気になったので、さりげなく話を振った。
「んー……でもねー。」
どうしようかと口を濁したとき、横でナルトの腹の虫が盛大に鳴った。
「ぎゃー!ご、ごめん!!」
なんてタイミングでやってくれるのだ。ナルトは恥で憤死しそうなほどあたふた取り乱して、もう平謝りしかない。
あまりに必死な彼の様子が笑いのつぼにはまったらしく、フウは声を上げて笑った。
「もー、アンタお腹空いてるんなら、さっさと言えば良かったのに〜。
じゃ、帰ろ。それともどっかで食べてく?アタシお金持ってないから、アンタのおごりしかないけど。」
「……ごめん、おれも持ってないってばよ。」
「えーっ!アタシもお腹空いてきたのに〜!」
腹を減らしてぎゃあぎゃあ騒いでいると、2人の上からすっと2枚の100両札が出てきた。
『ん?』
突然の珍事に2人は目を丸くする。すると、今度は声が降ってきた。
「返さなくていいから、使え。」
腹の虫が騒いだ2人を見かねた鼠蛟だった。
ずっと今まで様子を見守っていたのだが、やっと出てきたのだ。
「どこに居たのアンタ?!」
「その辺。いいから、食べに行け。向こうに、たくさんある。」
もっともなフウの疑問を適当に返して、鼠蛟は飲食店が集まる通りの方向を指差した。
「うぉー、マジでいいの?!やったー!ラーメン〜!!」
「あっ、ちょっと!引っ張るなー!」
フウの手を捕まえて、ナルトは大発憤したまま走っていった。その背を見送って、鼠蛟はついぷっと吹き出す。
「年頃が近いのは、いい事だ。」
ナルトは友達作りに慣れているようだし、フウも根は明るいように見える。
これなら早いうちに仲良くなるだろう。
―こじれるかと、思った。―
途中でフウが機嫌を損ねた辺りでは心配したが、どうにかまとまったので彼も傍観者なりに安堵した。
ナルトの正直すぎるきらいのある発言には注文をつけたくはあったが、どうにか軟着陸させたのだから立派だろう。
しかもあの年頃は親でさえ手を焼くから、なだめすかす事は一大難事業と言っても過言ではない。
少なくとも鼠蛟にとっては十分賞賛に値する。
これならきっと磊狢も喜ぶだろうと思いながら、彼は再び隠形の術で身を隠し、2人の後をたどっていった。


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切羽詰るあまり、部分的にナルトがとんでもない事言ってるのは仕様です。サクラが聞いたら噴きますね。
今回はとにかく仲良くなろうと頑張るナルトと、人間不信のフウの溝が埋まるまでが全てです。
嫌われかけても必死になる態度に、彼の良さが表現できていればいいんですが。
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