最近彼はこう考えていた。果たして自分は、家族を持つ資格がある人間だったのかと。

               失敗続き

とある月夜の晩。執務室で部下の忍者から入った報告を聞き、ふうっと四代目風影は息をついた。
「そうか……夜叉丸はしくじったか。」
甥の暗殺の任を与えた義弟は、我愛羅の砂の返り討ちにあって死亡。それが報告内容だった。
「ええ。やはり荷が勝ちすぎたようですな。」
「そうだな。……砂も攻撃の手を少しは緩めるかと思ったのだが。」
夜叉丸が、加流羅の愛だと称していた砂の守り。
あまり霊的なものを信じていない風影も、歴代の人柱力を自動的に守る事はなかった砂が、
我愛羅だけは自力で操れない頃から身を守っている様子を見て、そんな事もあるのかもしれないと思っていた。
もちろん、実際の所は不明だ。
ただ、封印の儀式に参加したチヨや上層部の一部も、それを信じている節はある。
「これからいかがいたしますか?」
「しばらくは取り止めだ。ただし、要員の選定は続ける。それ以外は事前に決めた手はずどおりだ。」
失敗は織り込み済みだったので、事務的にそう返す。
「承知いたしました。ところで……風影様。」
「何だ?」
「明日以降、しばらく上のお子様方と会うのはおつらいと思いますが……気を落とされませぬように。」
「……いや、大丈夫だ。気を使わせたな。」
顔は取り繕えているだろうか。半ば人事のように冷静になって風影は考える。
末っ子同様、夜叉丸を慕っていた上の2人。
特に、母の面影を見て慕っていたテマリはどんな顔をするだろうか。常人よりはずっと制御出来ている彼の心も痛む。
「出すぎた真似をお許し下さい。それでは失礼いたしました。」
「……ああ。」
気を使われてしまったせいで、かえって心が重くなる。さすがに暗い気持ちで、部下を見送った。


もう今夜は私邸に帰ろうと思い立ち、静まり返った邸内の廊下を歩く。
「……。」
思えばこの数年間で、風影は家庭環境も職場環境もめちゃくちゃになってしまった。
我愛羅に守鶴を封印すると決めた時、加流羅にも夜叉丸にもやめてくれと懇願された。
里のために結局押し切ったが、夫の非情に絶望した妻はそれから悲しみに暮れて愛想を尽かし、酷いと会う事さえ拒まれた。
笑顔がとても美しく優しげだったはずなのだが、関係が悪化した後は、子供達は別として風影は全く見ていない。
また、過去の人柱力達がみな若くして守鶴に精神を食い滅ぼされて狂った事により、
そもそも上層部でさえ封印の是非は議論が真っ二つに割れた。
最終的には数で負けたものの、反対派は土壇場まで踏ん張り続け、
そしてそのうちのいくらかは風影についていけないといって職を辞していった。
人材不足にあえぐ里にとって、有能な人材の喪失はもちろん打撃だったが、
里のためにしかこの身は無いと頑張り続けていた彼個人の痛手も大きかった。
―テマリとカンクロウから母を奪い……有能な部下にも去られ……私は何をしてきたのだろうか。―
風影とて、悩んだ。
里の事しか考えられないと自他共に認める彼であっても、可愛い子供達から母親を取り上げる事に悩まなかったわけは無い。
しかし、自分達家族の幸せを諦めて里が潤うなら、そう思って決断した。
それなのに、周囲の半分は支持しなかった。特に去ってしまった人々は、感情も理屈も真っ向から反対していた。
人でなしとののしられた。同じ轍を踏む無能者とまで言われた事もある。
「……はぁ。」
わけもなくため息が出る。夜叉丸の失敗で気が重かった。
当分は我愛羅の暗殺を見合わせると先程は答えたが、
何となくこの先絶対に成功する事が無いのではという予測が、風影の中で頭をもたげていた。
失敗作だったと後悔しても、結局己の所業の結果。出来が悪い我愛羅のせいとは言えない。
こうなる未来も含めて検討した上で、それでも自分で選んだ結果なのだ。
彼はそれを冷静に理解していた。そして、ふと思い出す情景。

“ごめんね。育ててあげられなくて、ごめんね。”
大きくなっていくおなかに語りかけながらだったのだろう、ある日たまたま廊下で漏れ聞いたすすり泣きの声。
自室の椅子に腰掛けた彼女の傍らには、ふわりふわりと舞う砂。
まだ胎児だった我愛羅に宿った守鶴の力の影響か、それは明らかに自然では無い動きだった。
“慰めてくれるの?ありがとう。”
砂に向かってそう呟いた顔は見えなかったが、穏やかな調子だった。
“ええ、もう大丈夫。だから、心配しないで。”
とても奇妙な光景。一体誰と話しているつもりなのか、風影には見当も付かなかった。
ひとりでに動く砂を息子と思っていたのか、それとも化け物と思っていたのか。
どちらにしろ、彼にとっては後々まで記憶に残る不思議な光景だった。

回想から現実に戻り、同時にため息が漏れる。
死した母の愛と執念がある限り、恐らく彼は守られるのだろう。
廊下の窓から、外で風に舞い上がる砂が見えた。言いがかりに等しいたとえだが、守鶴が風影を小馬鹿にしているようだ。
そう簡単に呪縛を解いてやるかと、耳障りに嘲笑っている。
「兵器として、せめて安定してくれれば……な。いや、させなければか……。」
いずれにしろ、この責任は自分で取るより他無い。
明日以降に出す指示に、我愛羅の指導体制の強化も含めておこうと決める。
草案の元となる項目を出すだけにとどめるが、今晩は徹夜に近くなるだろう。


―END― ―戻る―

珍しく四代目風影の話。個人的に彼は、滅私奉公し過ぎて周りがついてけない&家庭を持っちゃいけないタイプって扱いで。
ネタとしては、色々恨みも買いつつ頑張ってみたけど、身内はおろか部下の半分にそっぽを向かれるわ、
計画自体もさっぱりうまく行かないわ、無い無い尽くし無い尽くしのフルボッコ状態。
当人なりに一生懸命でも報われた気がしない彼の慰めは、多分長女と長男です。
ちなみにこのネタと同じ日の別ネタが、以前アップした「悲鳴の一夜」です。あっちは風影が守鶴からぼろくそに言われてます。
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