はぐれ雲から群雲へ
                    ―25話・小さな町に落ちる影―

一行は早々に雷の国を離れ、再び海路で霜の国がある地峡を越えた。
無事に火の国がある大陸に入り、湯の国に入国してすぐの道中、彼らはある小さな町を訪れた。
西の空の雲行きが怪しくなっていたので、今夜の野宿を取りやめにしたためである。
「何か、暗い町だね。」
「そうじゃな、ちっとも人気がないぞい。」
規模の小ささを差し引いても、人の影がまばらな通り。
宿を探しながら歩くうちに、よくよく見るとここには子供の姿がないことに気が付いた。
公園らしき空き地の近くを通っても、歓声一つ聞こえない。
確かに少し日は傾きかけているが、今はまだ子供達が帰り始めるような時間ではない。
「おっかしーな……」
「ちょっと、聞いてみるか。」
そう言って鼠蛟が指したのは、通り沿いにある洒落た甘味処だった。
「おや、『同族』の店かい。いいねえ。」
『?』
鈴音が意味深に笑った意味が分からず、人間達は揃っていぶかしげな顔をした。

店に入ってすぐに中年の女主人に町の違和感の事を尋ねると、その理由はあっさり判明した。
「この辺、この数年はよく人攫いが出るんですよ。」
「誘拐犯が?物騒ですね。」
ユギトが眉をひそめた。
「ええ。連れて行かれた子供は、年も性別も、顔の出来だってバラバラ。
親としちゃあ、たまったもんじゃないですよ。もう20人近くにもなったかしら。」
確かにそれは怖い話だ。
可愛い子供ばかり連れて行かれるとか、幼い子供だけなどというならまだしも、無差別ほど恐怖心をあおる物はない。
大事な我が子を守るために、できるだけ外に出さないのは当然の判断である。
「ふーむ。外で遊べなくなるのは可哀想じゃの。」
子供なんて風の子と言うくらいだから外を飛んで回って当然なのに、この町ではそれも叶わない。
そんな状態が長く続いているのは、まともではないだろう。
「そなたは、正体を掴んでるのか?」
「少し調べましたら、どうもよそ者の仕業みたいですねえ。
ちっとも人間達に尻尾を掴ませないんで、多分その道の連中ですよ。」
鼠蛟に聞かれた女主人は、給仕をしながらそう答える。
「それにしても、びっくりしたってばよ。こんな所で、妖魔が店やってるなんてさ。」
店を営む彼女は、鹿の妖魔だという。店に入ってからすぐにネタ明かしされたのだが、まさに仰天だった。
まさか妖魔と縁もゆかりもない普通の人間の町で、妖魔が店を構えているなんて夢にも思っていなかったのだ。
「これも情報収集の一環ですよ。
人間相手の諜報も欠かせませんから、わたしみたいなのは探せばあっちこっちに居るもんです。
こうやって店を構えたり、もしくは行商したりして、あちこちの噂話を集めるんですよ。」
人間達の動向は妖魔達も無縁ではないから、こうして直接探る者達も少なくないらしい。
「で、何で町の人は依頼とか出してないの?」
「確かこの辺は、ろくなもんがなくて貧しいんじゃ。」
「忍者に頼めば確実ですが、高くつきますからね。特にこういった、事件性の高い捜索依頼は。」
「しかもこの国の忍者は、よそよりまともに戦えるのが少ないしのー。」
普通の業者より確実だが、依頼料は高額になる忍者の里への依頼は、
貧乏な町村ではとても払いきれないこともしばしばある。
おまけに荒事の専門家がよそと比べて格段に少ない湯隠れの里では、頼んでも当てに出来る人員が少ないかもしれない。
ともかく困った状況だということを理解したナルトの頭に、ぴんと閃きが降りてきた。
「あっ、じゃあおれ達が何とかしちゃえばいいってばよ!」
「おー、ナル君ノリノリだね〜♪」
「坊やの狙いは何だい?」
はやす磊狢に、意味深な笑みを向けてくる鈴音。彼らに向けて、ナルトは気合を入れてこう宣言する。
「もちろん人助けだってばよ!後さ、そういう奴って絶対アジトあるし、ついでに頂きー!ってさ。」
人を助けて根城も取り上げて一挙両得。
ただ人助けがしたいという正義感では終わらないあたりが、長く妖魔達と行動を共にした影響が出ている。
「だが、おおっぴらには引き受けられぬぞ。噂になるからな。」
「えー、じゃあただ働き?」
フウが口を尖らせる。純粋な人助けにはあまり食指が動かないらしい。
「金なら、人攫いから剥けばいい。」
「そうそう、身包み剥いでお外にぽーい!おうちも手に入って一石二鳥だよ〜。」
「あんた達……しもべが聞いたら泣くことばっかりお言いだね。」
事も無げに言ってのけた狐炎と磊狢の言い草に呆れて、鈴音が苦言を口にした。
根城入手はいいが、身包みを剥いで小金稼ぎはあまりにもみみっちい。
「意外と俗っぽいというか……何と言えばいいのか。」
「所帯じみちゃった、えへへー。」
何とかフォローする言葉を考えようとするユギトのそばで、磊狢がその心遣いを一瞬で無にした。
そんな事は知ったことではないらしい。
「まあ良い。女将、人攫いは近くに拠点を構えておるのか?」
「ええ、割と近いと思いますよ。でも近所の町や村にも出るので、その中間地点の辺りでしょうかね。
地図、書きましょうか?」
「これに頼む。」
狐炎が懐から適当な大きさの紙を出して、女主人に手渡した。
「はい。ええと……大体、この辺りが根城だと思いますよ。」
女主人は根城がありそうな領域を円で囲み、この町からの最短経路と併せて赤いペンで記してくれた。
どうやら森が茂る山の辺りが怪しいようだ。
「なるほど。では受け取れ。」
現金は減らせないので、狐炎は代わりに持っていた翡翠の指輪を礼金に渡す。
「まあ綺麗!ありがとうございます!」
女主人が声を弾ませて喜んだ。いそいそと奥に引っ込んでしまう。多分しまいに行ったのだろう。
「太っ腹じゃのー。」
「この程度、駄賃代わりに払えねば王など務まらぬ。」
「そんな事言って、お前ってば木の葉に居た時はすっげー金にうるさかったじゃ……いってぇ!」
「必要経費を支払う事と、金の管理の話を一緒くたにするな。このうつけ者。」
ナルトの足をためらいなく踏みつけた狐炎は、冷ややかにそう言った。
女主人が見ていない時にやられたのがせめてもの救いだ。
しかし完全に油断していた時にやられたせいで、うっかり涙目になるほど足が痛い。
「うぅっ……。つか、おばちゃん詳しくないとか言いつつ、結構目星付けちゃってるってばよ……。
あなどれないなー。」
「何しろ僕らの世界の忍者だからねー。」
人間も妖魔も考えるところは同じらしい。
―でも、あんまり年取らないのはどうしてるんだってばよ?―
400年、600年と平気で生きる分、老化速度は人間の目には停滞に等しいはずなのだが、どうやってやり過ごしているのか。
巧妙に変化して見せているのだろうかと、ナルトはこの際どうでもいい所で引っかかって悩んだ。

書いてもらった地図の情報通りに歩いていくと、森の中に険しい崖が切り立っている場所を見つけた。
崖は高く垂直で、もし一般人が登ろうとしても、ロープも無しに上がる事は大変な困難を極めるであろう。
「うわー、すごい崖だってばよ。こんなの、普通の人だったら絶対登れなさそう。」
「地図によれば、この辺りは三方をこのような崖が囲んでいるようです。……怪しいですね。」
「そうだねー。隠れて悪さする子は大好きなんじゃない?」
下から見上げただけでは上の様子をうかがう事もできない高台の上は、拠点を構えるにはなかなかの立地だろう。
「登ってみるか。」
「羽を出そうか?」
「この位なら、壁面歩行術でいけるでしょ。」
鼠蛟の提案に対して、フウは平気そうな顔で答えた。
幸い頂上も見えないような崖ではないので、足の裏からチャクラを出してうまく吸い付けば、大して苦労なく登れるだろう。
もっと高い崖だったら、提案に乗った方がもちろん早いが。
「じゃあ、いいか。」
「誰も見とらんしの。」
人目があったら気になるが、幸いこの辺りに人は居ない。全員崖を蹴りながらすいすいと登っていく。
程なく頂上にたどり着くと、今度はゆるい下り坂がある。
多分、ここは上から見下ろすとすり鉢のようにくぼんでいるのだろう。隠すにはますます好都合である。
「鬱蒼としているな。」
「ふうん……臭うねえ。」
狐炎に続けて、鈴音が意味深に呟いた。ナルトが首をひねる。
「臭うって?」
「文字通りさ。人工物のにおいって言ったら、分かるかえ?」
「あ、じゃあこの辺に誘拐犯のアジトがあるって事か!
なあ、臭いってどの辺からだってばよ?」
あいにく人間に微細なにおいの変化は分からないので、においが漂ってくる方角を尋ねる。
「あっちだよー。何か薬くさ〜い。」
「……え、嫌な予感。」
磊狢の言うとおりなら、それはつまり、この先にあるのは実験施設か何かではないだろうか。
ただの犯罪者のアジトよりも、よほど嫌な物が潜んでいる予感がした。

施設の入り口は鬱蒼と木が茂る獣道の奥、下からは完全に見えない場所に隠れていた。
天然の洞窟を利用した構造なのだろうか、入るとまず枝分かれした分岐に行き当たる。
しかし用心深い作りの割には結界の類は1つもなく、
落ちていた紙くずに積もったほこりの薄さなどから、どうやら最近放棄された施設という事が分かった。
ともかく、それなりに広そうだという見当はついたのでひとまず人間と妖魔の二手に分かれ、
施設と事件の関連性についての手がかりを探すことになった。
ナルト達は手近な部屋に入り、机や本棚などを物色し始める。
この部屋は天井近くまである背の高い本棚がいくつも並び、書斎か図書室といった趣だ。
もちろん一つ一つの棚には本がぎっしり詰まっていて、一冊一冊確認していたら何時間も潰れてしまう事は請け合いだ。
「うーん、やたら本ばっかり……しかも超難しそうなの。」
手にとる本は背表紙に書かれた題からして小難しく、素人目にもレベルの高い専門書だろうと判別できた。
「じいちゃん、これ読める?」
「うっ!か、漢字のせいで謎の頭痛が……あいたたた。」
本を向けられたとたん、みえみえの演技で老紫は頭を抱えて苦しみだした。
あまりのわざとらしさにナルトでさえ呆れ返る。
「ばればれの演技するなってばよ……じいちゃん、もしかしてアカデミーで寝てたタイプ?」
「失礼な!わしはふけとっただけじゃ!」
「さぼりじゃん。ったくもー、いい年して漢字読めないってどうなの?」
かくいうフウも自慢できるほど得意な方ではないが、新聞程度なら大体読めるし、日常的に目にする漢字で困ることはない。
それだと言うのに、その3倍以上生きている人間がこんな体たらくと言うのはありえないと、
少なくとも彼女の目はそう語っていた。
「っていうかじいちゃんってば、さっきの町でも新聞読んでたくせに……。
いつ買ったか分かんない奴。」
町に立ち寄った時の習慣なのか、茶屋を出た後に老紫は新聞を買って読んでいた。
「あー、耳が遠くて聞こえんのう。ついでに超目がしょぼしょぼして〜、本読むどころじゃないしのー。」
「どこまで逃げる気よ!この、くそじじい!」
「まあまあ、落ち着けってば。」
いけしゃあしゃあと見え透いた嘘を言い放つ老紫にぶちきれたフウを、ナルトがなだめる。
しかし、自分だって活字が好きなわけではない彼女はそれで治まらない。
「落ち着けるかー!」
「難しい物は私が調べておこう。
君達は、他の部屋にもこの施設のことが分かりそうな資料があったら、持ってきてくれないか?」
「分かったってばよ。フウ、行こー。」
「うん。あ、おじいちゃんはさぼんないでよ!」
ユギトの提案に、2人はありがたく乗らせてもらう。
老紫が隙を見てさぼらないようにくぎを差してから、ナルトとフウは手始めに又隣の部屋に入った。
この部屋はあまり使われていなかったのか、鍵はかかっておらず、家具もわずかでがらんとしている。
後は無造作に重ねられた箱とダンボールだけだ。
「ここ、全然本がないってばよ。」
「ほんとだ。棚がすかすか。片付けちゃったのかな?」
仕切りもなしに置かれた本は、横倒しになって平積みになっている部分もある。
このいかにもいい加減そうな扱いを見るに、大して重要な資料はないのかも知れない。
薄い本から手を伸ばしてぱらぱらと確かめてみるが、案の定ろくな内容ではなかった。
少なくとも、事件の手がかりと直感できるようなことは書かれていない.
「うーん、薬のカタログかあ。」
「こっちは領収書の束。何買ってんだかよく分かんないけど、たぶん薬の。」
箱の中から輪ゴムで束ねられた領収書を出して、フウがざっと目を通した。
別に何て事はない代物ばかりだ。誘拐された子供達の行方にかかわっているようには見えない。
「どうするってばよ?ここのって、向こうに運んだ方がいいかな。」
「うーん、いいのあればね。」
使い物になるかさえ定かではないが、細かいことを気にするだけ無駄だろう。
そもそもナルトに至っては、どれが参考になるかという見込みをつけることすらおぼつかなかった。
しばらくぱらぱらと流し読みで本の内容確認を進めるが、どれもこれもめぼしい記述は見当たらない。
ここにあるのは、どうも単なるカタログや参考書の類だけらしかった。肩透かしもいいところだ。
時間が無意味に潰れていく。
「あー、こんなのでもう30分?ねえ、また違うところ行かない?飽きちゃった。」
15冊ほど目を通したところで、すっかりうんざりした様子のフウが言った。
もちろん本が苦手なナルトも同様で、すぐにうなずく。
「どうせこの辺の部屋はみんな似たようなのだろうし、もっと奥とかに行かない?」
「この奥ってどこまであるっけ?」
「なんか、別の通路があったってばよ。どこ繋がってんだろ。」
「さあ。行けば分かるでしょ。」
まだこの施設の全容は分からないが、迷うほどではないだろう。
来た道さえ覚えておけば問題ないと、躊躇なく奥の通路へ向かった。

奥に行くにつれ、薬臭いにおいが少しだけするようになってきた。
何かを動かしているのか、ごそごそと物音も聞こえる。誰かがすでに調べに入っているようなので、ナルトは躊躇なく覗き込む。
「何だってばよ?この部屋……。」
そこにあったのは、おびただしい量の巨大なガラス容器だった。
手前の物は空っぽで、奥に中身が入ったものがあるようだ。中身は何だろうと、顔を寄せて確認しようとする。
「見るな!」
「え?」
珍しく声を張り上げて制止してきた鼠蛟の勢いに驚いて、覗こうとしていた2人は足を止めた。
「ねえ、何があったの?」
ただならぬ事態を察して、緊張した顔でフウが尋ねる。
「そなた達は、見ない方がいい。」
「忍者にそんな心配いらないんだけ……ど。」
警告されたのにもかかわらず室内に一歩踏み出したフウの顔が、凍った。
「何これ……?!」
「うっ……こ、これって、まさか!」
慌てて後を追ったナルトの目にも同じものが映った。容器に収まった濃い青の液体に浸されていたのは、異形の生き物。
異常に腕や足の筋肉などが肥大するなど、不自然な造作は生理的嫌悪感を催させる。
だが、かろうじて原形を留めている部分を見れば、それが明らかに幼い子供達であることは一目瞭然だった。
「あいつら、何て事を……!」
「最悪っ……。」
誘拐犯は、ただの人攫いではなかった。口元を押さえて、フウが鬼のような険しい形相で吐き捨てる。
虫唾が走るとはこの事だろう。町から消えた子供達は、2人の想像を絶する仕打ちを受けていた。
「だから、言ったのに。」
言わんこっちゃないと言いたげに、鼠蛟が呆れたようなぼやきをもらす。
「ごめん……。それで、これはどういう事なんだってばよ?」
「肉体改造。薬物投与などで、特定の身体機能を強化する。
彼らは、その実験台。見たところ、全員途中で処置が止まってる。」
「どうして……そんな。」
直視できないガラスの中。感覚を研ぎ澄まそうとも、生きているものの気配はまったく伝わってこない。
鼠蛟に問いかけるナルトの声が震える。
「十中八九、生物兵器の製造。そうでないと、こんな無茶な改造はあり得ない。」
険しい表情で彼は自分の見解を伝える。
ただ体を強化した人間を作るために、外見の著しい変形を引き起こすような薬は使わない。
実験台にされた子供達は、恐らく兵器としての性能のみを追求されたのだろう。
みな、日常生活を送るには不都合が起きる程無理のある体つきに成り果てている。
ここで作られていたのは、殺戮のための怪物だと鼠蛟は断定していた。
「何とか、助けられない?」
わらにすがるようなナルトの問いに、彼は首を横に振った。
「もう、とっくに事切れてる。機器が止まってた。」
それでは培養液の中で、半日も生きられないだろう。ナルトとフウは目を覆いたくなった。
彼らにも分かっていた事だが、ここは放棄されてから時間の経った施設だ。
研究者の管理下になければ生きられない体にされた彼らが、生き延びられるはずもない。
「ひどい……。」
フウがわずかに震えた声を漏らす。周囲には涙声のようにも聞こえた。
鼠蛟は部屋の入り口に足を進め、廊下に向けて声を張り上げる。
「狐炎、来てくれ!」
「どうした?」
近くの部屋を調べていたのだろう。鼠蛟が呼ぶと、すぐに彼はやってきた。
「火葬を頼む。」
「分かった。鼠蛟、そやつらをここから遠くに。」
黙ってうなずいて、ナルトはフウと共に部屋を出た。鼠蛟も少し遅れて部屋の入口まで戻る。
狐炎が入れ違いに中へ入っていった。
「妖術・狐業火。」
彼が低く呟くと、手をかざした方向に大きな炎が上がった。
高熱でガラスは次々砕け散り、割れる音がけたたましく響く。
中でどうなっているのか嫌でも想像してしまう思考に支配されながら、2人は鼠蛟に連れられてその場を後にした。

「……大丈夫か?」
引き返す途中、鼠蛟が後ろを歩くナルトとフウを気遣って声をかけた。
「……うん、おれは。余計音の里が嫌になったけどさ……。」
後でうなされそうなショックを受けたものの、それでもナルトは取り繕った。
鼠蛟からは振り向き加減に窺う顔だが、意地でこらえている事が簡単に分かる硬い表情だ。
「ねえ鼠蛟、こういうのって、どこでもあった?」
「多かれ、少なかれ。」
フウの問いに、包み隠さず彼は答えた。
種族問わず、進歩や歴史の影にいつもこういった非道な行いは付きまとう。
長命な鼠蛟は、話せと聞かれたら各時代毎の代表例を挙げられるだろう。
「……そっか。」
予想していたのだろう。彼女は驚きのない声で答えた。
まとわりつく重い空気が廊下を支配している。
ナルトは胸に鉛が入ったような気持ちで、ただじっと彼女の横顔を見つめる。
「アタシ、昔は滝隠れの連中が一番最低だって思ってた。
で、この間ナルトと話して、人柱力を作った奴がみんな最低って気付いたけど。」
フウがうつむきながら呟いた。
「どっちも違った。最低なのは、忍者全部だったんだ。」
彼女が足を止めた。
「何なの?この子達、何かした?研究ってそんなに大事?兵器って、そんなに必要?」
握りしめた拳と肩は震えている。
やがてのども震えて、声が嗚咽じみた不明瞭なものに変わっていく。
「意味分かんない……分かりたくもない!!
ナルト、鼠蛟!教えてよ!こんなのに、一体何の意味があるって言うわけ?!」
髪を振り乱して、やりきれない怒りを周囲にぶつける。
熟した橙の瞳からは、憤りの涙が滂沱のごとく流れ落ちていた。
「意味なんてない……あっちゃいけないってばよ。
おれだって忍者だけど、こんなひでー事、許せねえ!」
怒りが伝播したように、ナルトも叫んだ。非道に対する憤りが彼の心を震わせる。
正義感の強い彼にとって、こんな陰惨極まりない研究は存在自体許せるものではない。
ただ、鼠蛟は一人静かにこう言った。
「倫理は、時に羽より軽い。命も、また。」
「おれはそんなの嫌だ!」
「アタシだって!」
受け入れられない理屈に対する怒りに駆られた、二対の目。
鼠蛟の深い銀の目は、それを静かに受け止める。
「それでいい。」
子供のようにぽんぽん頭を撫でられて、2人は面食らった。
「その怒り、絶対に忘れるな。」
「鼠蛟?」
念を押す言葉に、思いがけない動作。状況を把握することに手一杯で、ナルトはそう口にするのがやっとだ。
彼の意図が何であるか、分からずにいる。
「人柱力もまた、あの子供達と同じだ。」
「兵器って事?」
鼠蛟はうなずいた。
「そなた達を作った者を、許すな。何があっても。」
「何でだってばよ?おれは、木の葉のことは別に……。
そりゃ嫌な事だってあったけど、今じゃおれにとってすごく大事な故郷なのに。」
いきなり険しくなった鼠蛟の表情に、ナルトは戸惑いを隠せなかった。
一体どういうつもりで彼はそう言っているのだろうか。
「その愛は報われない。里は必ず、そなたを捨てる。」
「何で?!三代目のじいちゃんとかイルカ先生の事を知らないあんたが、何でそんな事を――。」
「知らなくても、わかる。人柱力は、そういうものなのだ。」
ナルトの逆鱗に触れても、鼠蛟は一切表情を崩さなかった。
相手には受け入れがたいことを承知で、もう一言口にするだけだ。
「そりゃ……フウの事だってあるし、人柱力は里からいじめられるのが普通かもしれないってばよ。
でも、木の葉は違う!おれの事を大事に思ってくれる人が、たくさん居る!
今は帰れないけど、でもいつかおれの事を信じてくれる!帰れる日だって来るってばよ!」
必死に食い下がった時。鼠蛟は哀れみを帯びた目で見返すだけだったが、今度はフウが口を開く。
「木の葉が違うって、アンタそれ本気で言ってるの?」
「フウまでなんだってばよ!」
横に居るフウの目は、氷のように冷め切っていた。ナルトの思いについては、まったく理解できていないようだ。
冷たさだけではなく反発する心が表れた視線を、彼女はツララのように突き刺してきた。
「アンタはこいつに木の葉の事を知らない癖にって言ったけど、じゃあそういうアンタはどこまで木の葉のことを知ってるわけ?
磊狢が言ってた。上の連中は、下っ端に教えない事がたくさんあるって。
アンタは下忍でしょ?知らないところで上の連中がアンタをどう思ってるとか、わかるわけ?
ほんとは、アンタのことなんて厄介者扱いかもしれないじゃん。」
早口気味にまくし立てるフウの言葉は、鼠蛟よりもずっと直接的で容赦がない。
彼女が昔から抱えていた里に対する不信感が、そのまま木の葉にも当てはめられている。
「大体、里がアンタを本当に大事に思ってるなら、何でアンタはこんな所にいるわけ?
都合が悪くなってアタシを敵に売ろうとした、あの連中と何が違うの?一緒でしょ!」
ナルトにとっては一番の禁句である、里の同胞の心を疑う言葉。
彼の怒りは、神経が焼ききれそうなほど高まった。カッと頭から火が出るほど熱くなる。
「何をぉ……!」
「何?やる気?!」
最初から自分の故郷に対する感情が正反対の彼らが、言い合いで妥協点を探れるわけもない。
お互いを親の敵のように睨み合う2人の喧嘩は、長引かせれば遺恨しか残らないだろう。
「やめろ、2人共。」
「元はといえばあんたのせいだってばよ!」
「鼠蛟、もっとこのお人好しに言ってやってよ!自分を追い出した里の事を馬鹿みたいに信じて!」
「……。」
頭に血が上った人間に両側から怒鳴られた鼠蛟は、深いため息をつきたくなった。
だが、熱くなった2人をなだめる人員は彼しかいない。
「我は、別に根拠もなくけなしたかったわけではない。」
「はぁ?!あんだけ言っといて?」
ただでさえ急角度になっていたナルトの眉が、いっそう吊り上がった。
「わざと煽って、からかう趣味はない。」
守鶴や狐炎じゃあるまいし、と胸中で続ける。
もっとも、これ以上の釈明でこういう頭に血が上った若者は聞く耳を持たないであろうことも、鼠蛟は悟っていた。
「じゃあ、何であんな事を言ったのか説明しろってばよ!」
「……今のそなたには酷だし、信じないだろう。ただ……。」
逡巡しながら言葉をつむぐためか、思わせぶりに言葉が途切れた。
彼はあまり話が上手くない。冷静さが欠片もない人間に誤解させない言葉を選ぶために、時間をかける。
いらいらしながら、ナルトはにらみつける視線を鼠蛟の顔からそらさない。
「ただ?」
「里を思うそなたが、哀れに思えて仕方ない。それだけは、本当だ。」
逡巡の結果、一切の装飾を省いた素直な心情をそのまま鼠蛟は告げた。
「だから、どういう意味だって……。」
凪いだ水面のような目で見返され、結局戸惑いは解消されずに困惑する。
「それは――。」
鼠蛟が言い掛けた時、彼の脳裏に話かけてくる念話が聞こえた。
「……向こうに、呼ばれてしまった。すまない、先に行く。」
さっさと来いと言われたのか、彼は早足で去っていった。
「あ、アタシも行く!」
今、ナルトと一緒に残されるのはごめんなのだろう。
同意をとることさえせずに、フウはそのまま鼠蛟についていった。

鼠蛟を追ってフウも去ってしまい、ナルトは廊下に一人ぽつんと取り残される。
喧嘩をした手前、追いかけていくのも気まずい。
「どうしよ……。」
壁際にぺたんと腰を下ろして座り込む。ナルトは、何だか力が抜けてしまった。
寄りかかった壁は冷たい上に汚いだろうが、そんなことは気にする余裕がなかった。
どうも引っかかることばかり鼠蛟が言っていたせいで、彼の胸のもやもやは消えない。
「あいつ、何が言いたかったんだろ……。ちっとも分かんないってばよ。」
断片を繋ぎ合わせて言葉の裏を読み取れるほど、あいにくナルトは行間を読むのが得意ではない。
悶々と考え込んでも、鼠蛟は忍者の里が問答無用で嫌いで、
人柱力というものに対してろくな扱いをしないと思っていること、ナルトが里をかばう事もよく思わないことしかわからなかった。
「こんな所で何をしている?」
そうやって考え込んでいたものだから、上から降ってきた声に気づくのが遅れた。
「!うわっ、何だ狐炎か……脅かすなってばよ。」
いつの間に遺体の処理を終えたのか、驚いて見上げた先には狐炎が居た。
廊下にナルトが座り込んでいるものだから、怪訝に思って声をかけたのだろう。
「別に、気配を消して歩いていたわけではないのだがな。浮かない顔をしてどうした。」
やっぱりばれたかと、ひそかにナルトは思う。聡い狐炎に隠し事は難しい。
「……鼠蛟とフウと喧嘩した。」
「フウはまだしも、鼠蛟とだと?何の話をしていた。」
割とおとなしい彼とナルトの喧嘩は、狐炎には奇異に感じられた。
何がきっかけなのかと、続きを促す。
「うーん……。狐炎、木の葉はおれの事を道具だとか、そんな風に思ってるわけないよな?」
「藪から棒に何を言う。もう少し筋道を立てて物を言え。」
「鼠蛟が、さっきの部屋の子達とおれ達が同じだって言ったんだってばよ。
で、何か知らないけど里なんか信じちゃだめだって。そんな事ないよな?」
「よりによって、それを木の葉を蛇蝎のごとく嫌うわしに聞くか?」
封印した木の葉の里をどれだけ狐炎が忌々しく思っているか、ナルトだってよく知っている。
それにもかかわらず同意を求める態度に呆れて、彼は嫌そうな顔をした。
「だって他に聞ける奴居ないってばよ。」
木の葉の里が嫌いであろうとも、狐炎は里とナルトの関係をまともに知っている一行で唯一の存在だ。
彼以外の誰に聞けるというのだろう。いくら鈍くても、他に適した人物がいればそちらに聞く。
「まったく……まあ良い、顛末を聞かせてみろ。」
判断は一通り聞いてから下そうと決め、狐炎はさらに続きを促した。

言われたとおりに、ナルトはつらつらと先程の会話を一から全て狐炎に聞かせた。
思い出しながら腹を立てたり、ついとげのある言い方を選んだりしたが、
狐炎は特に口を挟まず適当に相槌を挟みながら大人しく耳を傾けていた。
「……ってわけ。ったく、木の葉のことを馬鹿にしやがって。
おれが木の葉の事が好きでも嫌いでもどうでもいいじゃん。
あー、思い出したらまた腹が立ってきたってばよ!」
座り込んだまま、こぶしで床を殴りつける。
そんなところに八つ当たりをしても手が痛いだけなのだが、こうでもしないと直情型のナルトは気が静まらないようだ。
「あやつはそのような事で無意味な愚弄などせぬ。そう言いたくもなることを見聞きしたのだろう。」
「木の葉について?」
嘘だとは思っていても、もし本当だったらかなりショックだ。
尋ねるナルトの内心は穏やかではない。幸い、狐炎は首を軽く横に振った。
「いや、あくまで忍者の里についてだろうが。もっとも、身に余る力を幼子に押しつけ、自由を奪い、
挙句兵器として扱い真っ当な人とすら見なさぬ。それが里の人柱力に対する仕打ちだ。
空を庭とし、何よりも自由を尊ぶ鳥族の長であるあやつからすれば、それだけでも十二分にお前達は哀れだがな。」
もとより忍者は任務のためのコマであり、時に使い捨てられることもある存在だ。
とはいえ、そんな忍者の中でも人柱力の境遇はかなり悲惨な部類に入る。
しかもそれが力を求める人間が望んだエゴの産物である点が、始末が悪い。
鼠蛟が人柱力を作った人間達を嫌うのも、1つはそこにあるのだろう。
「そうじゃないって言ったのに。
木の葉はあったかいとこで、おれは何だかんだで我愛羅とかフウよりは幸せだったし。」
あの2人の体験は、一部を知っただけでも不幸のどん底と形容するにふさわしい。
それに比べれば、アカデミーにあがってから早い段階で遊び仲間が出来たり、
尊敬できる教師に会えただけナルトは自分がましな境遇だと思っている。
周り中敵だらけの状態が思春期まで続いた2人を育てた砂や滝と比べれば、木の葉の里はずっと天国だろう。
「何を言うか。幼い時分に、村八分に泣いて帰ったことなど数え切れぬほどあっただろう。
あれを見るだけでも、人柱力を作る業は深いと嫌でもわかる。」
ナルトに関しては、里視点で言えば緊急時のやむをえない対処で化け物を引き受けた格好のはずなのだが、
それでも人間達はナルトを恐れ、関わり合いを持とうとはしなかった。
公園で他の子供と遊べば、見かけた親や周囲の大人がナルトを追い払うのは日常茶飯事。
「腫れ物を触るように、極力関わりなど持たず遠巻きにする。
群れでなければ生きられぬ人という種において、これは罵詈雑言と遜色なきむごい仕打ちだと思うのだがな。」
その頃の彼が他の子供を狐炎の力で傷つけたりしたことはないのだが、
誰でも万一は恐ろしく、積極的に我が子と関わらせようという酔狂な大人は居なかった。
アカデミーに入るまでは、一緒につるむ遊び相手を確保することさえ一苦労だったことは、内側で見ていた狐炎がよく知っている。
通りすがりにたまに浴びせられた暴言と同じ位、住民が心に作った壁はナルトの幼い心を傷つけていた。
「……でも、それでもおれは――。」
「木の葉を嫌いになどなれぬ、というのだろう?」
ナルトは即座にうなずいた。寸分違わず予想通りの返事だった。
「だが、鼠蛟の目で見れば、それこそがフウ以上の不幸ともいえるな。」
「それが全然分からないってばよ。」
里が滅びるその日までいじめられて磊狢しか味方がなかったばかりに里を嫌うフウよりも、
アカデミー入学や下忍に登用されたことをきっかけに友や師を得て、
里は愛すべきものだと知ったナルトの方がどう考えたって幸せだろう。
何しろ、そこまで嫌いになるような目に遭わなかったのだから。ナルトはそう思っているから、鼠蛟や狐炎の視点が理解できない。
「人柱力などにならねば得られたものを、根こそぎ奪った輩を慕うのだ。
鼠蛟にとってのお前は、ろくでなしの親をかばう子供のように見えるだろう。おおよそ健全には見えぬと思うがな。」
「そんなのあり?っていうか、そんな事言われたって困るってばよ。
だって、今まで木の葉にそこまで酷い目に合わされた覚えもないしさ。」
どんなに否定されようが、ナルトは実際鼠蛟が言いたかったであろう里の酷さに出くわしていない。
兵器なんだから一人で砦を落としてこいとか、そういう無茶苦茶な扱いも受けていない。
「確かに、今の生活しか知らぬお前には理解しがたかろう。
何しろ、親が居る一般家庭さえも知識に留まる生い立ちではな。そもそも知らぬものと比べることは難しい。」
「お前、居候だけど家族じゃないしなー……。」
「そうだな。」
そうやってばっさりと切り捨てられると、それはそれで傷つくのだが、
狐炎がそういうところで甘い言葉をかける性格ではないことはもう知っている。
「ともかく、鼠蛟も悪意あって言った事ではないはずだ。それだけは分かっておけ。
感情で納得できずともよい。理屈を覚えろ。
理解できぬものを頭ごなしに否定してかかるのは、良い傾向とはいえぬぞ。」
「あんなの分かりたくもないってばよ!向こうだって分かってくれないのに。」
悪い癖と言われようとも、受け入れられない考えを理解する気には到底なれない。
何しろ、里への思いはナルトにとって絶対に譲れない部分なのだから。
「阿呆。あやつがいくつだと思っている。お前とは比べ物にならぬ程生きた経験から出た言葉だぞ?
その前提に目を向けず、推測だからとむやみに軽んじるのは愚かというものだ。」
「何だよ、年上だからって何でも偉いって落ち?」
すっかりへそが曲がる一方のナルトの耳には、何を言われても嫌味としか解釈できない。
そうは言っても、鼠蛟は実際に木の葉の里がどういう土地か見たこともないだろうと、心の中で腐す事に余念がなくなっている。
そんな事はお見通しなので、狐炎は用意済みの言葉を続ける。
「二度も言わせるか。あやつとお前の経験の差を軽んじるな。あやつは王。
推測といえど、長い生涯で見てきた数多の実例を参考にすれば、的外れになる確率は低い。
そういうお前は、木の葉の里の考えや性質を、あやつ以上に正しく理解していると胸を張って言えるのか?」
正しい理解がないと相手を否定するなら、それなりの論拠を持ってこなければ話にならない。
ナルトは気付いていないだろうが、別に彼の周囲の一般住民が親切な事については、鼠蛟は否定しないはずだ。
狐炎が愚痴交じりのナルトの話を聞いた限り、鼠蛟が情を移す価値なしと切り捨てたのは、木の葉の里という忍者組織についてである。
「木の葉の上層部が、お前をどんな意図を持って扱っていたのかを説明できねば、
どんな反論をしたところであやつは納得させられぬぞ。」
「……やっぱ、おれってばお前のこと嫌いだ。」
すっかり止めを刺されたナルトが、恨めしそうにぼやいた。
どんなに食い下がったところで、曲げたくない自説があったところで、間違っていたら狐炎はそれを容赦なく理詰めで指摘してくるのだ。
ナルトは実際、鼠蛟に対して狐炎が言ったような説明は出来ない。
綱手の癇癪の元であった大量の書類に何が書かれているかも、ご意見番達が具体的にどんな仕事をしているかも、
ナルトは何も知らないのだ。そこで渦巻く大人の事情についてはもちろんお手上げである。
まして、ナルトはほんの少し前まで、自分が人柱力であることさえ知らなかった。
兵器利用されない理由なんて知るわけもない。
もし今の狐炎のような容赦のない追及をされれば、たちまち言葉に詰まってしまうだろう。
「とはいえ、木の葉を許すも許さないも、最後はお前が決めることだ。
今のお前の目標が、疑いを晴らし、里へ帰りたいと思うことである以上、里への思いを捨てぬのも道理だからな。」
「……うん当たり前だってばよ。絶対、おれは里に帰ってみせるんだからさ。
最後まで諦めたりはしないってば。」
やっとナルトの口元が緩んだ。
散々辛口なことを言われたが、結局今の狐炎本人の考えはナルトを否定するものではないから、安心したのだろう。
だが、全面的に肯定されたと思われては困るので、狐炎はすかさず釘を刺すことにした。
「ただし、里を盲目的に信じることはやめろ。里に落ち度や悪意があった時、それから目をそらすことはならぬ。
それが出来ねばお前が不幸になるだけだ。本当に鼠蛟の言うとおりになってしまうぞ。」
「絶対嫌だってばよ、そんなの!
もしほんとに帰れなくなったらとか、考えたくもないし……。」
一度は緩んだナルトの顔が、また緊張してこわばる。
「そうだな。わしとて、この状況でまだ里を見捨てぬお前さえもが、心底故郷に絶望するような事態は望まぬ。
そうなれば、互いにろくでもない目に遭うのは自明の理だからな。そんなものは願い下げだ。」
狐炎に言わせれば里に甘過ぎるといってもいいナルトが、本気で里に失望するというのは相当な状況になる。
困るのが自分達2人で済めばまだしも、それで済まないのが彼の目に見えていた。
「……そういや今の木の葉、綱手のばあちゃんが首になるとかでやばいんだっけ。」
確か少し前、彼女が国から見切りをつけられてしまったと聞かされたことを思い出す。
今よりもナルトにとって里が悪い状況になるとしたら、この件についてだ。
かばってくれる彼女が火影から降ろされれば、ナルトに対する扱いはどうなってしまうのだろうか。
次に火影に選ばれた人間が、住民に疑われているナルトをかばう保障はどこにもない。
「今より酷いことになるとか、そうなんないように、本当に祈っとくってばよ……。」
今の自分の立場や状況は、どうも思っていたよりも酷いようだ。
最近の生活ですっかり忘れていたことを思い出して、ナルトはすっかり気が滅入ってしまった。


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久々のアップながら陰気な流れです。地味に何度も考え直さないと台詞を練りづらいシーンが多かった罠つき。
里大好きっ子ナルトが全然賛同を得られずすねモードですが、
正直里好きより里嫌いの方が圧倒的に多いメンバーなのでむべなるかな。
里好きでも人柱力はつらいよ(仲間の同意ゼロ的な意味で
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