ハッピープレゼンツ
                         ―後編・遅刻したプレゼント―


翌日の昼過ぎ。
加流羅がカンクロウと部屋でくつろいでいると、思っていたよりも早く我愛羅が帰ってきた。
「母さん、遅れたけどこれ……約束してた誕生日の奴だ。」
荷物を下ろしてすぐやってきたらしい彼は、持って来た箱をさっそく加流羅に渡した。
手応えはそこそこ重い。
「ありがとう、ここで開けてもいい?」
彼が首を縦に振ったので、早速包みを開ける。
中に入っていたのはフライパンで、意外な中身に隣のカンクロウ共々びっくりしていると、
失敗したと思ったようで我愛羅は気まずそうに口を開いた。
「……すまない母さん、思いつかなかったんだ。」
「謝ることないじゃない。
ちょっと意外だったけど、このフライパンとっても素敵よ。」
「そうじゃん!ほら、便利だしさ。」
「そ、そうか?でも……なぁ。」
兄からもまくし立てるようなフォローを入れられても、 我愛羅はいまいちすっきりしない顔だ。
失敗したと思い込んでるから、問題ないといわれてもなかなか納得出来ないらしい。
「私がいつも料理してるのを、覚えていてくれたんでしょう?
よく見てる証拠じゃない。嬉しいわ。」
「プレゼントにしては安っぽいんじゃないか……?とも思ったんだけどな。」
「あら、全然そんなこと無いわよ。
このフライパンは昔から人気なんだけど、輸入品だからなかなか買えないって評判だったんだから。
この間の雑誌にも、主婦の憧れなんてあったくらいよ。」
土の国のある老舗が作る調理器具は、昔から世界中で人気のブランドだ。
大名にも献上されるほどの高品質で、草木を基調とした模様がおしゃれだと女性の人気が高い。
料理にさほど関心のない女性でも、名前は知っていることが多いくらいである。
「そうだったのか……全然知らなかった。」
実はその店で一番高く宣伝が派手だったという理由で購入したので、
フライパンのそんなプロフィールはちっとも知らなかった。
普段家事をしないから、それも仕方のない話なのだが。
「ところで母さん、あいつは何をよこしてきたんだ?」
「え?ただのアクセサリーよ。」
もらったのは灼熱の欠片がついた結婚指輪だが、さらっととぼける。
しかし、こんな時にも賢さを発揮したのか単にしつこいのか、我愛羅はこれでは引っ込まない。
「もうちょっと具体的に頼む。」
「えーっと……。」
具体的にと言われても、その通りにしたら烈火のごとく怒り狂うのが目に見えている。
さてどうしようかと思っていると、カンクロウが横から助け舟を出してきた。
「おいおい我愛羅、あんまり母さんを困らせちゃだめじゃん。」
「うるさい黙れ。物によっては重大だ。」
「重大って……今更何贈ったって大して変わらないじゃ……あだだだ!!」
うっかり漏らした一言が逆鱗に触れ、カンクロウは我愛羅に胸倉をつかまれた挙句髪を引っ張られた。
兄は何も悪くないのに、とんだ八つ当たりだ。
「こら我愛羅、お兄ちゃんに当たらないの!」
怒られた我愛羅は、それ以上カンクロウの頭を痛めつけることをやめた。
この年になって、こんな事で母親に怒られるのも相当締まらない話だが。
「まったく……もらったのは普通の指輪よ。
別に、そんなに変なものじゃないでしょう?」
「指、輪……ついにだめ押しかあのエロ狸ぃぃ!!」
「ギャー!帰ってきて早々ご乱心?!やめるじゃ〜ん!」
「はぁ……。」
どうせここで言わないと、後でカンクロウがさらにつるし上げを食らうと思って白状したらこの始末。
指輪の目的を悟った位で、どうしてこの末っ子は大激怒するのか。
前から持っている灼熱の欠片のペンダントが、すでにこの指輪と同等の意味を持っていたのに。
賢い彼が分からないはずはないのだが、
やはりダイレクトに結婚を想像するのがいけなかったのだろうか。
「くそ、あいつめ……俺の留守に邪なことを……。」
「いやいやいや、別に居ても居なくてもあいつは関係ないじゃん。」
母のおかげで解放されたカンクロウが、 すかさず横からつっこみを入れる。
守鶴が我愛羅の目を気にして自粛するなんてあり得ない。
むしろ、面白がってわざと目の前で加流羅の指にはめそうだ。
ついでに口にキスをして、焚き火に灯油をぶっかける真似をさらすだろう。
もう簡単に想像がついてしまった。
「我愛羅、そんな事を言わないの。
別に悪いことをしたわけじゃないんだから。」
「確かにそう言われればそうかも知れないけど、納得は行かないんだ……。」
我愛羅の神経を逆なですることを承知で、結婚指輪を贈る神経は許せない。
母が幸せそうなのは喜ばしいが、相手にはとことんけちを付けたくてしょうがないのだ。
そのうち、周りの意向なんてどこ吹く風で結婚式を挙げるであろう事は空気で何となく分かる。
それが気に入らないのだから、始末が悪い。
「おー相変わらず不機嫌面だな、まゆなしパンダ。」
そこに、我愛羅の怒りの原因が帰ってくる。
出会い頭に喧嘩を売るような台詞までついてきたものだから、
顔を見るだけですでに温度が上がった怒りは、さらに熱くなった。
「来なくてもいい奴が来たな……。お前の存在が不愉快だから当然だ。」
「何だ、取られたって嫉妬してんのか?マザコンにも程があるぜ〜。」
「誰がマザコンだ!誰が!!」
「世間一般では、いい年こいてんな焼きもち焼くのをマザコンって言うんだよ。
あ〜面白ぇ♪」
そもそも我愛羅は誕生からここ数年まで、恋しかろうが母に接する機会がなかったという事実は完全に棚上げだ。
もちろん分かってて言っているから、正す気は毛頭無い。
相変わらずの低レベルな喧嘩に、加流羅は額を押さえた。
「はぁ……あなたもあんまりからかわないで。大人気ないわよ。」
つっかかってくる若輩者をからかうのが楽しいのだろうが、
火に油を注ぐだけ注いで後始末をしないからタチが悪い。
こういう男を夫に選んだのは自分だが、大人、それも数千年ものなのだから少しは自粛して欲しいものだ。
「本気でやってるわけじゃねぇんだから、そう固い事言うなよ〜。」
「俺はお前をいつも本気でたたき出したいと思ってるがな。」
妻の機嫌を取ろうとしている守鶴に、悪意満々の声が飛んでくる。
弟に放置されていたカンクロウは気が気ではない。
「が、我愛羅!お前、どうしてそんな命知らずなことばっかり!」
毎度毎度、適当なところで頭を引っぱたかれるわ拳で殴られるわ、
物理的制裁が下るというのにどうしてこういう自殺行為に走るのだろう。
「もういい加減、それくらいにしてね……2人とも。」
放っておくと、守鶴が飽きるまでキリがない喧嘩にはうんざりだ。
これで聞かなかったら2人とも説教しようと思いながら、
加流羅は呆れ返った声でまた2人をたしなめた。
聞いてくれるかどうかは、全くの運次第だが。


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※中編は裏です。

完成が大分遅れましたが、これで加流羅の誕生日ネタは完結です。
最後は喧嘩でグダグダですが、うちの砂家のおおむねの力関係が出ていればいいなと。
カンクロウがとばっちりばかりで不憫ですが、お母さんが居るからまだマシな方です。
我愛羅のテンションはさておき、プレゼントは地味に悩みました。
ゲーム(牧場物語系)以外であまり人に物をあげたことがないもので、センスがからっきしなのかも。
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