ニワトリさんおめめ
     〜ビタミンAとってるかい?〜


夜中に煌々と、ライトスタンドの明かりが机を照らす。
彼の仕事は、天井の照明が眠ってから。
持ち主に向かって、眠いなんていわずにキリキリやれと言わんばかりのまぶしい明かりだ。
そんな光に尻を叩かれつつ、ナルトは苦手な忍術の理論書の読解をしようとしていた。
「ん〜……あ、あれぇ?」
今日もだ。
明るいところでは何ともないのに、暗いところを見ようとすると急に視界が悪くなる。
はっきり見えないのだ。いや、それはある程度は人間である以上当然だろう。
夜目が利く人間でも、人間である以上は元から夜行性のふくろうや猫には敵いっこない。
だが、どう考えてもこれはおかしいと、ナルトは思う。
夜の部屋の暗さは変わらないはずなのに、何故か前より暗いかのように映るのだ。かなり見えにくい。
一体どういうことだろう。
おかげで、夜中に廊下を歩くとあっちこっちぶつけたり、勘で物を取ろうとしては空振りになったり、ろくなことがない。
「こ、このまんまだと……やっぱ、まずいかな〜……?」
まずいに決まってるだろ!
仕事に支障が出ちゃうってばよ!!と、叫ぶ心の中の自分の声が聞こえる。
いわゆる良心と言う奴だろうが、
いたずら坊主なナルトの中にも、発言力は弱いながらちゃんと居るらしい。
チョイ悪な自分も、ものが目だけに怖気付いているのか何も言ってこなかった。
「うん、明日鼠蛟さん帰ってくるし、相談するってばよ……。」
丈夫で病気とは無縁だから普段は気にならないが、健康面で困ったときに医者が身近に居るのはありがたい。
そしてナルトは、さっさと教科書と巻物を片付けて、暗い廊下をあちこちぶつけながら寝室に戻ったのであった。


―翌日―
お金になるし、大して疲れないからという理由で、
ほとんど昼夜を問わずアルバイト先の病院に居る鼠蛟が、ナルトと同じ時間帯に家に居るのはなかなか珍しい。
ちょうど、磯撫と鈴音が話し込んでいる横で、いつも通りのムジナ姿に変化した磊狢に絡まれている鼠蛟に声をかけた。
「あ、あのさあ……ちょ、ちょっと、そーだんが〜……。」
無意味に声が上ずるのは、ナルトが無口で無愛想な鼠蛟をタイプとして苦手にしているからだ。
別に悪いことをしてないのにと、彼自身思って凹む。
もっとも鼠蛟は、少なくとも表面上は気に留めずに振り向いた。
「どうした?」
「ナル君、下痢でもしたの〜??」
「してないってばよ!何でゲリ?!」
ナルトは自分で用件を言う前に、鼠蛟に構って遊んでいた磊狢からゲリ認定を賜った。
そこで何故下痢になるのか追及したいところだ。
事実無根な上に情けない下ネタは勘弁して欲しい。
「ナル君もたまにはおなか壊すのかなーって。だめ?」
「違う違う違ぁぁぁぁぁーーーーう!!目っ!目ん玉っっ!!」
「なーんだ。」
なんだじゃないとナルトは声を大にして叫びたい。
だが、からかって遊んだだけの磊狢には言うだけ無駄だろう。
それに、振り回されている場合ではないのだ。
そんなナルトの心情を知ってか知らずか、漫才を無視して鼠蛟がこう聞いてくる。
「症状は?」
急に仕事の顔つきに近くなった鼠蛟の表情の変化にびっくりしつつ、ナルトはここ数日の症状について話した。
すると、鼠蛟はナルトの体をろくに観察もしないでこういった。
「夜盲症だ。」
「は?やもーしょー?!」
「そう。夜や暗所での視力が低下する病気だ。人間などは俗に鳥目と言う。」
「鳥目?あー、それなら聞いた事あるってばよ!
でも、鼠蛟さんは見えてるよね?」
「我が一族で、夜間に見えないのは一部だけだ。」
そんな誤解を信じるなといわんばかりの胡乱な目で見られて、ナルトは肩身が狭くなった。
同年代と比べても圧倒的に劣る常識と基礎知識が露呈すると、日常では恥をかいてばっかりである。
「ねーねー、これってば治る?
治んなかったら、もし夜の任務になっちゃった時困るんだってばよ!!」
ほとんど泣きつくといったような調子で頼み込むと、鼠蛟はポイっと褐色のビンを投げてきた。
これが治療薬のようだが、なんか変だ。よくよくラベルを読んでみる。
「えーっと、健やか家族サプリ・ビタミンA……えーっ、び、ビタミンA?!
こ、こんなんで治るわけ?!信じられないってばよー!」
「そなたの夜盲症は、栄養不足が原因だ。
ならば、足りないものを補えば治まる。ただし。」
「た、ただし?」
たった3文字の接続詞に怯えるのは、もちろんそれが後に続く注釈を導くからである。
一体何を鼠蛟は口にするのだろう。
「ここ一ヶ月、そなたはほとんど家で食事を取らなかっただろう。
栄養不足が原因の病は、栄養を改善しなければ、再発の可能性がある。」
「うっ……マジで?」
再発という響きに大げさに怯えて、ナルトの表情が引きつった。
「だってそうでしょナル君。また足りなくなっちゃったら今と一緒だよ?」
「ひ〜〜〜ど、どうすればいいんだってばよ!」
「色が濃い野菜を、油で炒めて食べると、一番手っ取り早い。」
「ぐはっ、よ、よりによっておれが一番苦手な野菜炒めじゃん!それってば!!
野菜食べたくないってばよー!!」
食べたくはないと叫びつつ、食べないと実際にしっぺ返しが来ると思い知らされた今、
その嘆きは絶望感が増している。
最近は出されるから仕方なく食べているのだが、それも彼に言わせれば結構我慢しているのだ。
ちなみに色が濃い野菜、とりわけピーマンやほうれん草はナルトが特に嫌いな野菜である。
「ナルくーん、それって、ぼく達がウサギ丸ごと食べないで内臓だけ捨てちゃうのと一緒なんだよー?
そんな事したら、お肉しか食べない生き物も体壊しちゃうんだからね〜。」
「え?そ、そうなの?肉だけでいいんじゃないの?」
てっきり犬やライオンは焼肉用の肉とか、
骨付きチキンのような肉だけで生きていられるもんだと思っていたナルトは、きょとんとしてしまった。
実際は、中も外も食べてこその完璧だとは知らないのだ。
「内臓が栄養たっぷりなんだよー!
ナル君達人間だって、レバーとか栄養満点って喜んで食べてるじゃん〜。」
磊狢は、分からず屋とでも言いそうな調子でふざけ半分で言っているが、
言っていること自体は本当である。
肉食獣はしとめた獲物を内臓から食べて、消化された草の栄養も頂いてビタミン源にしているのだ。
「……磊狢、話がそれた。」
放っておけばいつまでも喋っていそうな磊狢を、ぼそっと呟いた一言で注意する。
「あっ、ごめんごめーん♪」
「ともかく、どんな種族でも食物を食べて生きるなら、偏った食生活ではいずれ体を壊す。」
「う〜……トホホ。」
結局、カカシやサクラにいつも言われることに帰結するというわけだ。
最高の名医にまで言われては、もうひっくり返しようがない。
肩を落として白旗を揚げるのがせいぜいだ。
「ナル君、お野菜食べなくても体壊さない、とっておきのいい方法があるよ〜♪」
「え?!な、何なに?!」
まさかの救いの手に、ナルトは勢いよく食いついた。
この際多少まずい方法でも、野菜無しで健康を保てるならやってやる。
人間とは安きに流れやすい生き物だと如実に示していた。
ニヤニヤ、というよりはニマっと笑って、磊狢はこう提案する。
「妖魔化ー!妖魔になればご飯食べなくても、好きなもの一杯食べてもへっちゃらー!」
「えっ……ど、どうするべきかってば……。」
妖魔になれば、確かに普通の食べ物を食べなくても生きていける。
つまり、食べ物を食べることは趣味になる。ならば確かに、何を食べても文句はない。
この魅力的な提案に、ナルトは本気で検討しかける。
すると横から、盛大なため息が聞こえた。
「……悩むな。」
たかだか食生活の一時的な乱れで壊した健康のことで、何故種族の鞍替えを検討するような大事になるのか。
人の考えや事情に深い口出しをしない鼠蛟にしては珍しく、小一時間ナルトを問い詰めたい気分になった。

「う〜〜ん……どうするってばよ。」
食後にビタミンAの錠剤を飲みつつ、ナルトは頭を悩ませた。
ちなみに、早く治したいからと用量の2倍飲もうとして、今度は過剰症になるぞと鼠蛟に脅された。
ビタミンAは過剰摂取すると、下痢になったり皮膚に障害が出たりするらしい。
面倒くさい栄養だと思ったが、今回は薬で取るからそうなりやすいだけである。
ちなみにビタミンAに限らず、ビタミンDなど、
脂溶性ビタミンは水溶性のそれと違って、取り過ぎると蓄積するので、錠剤に頼る場合は全般に注意が必要なのはまた別の話だ。
それはさておき、彼が悩む理由は錠剤のことではない。
「任務先じゃあ、ちゃんとしたご飯なんてなかなか食べれないって言うしな〜……。」
キャベツメインの野菜炒めなら、ラーメンにでも乗せれば食べられる。
問題は、例え薬と思って食べようにも、特に追跡任務などの携行食頼みの任務では野菜を食べようがないことだ。
だが、短期間と言うこともあって普通はそれで栄養障害を起こしたりはしない。
生の野菜が食べられなくて、壊血病になった忍者の話なんてとんと聞かないのだから。
それに、昔から侍が戦場で用いた兵糧などを参考に作った忍者食は、味はいまいちながら栄養はある。
「でも、あれはまずいしな〜……。」
出先で味を期待するのは贅沢だといわれても、野菜代わりになっている兵糧丸状の忍者食は特にまずい。
そういえば、これが嫌で摂取をサボりまくったり、町に滞在中に丼や麺類で済ませたのが夜盲症の敗因だろうか。
「う〜〜〜ん……どうしよ。んー……。」
頭を悩ませるナルトの目に、
ビタミンAの錠剤のラベルのある一文が飛び込む。その瞬間、頭上で電球が閃いた。
これだ。ナルトは清々しい笑みを浮かべて、そのまま薬局に走っていった。


それから、ビタミンA剤と自宅での食事により、すっかり鳥目こと夜盲症は回復した。
鼠蛟にも大丈夫といわれたし、もう暗いところで漫画を読める元通りの状態だ。
そして、また自宅での食事が当分お預けになる長めの任務。
お互いに装備を確認している時、サクラがナルトの荷物の中に妙な褐色のビンを見つけた。
「あれ?あんた、これどうしたの?」
「見えないおれの敵を追っ払うボディーガードだってばよ!」
胸を張るナルトの荷物の中のビンのラベルには、
「健やか家族・マルチビタミン」と書かれている。
脚気もくる病も夜盲症も、壊血病だって確かに寄り付きそうもない。
ずらりと並んだ成分表の項目は、確かに敵を追っ払うボディーガードに相応しいラインナップだった。


―END― ―戻る―

微妙にマニアックながら、野菜嫌いな彼にはこれ以上ないくらい相応しい病気ネタだと思うんですが、どうでしょう。
野菜とかおかずとかちゃんと食べないで、ご飯とか甘いものばっかり食べてると、
どちらかというと脚気の方が怖いんですがね。
ビタミンB1は糖質の代謝に欠かせない代物なんで、好きな人は豚肉でも食って補うよろし。
どの程度無茶苦茶やったら夜盲症を始めビタミン欠乏症になるかは分かりませんが、
ジュース飲むくらいのフォローでいいんでしょうか。しかしどこまで酷い食生活するとこうなるんですかねえ。
書いてる本人も結構酷いもんですが、幸い文中の病気はどれもかかったことは無いです。

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