統べる者


ある日の木の葉の外れの川。
釣りをしながら、磯撫は隣にいたナルトにこんな質問をした。
「ねぇ、ナルト君には夢はある?」
「もっちろん!おれは火影になりたいんだってばよ。」
「へぇ……里長に?どうしてなりたいのかな?」
男の子だから、出世欲があるのは当然のことだ。
小さな子供の話を聞くような調子で、磯撫は続きを促した。
「んー、昔は火影になって、皆に俺のことを認めさせようって思ってたけど……。
今は他にも理由があるってばよ。」
「そう。君は、大切な人を守りたい?」
「え、あ、そうそう!何で分かったんだってばよ……。」
言い当てられて、ナルトは一瞬目を丸くした。
心を読まれたと錯覚していそうだ。
「鶴は千年、亀は万年って言うでしょ?亀の甲より年の功だよ。」
「な、なんかビミョーに違う気がするけど……そんなもん?」
しかもあなたの場合、両方当てはまる気がします。
そう言ったら、磯撫は一瞬きょとんとした後に納得しそうだ。
「まぁ、伊達に長生きはしてないよ。」
「うーん……長生き、かぁ。」
のんびりと語る様子からはとてもそう思えないが、時々彼は侮れない。
他の3人は常に侮れないが、普段はおとなしくマイペースで、
しかもどことなく天然そうな彼は無意識に油断する。
「とにかく、磯撫さんが当てちゃった通り、
俺はサクラちゃんとか、皆が住んでるこの里を守りたいんだってばよ!」
誰よりも強くなって火影になれば、自分の手で仲間や里を守ることが出来る。
ナルトはずっとそう信じているのだ。
「守るため……か。だから、君は強くなりたいんだね。」
「そうだってばよ!強くなかったら、こんな世界じゃ何も守れないし……。
サスケだって取り戻せないってばよ。」
「そう……。確かに、そうだね。」
うんうん、とうなずく彼に、ナルトはかすかな違和感を感じた気がした。
とてもかすかな違和感だ。
そのまま、通り過ぎてしまっても構わないと思えるほど。
「ん、どうかした?」
「え、んー……なんでもないってばよ。」
いつもと変わらない笑顔の磯撫に、
ナルトはかすかな違和感らしきものを忘れた。
「今の君が、とてもうらやましいかもね。」
そういって笑った磯撫の横顔は、どこか寂しそうだった。
笑顔の下に隠された、深海のように深い心の奥底に沈んだものを、ナルトは知らない。
「ねぇ、ナルト君。これだけは覚えておくといいよ。」
少し考えてから、磯撫はこう言った。
「何だってばよ?」
何を言うのだろうと不思議に思ったナルトは、
磯撫の次の言葉をじっと待った。
「力がどれだけあってもね、決して全ては守れないんだよ。」
「えーっと……意味がよくわからないってばよ?」
ナルトにとっては実感に乏しい言葉は、すんなり腑に落ちてくれない。
一生懸命頭を悩ませるナルトを、磯撫はくすくす笑って見ている。
「いいんだよ。わからなくて。むしろ、一生分からない方がいいかもよ?」
ナルトにその真の意味が「分かる」日は、来ないほうが幸せだろう。
だが、そんな磯撫の考えを知るはずもなく、ナルトは不満たらたらだ。
「え、えぇーっ?!そんな狐炎みたいな難しいこと言わないでくれってばー!」
「あはは、深く考えたら負けだよ?ナルト君。
意味を考えなきゃ覚えられないこともあるけど、丸暗記だって勉強だからね。」
「いや、それじゃ余計わかんないってばよ……。」
訳の分からないたとえで煙にまかれ、
深いため息をついたナルトはそれ以上の追求をやめた。
妖魔というものは、時に意地悪で謎かけめいたことを言うものだと、彼なりに悟っているのだろう。
時々妙に鋭いナルトだが、残念ながら今回は勘が働かなかったようだ。
「まぁ、守るのは大変って事だよ。」
軽くつぶやかれた言葉は、さらさらと流れる川に流れていった。


―END―  ―戻る―


書かれた後放置されてたので発掘。最近表用の話が少ないので利用ですよ。
ナルトは壁に当たると強さが足りないと思う子ですが、
それにも限度があるというのを、磯撫は知っているという話。
はっきりとは言いませんけどね。
知らない方がというか、実感しない方が幸せなことは世の中に一杯あるんですよね。

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