名付け親

アタシには、いくつか名前がある。
「七尾。」
「化け物。」
「妖怪。」
どれも全部、アタシの名前。
でもよく考えたら、これは名前っていうかあだ名。
この里の他の人にはみんな名前があるけど、アタシにはアタシだけの名前なんてない。
七尾も化け物も妖怪も、アタシの中にいる尾獣・七尾の事だから。
アタシは化け物で人間じゃないって、そういう意味なのかな。

お日様がさんさん照らしてる。今日もいい天気。
空を見てたら、後ろからぴょんってとびつかれた。
「ねーねー、あそぼー♪」
「わぁっ、びっくりした!」
「びっくりさせたかったからねー♪」
こいつは「らいば」。本当はむずかしい漢字を書くけど、どんな字かなんてわすれた。
一回書いてもらったんだけど。ていうか、妖魔のくせになんで字を知ってるんだろ。
字だけじゃなくて、変なこともふつうのことも色々知ってるみたいだけど。
「アタシはびっくりさせられんのはきらい!」
「あ〜ん、そんなに怒んないでよちびちゃーん♪」
全然反省なんてしてない感じで、らいばはへらへらしてる。
そういえば、コイツだけはアタシのことを「ちびちゃん」っていう。
やっぱりアタシのことは名前で呼んでない。それにこいつ、化け物なのに名前がある。
アタシは人間でも名前がないのに、何だかすごく頭にきた。
「今日はもうびっくりさせないから、遊ぼうよー。」
「やだ!」
「えー、何で?」
思いっきり大声を出したら、びっくりしたみたい。
いつもまん丸な目がもっと丸くなってる。何でって言われたから、アタシは今度こう言った。
「ちびちゃんはいや!ちゃんと名前でよんで!
子供あつかいきらい!」
「え〜。」
らいばが珍しく困ってるみたい。当たり前かも。
だって名前でよんでって言われたって、肝心の名前がアタシはないんだもん。
「もーしょうがないな。」
カリカリ前足で頭をかいて、らいばはちょっと考え事をはじめたみたいだった。
もしかして、名前を考えてくれてるのかな。まさかね。
「ちょっと待ってねー、すぐには出ないからさ〜。」
「え、名前つけてくれるの?!」
「だって、ないんだから今から付けるしかないでしょ?うーん。」
らいばは当たり前みたいに言ったけど、本当につけてくれるなんて思わなかったから、すごくドキドキする。
どんなの考えてくれるんだろう。変な名前じゃないといいんだけど。
何分かたって、やっとらいばは考えるのをやめた。
「よーし、決まり♪今日からちびちゃんは『フウ』だよ!」
「フウ?」
七尾でも化け物でも、もちろんちびちゃんとも全然関係ない名前。
聞いた感じだって違ってるから、何だか変な感じがした。
ていうか、どうしてこの名前にしたんだろう。
アタシはそんな顔してたみたいで、らいばが説明してくれた。
「フウっていうのはね、僕の奥さんが昔うちの子に読んでたお話の主人公の名前だよ。
緑の髪の女の子で、悪さする子を懲らしめるんだけどね。」
「その子強いの?」
「強いよー。悪ガキ位なら、10人居ても1人でコテンパンだし。
どう、気に入ってくれた?」
「……うん。」
名前がいいか悪いかなんてあんまりわかんないけど、正義の味方っぽい強い女の子と同じ名前って悪くないかも。
「よかったよかった♪あ、字は自分で書ける方がいいよね。
これでどうかな、書けるよね?」
ごきげんになったらいばが、地面に石で字を書いた。
カタカナで「フウ」。まだ漢字がちょっとしか書けないアタシでも、これなら絶対ちゃんと書ける。
「当たり前でしょ!アタシ、カタカナもう全部かけるもん!」
「じゃあ決定ー♪フウ、これからは毎日ちゃんと呼んであげるからねー。」
「うん!らいば、大好き!」
毎日ちゃんと「名前」で呼んでくれる。
もうななしじゃない。アタシはそれだけですごくうれしくなった。

七尾でも化け物でもない、アタシの名前。
誕生日でもないのにもらったプレゼントは、アタシが初めてちゃんとした人間になった証拠みたいだった。


―完―  ―戻る―

名前判明前に前半を書いて、判明後に適宜書き換え&書き足した七尾ちゃんことフウの捏造昔話。
個人的にはなかなかいい名前だと思います。イメージ的にも妥当というか。
漢字で書けば、やっぱり「風」とかその辺でしょうかねえ。
風といえば昔FF5のエアロのエフェクトが緑だったせいか、風=緑のイメージが強いです。
次点は明るい青とか水色。ちなみに昔話は、もちろん話の都合で作った適当なネタです。

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