正しい土下座の仕方


「え〜、潰れたのー?!」
「すまない……急に会議が入った。」
「う〜……楽しみにしてたのに〜〜〜!
ま、そりゃ我愛羅忙しいけどさ〜……これで2回目だってばよ?!」
「分かってる。本当にすまない。」
「はぁ……じゃあさ、いつなら平気?」
「それが……当分分からないし、約束できない。
埋め合わせは当分出来そうにないな……。」
その瞬間、ナルトの短い堪忍袋の緒が切れた。
「我愛羅の、馬鹿ー!!!」
頭のネジが飛んだような晴天の下、景気の良いビンタの音が響きわたった。


それから1時間後のナルトの家。
居間で10代の人柱力女子3人が、我愛羅の失態を肴に大盛り上がりだった。
引っぱたいた後、そのまま帰ってきた彼女が経緯をそのままぶちまけたのである。
「えー、それマジ?」
「そうだってばよ、100%、まじりっけなしの事実だってば!」
「彼は頭が回る方だと思っていましたが、女心はさっぱりなんですね。」
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
正確に言うと、よく喋るナルトとフウが盛り上がっていて、時々睡が相槌を打っているのだが。
「で、どうすんの?あいつ絞めちゃう?」
「んー、どうしようかな〜……。」
「仮にも里長ですから、その辺りは問題にならない程度にした方がいいと思います。」
「分かってるって!でもさー、思い知らせなきゃ絶対わかんないってあの鈍感馬鹿。
中身が女たらしのクセにダッサ〜。」
中身とは、多分守鶴のことを言っているのだろう。
妙齢の女性への挨拶に褒め言葉を混ぜるような妖魔と比べるのは気の毒なのだが、
そんな思いやりは我愛羅を叩いている彼女らには無い。
「そうだってばよ。超ニブチーン!」
「お主ら、言いたい放題言っておるが……あれは事実しか言っておらんだろうに。」
『うるっさい!!』
彭侯がたしなめようとしたとたんに、ナルトとフウがそっちへ食って掛かる。
無意味なまでに息がぴったりだ。
ついでに、興奮している相手には言うだけ無駄と言う法則が成り立った。
「これ、いきなり口答えをするでない!大体、相手の都合というものをだな――。」
「……火に油。」
「何だお主まで!」
「駄犬に、言われたくない。」
「何じゃと〜〜!!」
知らん振りしてそっぽを向いた鼠蛟に腹を立てて怒髪天を突いた彭侯の後ろで、
これは幸いとフウがウインクで感謝を伝えると、気づいた彼も返してきた。


一方その頃。はたかれて赤くなった頬を隠しながら帰ってきていた我愛羅は、
むすっとした顔で兄弟達の居る火影邸の客室へ帰ってきていた。
弟の頬にさっそく気づいたカンクロウが、顔をピクッと引きつらせる。
「が、我愛羅……その顔、どうしたじゃん?」
「……顔が、何だ?」
我愛羅はじろりと兄を睨んだ。
一瞬たじろぐが、一度にらまれた位なら何とかカンクロウは踏みとどまれる。
「いや、だからその……腫れて……。」
「何だ……?」
「い、いや……もういいです。」
「情けないなカンクロウ。ま、隠したって姉さんにはお見通しだぞ。
お前、さっきナルトを怒らせたな?」
二度目であっさり退場した弟その1に呆れ、今度はテマリが口を挟んできた。
カンクロウは撃退できても、基本的に肝が座っている彼女は手強い。
はなから喧嘩は避けたいと言いたそうに、我愛羅の視線が泳いだ。
「……。」
「はは〜ん、図星、と。」
「だって……一体俺にどうしろっていうんだ。俺の何が悪かったって言いたくもなるし……。」
「ちゃんと謝ってこいって言ったのにそのざまとは、情けないぞ。
全く、何言ったんだ?殴られる前の台詞を言ってみろ。」
ぶつぶつ愚痴をこぼしている様子から大方想像がつくが、
どうせいつもの調子で話したらイライラしているナルトの癇に障ったとか、そんなところだろう。
オチは見えているが、決め付けるとすねるから一応テマリはたずねてやった。
ここでちゃんと話さないと話が進まないことはわかっているので、我愛羅も素直に口を開いた。
「いつなら開いてるかと聞かれたんだが、
しばらく予定が分からないから、約束は当分出来ないって言ったんだが。」
『……馬鹿。』
ああ、何てお約束な失敗を。ダブルの深いため息が部屋に満ちた。
「何でだ?!」
もちろん言われた本人は、ため息をつかれた理由なんて分かっていない。
分かっていたら、そもそもビンタなんて食らっていないだろう。
それがますます姉と兄には情けない。
「お前さあ……いくらなんでもそりゃないじゃん。」
「そうだな。せめて行けないなら他のフォローがあってしかるべきだ!」
「俺が悪者なのか?俺だってデートくらい行きたかったんだ!
大体忙しいのは、俺のせいじゃなくて里のせいだぞ?!
それが事実を言って引っぱたかれて途方にくれた弟に言う台詞か?!!」
「もちろん。」
「テマリ〜!!!」
「だ、だってそんなんじゃ女は怒るに決まってるじゃん!
2回ともお前の都合でキャンセルしてるんだし、それで今度がいつかわかんないとか言われりゃ、普通膨れるって!」
「うっ。」
痛いところを突かれて、テマリに食って掛かった我愛羅の罵声が止む。
確かに仕事だろうが私用だろうが、我愛羅の都合でキャンセルという事実には変わりない。
「そうそう、カンクロウは女心が分かってるじゃないか。偉い偉い。
お前の方が恋愛の素質があるな♪」
「くそっ、どいつもこいつも……!しかもバカンクロウ以下か……!!」
カンクロウに下に見られたという事実に二重に腹が立った我愛羅は、しかしどうすることも出来ずにこぶしを振るわせた。
そもそも兄より下とされて怒りが増すという事実がカンクロウにかなり失礼だが、
名前の「我」の字は唯我独尊の「我」に等しい彼には言うだけ無駄だ。
「おー、楽しそうな話してんな。オレ様も混ぜろや♪」
「一番いらない奴が来たぁーー!!」
「んだとクソガキ!」
「ぐはっ!」
出会い頭の自爆発言によりこぶしで制裁され、我愛羅は頭に本日2度目となるダメージを受けた。
頭を抱えて痛がる弟を尻目に、テマリは嬉々として守鶴に話を振る。
「おお、ちょうどいいところに!聞いてくれ、我愛羅がな……。」
「ふーん、へぇー。そりゃ面白ぇな〜♪」
「ばらすなテマリーー!!」
何だって女はこう口が軽いんだと、心底から姉を呪った。
よりにもよって、人をからかうのが生きがいのような化け物に何故話すのだ。
「ばっかじゃねぇのか〜、オメー。女を怒らせる100の方法実践してんじゃねぇよ。
ヒャーハッハッハ!」
「笑うな!」
「これが笑わずに居られるかってんだ。
せっかく暇見つけて顔見に行っといて、ビンタを土産にもらう奴があるかよ。」
「ナルトが癇癪起こしただけなんだが。」
「アホかてめぇ。癇癪の1つくらい当たり前だろ〜?
ただでさえ通えねぇ距離なんだから、たまに会える楽しみって奴の重さくらいきっちり量っとけ!」
「好きですっぽかしてるわけじゃないんだぞ。」
「おつむの中身は馬鹿影2世か?馬鹿2代目。
忙しいってのは、気遣いをサボっていい口実にはならねぇよ。」
一種族の王という本業と我愛羅の護衛という仮の地位をこなしつつ、
愛する加流羅と過ごす時間はちゃっかり確保している守鶴の台詞は、うかつに反論できる隙なんてない。
自分でそれを実践しているのだから当然だ。
「お前みたいに器用じゃないんだ。悪かったな!」
「そりゃオメーは半人前だしな。」
「うぐぐぐ……。」
「うわぁ……はっきり言うじゃん。」
反論したくてもできずにうなる弟を哀れみのまなざしで見つめながら、カンクロウは引きつった。
「ま、金しっぽがわがままじゃねぇとはいわねぇが、そっちの始末は置いといてだ。
惚れちまった以上、そういう相手だって分かって付き合わなきゃしょうがねぇよ。」
「確かに。はぁ、やっぱりお前が帰ってくるまで待ってれば良かったな。」
「これ位てめぇで始末つけるもんだけどな……ったく。
とりあえず、怒らせちまったもんはしょうがねぇ。
機嫌とっておかねぇと、そろそろ愛想尽かされちまうぞ?」
「そ、それは困る……間男に付け入られるだと?!馬鹿影の二の舞は御免だ!」
「我愛羅、誰もそこまでは言ってないじゃん……。」
愛想を尽かされると脅されたくらいで、何故いきなり間男が介入するのだろう。
彼の脳内には、論理専用のトランポリンでもついているのだろうか。
「分かったんなら、短時間で出来る女の機嫌の取り方を実践してこいや。」
「あるのか?」
「おうよ。ただし。」
「ただし?」
「今度加流羅ちゃんに買う服代5000両、即金で払え♪」
『……。』
当然のように出てきた手を引っぱたくべきかこらえるべきか、我愛羅は真剣に悩んだ。


結局我愛羅は馬鹿正直に5000両払った。
そして他の護衛の目を盗んで抜け出し、夜にナルトの家に向かった。
インターホンを押してしばし待つと、彭侯が出迎えてくれた。
「我愛羅ではないか。誰に用があるのだ?」
「すまないが、ナルトはまだ起きてるだろうか?」
「今呼んでこよう。上がってしばし待っておれ。」
「すまない。」
いきなりナルトが出てこなかったことに少しほっとする。
心の準備はしていたが、やはりワンクッションあると嬉しい。
「ナルトよ、お主に客人だぞ!」
「ん〜、誰だってばよこんな時間に……あれ、我愛羅?!」
階段の下から呼ばれて顔を出したナルトが、我愛羅を見て目を丸くした。
「うむ。後はお主に頼んだぞ。儂はちとやる事がある。」
「あ、うん。」
降りてきたナルトと入れ違いに、彭侯は違う部屋に行った。
どうやら話しやすいよう気を利かせてくれたらしい。
ナルトは分かっていないようだが、我愛羅は気持ち頭を下げて感謝しておいた。
「で、今さら何の用だってば?」
「昼間は言い方が悪かった。謝る。だから一応俺の用を聞いてはくれないか?」
「本とに反省してるんなら、聞いてもいいってばよ〜?」
「反省してる。せっかく話せる貴重な日に、お前を不快にさせて悪かった。
2回もすっぽかされたお前の気持ちも考えずに、本当に悪かったと思ってる。この通りだ。」
もういっそ土下座の方が早そうなほど深々と頭を下げてわびる。
まるで不祥事のお詫びのような雰囲気に、ナルトはかえってやりにくそうだ。
「我愛羅、何か今日やけに下目線って言うか、よく謝るってばよ……。」
普段はとても腰が低いとは言えない態度だし、前に謝罪された時と比べてもギャップがあって気持ち悪いくらいだ。
「気にするな。テマリとカンクロウに指摘されて反省したからそう見えるだけだ。
それより、これを受け取ってくれ。」
「え?何これ?」
「遊びに行く約束をすっぽかしたわびにもならないだろうが、
せめて普段お前が休みに楽しく過ごせるようにと思って、さっき用意したんだ。」
「あーっ!これ、一楽の割引券?!どこでもらったんだってばよ?!」
「歩いてたらカンクロウがもらってきた。
俺達じゃ寄る機会がなかなかないし、お前が使ってくれ。」
「わーい、これで明日食べにいけるってばよ〜♪今財布ピーピーでさ〜。」
ちょっと単純すぎやしないかと我愛羅は冷や汗をかいたが、幸いそれはない。
「でも、今度すっぽかしたらこれくらいじゃ許さないってばよ?」
両手を腰に当てて、釘はしっかり刺しておく。
普段は天真爛漫でお気楽なナルトだって、こればっかりは忘れてはおけなかった。
「わ、分かってる……。だから、今度木の葉に来る予定がある日をメモしておいた。
遊びに行くのは昼間言ったとおり当分無理だが、抜け出して食事くらいなら何とかなるかも知れない。
しばらくはそれで勘弁してくれ、頼む……!」
「うーん、しょうがないな〜……まあ、我愛羅も忙しいもんね。
じゃあ、それで勘弁してあげるってばよ。でも、これ貸しねー?」
「ああ、分かった……肝に銘じておく。」
もうこんな目にあうのはこりごりだ。
貸しで済ませてもらえるなら、むしろ感謝したいくらいである。
「ところで我愛羅、時間平気?」
「……そうだな、そろそろ戻った方が良さそうだ。慌しくてすまない。」
「いいってばよ。いつもだから慣れたってば♪」
「……。」
笑顔で言われた一言がぐさぐさと突き刺さる。
暗に多忙な身を非難されたような気にすらなって、我愛羅は地の底まで落ち込んだ。
本人にそんな気がないから、怒るに怒れない。
これが日頃のつけと報いというものだろう。表立って非難されるよりもよっぽど堪えた。
「ナルト、本当にいつもいつもすまない……!!」
「え?我愛羅どうしたんだってばよ?何でそんなに謝ってるの?」
いきなり土下座した我愛羅が感じた罪悪感が、鈍感な彼女にはさっぱり伝わっていないのは幸か不幸か。
ともかく彼は、これを機に決意した。
たとえ馬車馬のように働くことになろうとも、 近日中に何が何でもナルトとデートする日をこしらえようと。


おまけ
「ところで守鶴……あの金でどんな服を買ったんだ?」
「あ?あの金ならそっちには使ってねぇぞ。」
「はぁ?何でだ。巻き上げて使わないなんておかしいだろう。」
「金の出所が巻き上げた金じゃ、加流羅ちゃんに怒られるからな。
自分のもん買う金の足しにしたぜ〜♪」
「ふざけるなぁぁぁ、このっ、エロ狸ぃぃ!!お前の給料3割引にしてやる!!」


―完―  ―戻る―

我ナルコ。すごくべたな喧嘩ネタを書きたかったので書きました。
我愛羅は風影として大忙しだし、それ以前に国境をはさんだ遠距離恋愛状態なので、
デートの都合がついたと思ったらぽしゃったとかで会えない日も多そう。
だったらすねられて引っぱたかれても不思議じゃないですよね。という。
恋愛に関しては先が思いやられるような2人は書いてて楽しいです。

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