バードキング


発端は馬鹿馬鹿しすぎるので、割愛しよう。
聞いたら恐らくはそういう風に、苦々しく回答してくれるであろう人物は、
同格の存在に足蹴ならぬ座布団にされていた。

「話を、さえぎった罪だ。」
いつもの淡々とした口調で、鼠蛟が一言不機嫌そうに口にした。
彼の不興を買うような事をしたらしい、彭侯の上にどっかり腰を下ろしながら。
「だ、だからといって、何故儂がこのような目に……。」
「うるさい。特上の春画で埋めるぞ。」
彭侯への最初の制裁の時に召喚して命中させたガラクタの山の中から、一冊本を拾い上げつつさらっと言ってのけた。
相性が悪くてろくに口も聞かない仲とはいえ、彭侯が嫌いなものくらい鼠蛟は分かっている。
「うぐぐぐぐ……。」
わいせつ物で埋められてはかなわない。
肩を明らかに怒りで震わせながら、彭侯はぐっとこらえた。
「……なかなか、深いな。」
「わ、儂の上で、下世話な本を眺めるなぁぁぁ!!」
どうやら拾い上げたのは春本、つまりエロ本だったらしい。
何が深いのかぜひとも問いただしたいところだが、
多分ただスケベ心を掻き立てるだけの代物に終わらない話運びでも見せているのだろう。
と、そこに磊狢が通りかかって鼠蛟の手元を覗き込んできた。
「あー、蛟ちゃんがいやんな本を読んでるー。ぼくにも見せてー♪」
「ああ、読み終わったら。」
読み終わったらという事は、読破する気ということなのか。
お子様お断りな本を読むのは個人の自由だが、
そういうものは1人でこっそり読めと叫びたい彭侯は間違っていないだろう。
「わーい!じゃあ後でね〜。」
「儂から降りてからやればよかろう!
それと磊狢、あっ!こら、行く前にこやつにせめてもう一言言ってからいかんか!」
彭侯の叫び虚しく、尻の下敷きになっている彼に目もくれずに磊狢は別の部屋に行ってしまった。
なかなか薄情であるが、たぶん彼は後で本を借りることしか頭にないのだろう。
最初から無視されるとはなんともつらい。
いつになったらどくのかと半ば諦めの心境になった彭侯だが、幸いやっと鼠蛟が上からどいた。
「彭侯……。」
「な、何だ……やっとどいたと思ったら、まだ何かあると申すか。」
目線を本に落としたまま、意味深に呟いた鼠蛟に嫌な予感を覚えながら、続きを促す。
今日の鼠蛟は虫の居所でも悪いのか、やけに無茶苦茶なことばかり言ってくる。
今度は何を言うのだろう。
「邪魔だ。」
「〜〜〜?!ええい、そこへ直れ!おぬし、いい加減にせんかー!」
やりたい放題な物言いに、彭侯は先程までよりもさらに大きな声で怒鳴り散らした。
ちょっといつもよりも傍若無人に振舞っただけで、
ずいぶん楽しい反応になるなと、鼠蛟は率直な感想を心中で述べる。
ちょっとこれに集中してみるのもいいかと思い、読みかけのエロ本を閉じた。
「……老け顔。」
「?!」
「駄犬、石頭、お節介、化石、むさい、暑苦しい、うっとうしい、目障り、邪魔――。」
実は単に口が悪い仲間が彭侯に言っている言葉を並べているだけなのだが、
普段の反応とは異なる鼠蛟に戸惑っている彭侯の様子が、妙に面白い。
普段他人をからかって遊んでいる守鶴や鈴音、ついでに狐炎が何故そんなことをしているのか、わかる気がする。
これはうまく行くと非常に面白い。
鼠蛟は普段口下手で、口げんかだと耐えるしかないから反動で余計にそう感じる。
悪乗りでだんだん興を覚え始めた彼は、さらに発言がレベルアップした。
「いっぺん、あの世に行きてぇみてぇだな。」
「抑揚のない声で、狸のの言葉をまねるな!!」
全く似合っていない守鶴の言葉の引用が引き起こした強烈な違和感に、彭侯はとうとうぶち切れた。
すっかり遊ばれているのだが、全然気がついていない。
多分気づく余裕もないだろう。
「ドスを利かせた方が、良かったか?」
余計怒ると分かっていて一言追加で放り込む。
普段無口な鼠蛟からは考えられないが、きっと調子に乗っているせいだろう。
その証拠に、明らかに彼の顔は楽しそうだった。
「要らんわ!!」
要らんという返事に、実は別に役者の才能があるわけではない鼠蛟はちょっとだけ安心した。
似せられるものならやってみろといわれて、滑ったらちょっと虚しい。
と、妙な漫才もどきで騒いでいる声が聞こえたらしく、
呆れ顔の守鶴がいつの間にか近くに立っていた。
「つーか、オメーいつからオウムになったんだよ?」
オウムになったとコメントするという事は、少なくともそのくだりだけは聞いていたようだ。
鼠蛟の顔と性格で、ガラが悪くて豪放な守鶴のまねというのもなかなか無謀だと本人でさえ思ったのだが、
果たして元ネタの彼はどう思ったのだろうか。
「何なら声帯模写……。」
「せんでいい!!」
ノリ以外の何者でもない鼠蛟の発言にも関わらず、
彭侯は部屋中の音という音を圧死させそうな強い口調で否定にかかった。
「嫌な顔をするな。出来ないから。」
「出来ねぇのかよ!」
じゃあ言うなと続く代わりに、守鶴にぺしっと軽く頭を叩かれた。
さすがにつっこみがうまいと、本当にどうでもいいことを鼠蛟は感じる。
「そなたの声は、ちょっと無理だ。」
「じゃあ誰なら出来んだよ?」
声質と演技力の観点から、鼠蛟に守鶴の声真似は難度が高い。
それは言われるまでもなく守鶴は分かる。問題は、誰が出来るかなのだ。
「案外狐炎なら何とか……。」
「だからせんでいいと言っておるだろうがーーー!!」
何でよりにもよって、我が友の名を上げるのだという魂の叫びが、
2人とも聞こえたような気がしたが、当然その訴えは脊髄反射並の速度で却下した。
「やっちまえ。」
「わかった。」
準備のために一呼吸置いてから、鼠蛟は自分で考えた狐炎らしいセリフを口にする。
「ふん……その程度か彭候。
お前ほどの者が……と思っておったが、どうやら見込み違いだったようだな。残念だ。」
「鼠蛟……どこまでわしをからかえば気が済むのだ?」
表情まではさすがに似せ切れていないが、それでも声はかなり似ている。
これは面白いと思ったらしく、便乗した守鶴がセリフを耳に吹き込んだ。
「からかう……心外だな。
わしは決してお前のことをからかってな……ゲフン。」
吹き込まれたセリフをそっくりそのまま再生しようとして、いきなり咳き込む。
これには、肩透かしを食らった2人が脱力した。
「そこで詰まんなよ!」
「狐炎の方が我よりも低いし、セリフが長いから、のどが……。」
またつっこまれた鼠蛟が、事実であるがために余計情けない言い訳をした。
普段無口でろくに言葉を発しない彼が、慣れない事をすればそうもなるだろう。
「ならするでない!!」
「案外合わないな……。」
彭侯のもっともなつっこみを無視して、鼠蛟は眉をしかめた。
合わないというのは、たぶん自分のイメージよりも真似たら出来が悪かったか、
あるいはそれ以前の問題なのかの二択だろう。
「つーか今更だけどよ、何で小舅狐なんだ?」
「声の調子の問題だ。狐炎は、抑揚が少ないから。」
「あー。」
声の高さはずれても、調子が似ていれば確かに似せやすそうだ。
守鶴もこの意見には納得する。
もっとも友人の声でののしられた彭候は今、すごく実家に帰りたくなってるかもしれないが。
「はぁ……。」
思わず口から漏れる深いため息。ずっと振り回され続ければそうもなるだろう。
「無様だな……彭候。お前の力はそんなものか。」
フッと、今度は最後に嘲笑までつけてグレードアップした声真似を披露して、
今度は割とうまく行ったと感じた鼠蛟は満足げにうっすら笑う。
そのために、意図せず表情まで狐炎に似通っていた。
「と、唐突に再開するでない!!本人かと思ったではないか!」
油断していたところにいきなり不意打ちを受けて、彭侯は飛び上がらんばかりに驚いた。
これこそいい意味で予想外の反応で、鼠蛟も思わず噴出して口元を押さえる。
「ヒャーハハハハ!!おい鼠蛟、もっとやれ!
つーか遊び倒せ!ヒャハハ〜♪」
本気でびっくりした顔が個人的ヒットを記録したらしく、守鶴は涙が出るほど大笑いしながら煽りに煽る。
「なら、要望に応えてみる……。」
「応えるなぁぁ〜〜〜!!」
彭侯は抗議の声を上げるが、守鶴という名の台本を得た悪乗り鼠蛟を止められるわけがない。
結局、この騒ぎは2人が飽きるか、第三者の介入があるまで続くことになるわけだが、
どちらの理由で止むこととなるのかはどうでもいいことだった。


―完―  ―戻る―

ずっと鳥のターン!(鳥=鼠蛟)
大してサイト上にいつもの性格のネタをアップしていない段階で、
鼠蛟が壊れているのは気のせいじゃないかもしれません。エロ本を読むのは素ですが。
一方今回非常に気の毒な彭侯は、真面目ガチガチ石頭なので、大体こんな人です。
ちなみに元ネタは、桶さんとのメールの末尾のミニミニ文。
1つのネタでやけに長く続いちゃったんで、まとめたらセリフだけで結構ありました。
地の文はオール加筆ですが、セリフの加筆がちょっとで済むほどの量です。相当ですね
ちなみにタイトルは鼠蛟のことです。鳥ですから。

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