投げっぱなしショートショート(?)の置き場。
1つのテーマで5つを目安にした連作。1つあたりは短いです。また、欠番は後日追加(アイコンに追記されます
たまに混ざってる死ネタは注意書きつき+本文が灰色なので、苦手な方は読み飛ばしてください。
カップリングはウタカタとホタル。文中で神疾は霹靂(偽名)と呼ばれることもあります。

Title:始まりの月夜 (完)
ウタカタと神疾の出会い以下、ウタカタが里抜けした頃の話。
これ以降の時期になる他の小ネタと比べると2人の友好度が低いので、特にウタカタが他人行儀です。

1.導かれるまま進んで 2.指先は風を掴んで 3.まどろみ誘う子守歌 4.音を立てながら煌めく 5.朝靄の森






























1.導かれるまま進んで
崩れた建物から星空が見えていた。苦痛と絶望で意識が飛んでから、何があったのだろう。
のろのろと身を起こせば、いつの間にか枷が壊れていたことに気付く。
中天に君臨する月は冷ややかで、空っぽの心にその光が染みる。
「……何が。」
師匠だった壮年の男が目に入る。恐怖に歪んだ死に顔は、無惨に半分消し飛んでいた。
ウタカタごと彼の中の大妖魔を消そうとした報いだろうか。
同席していた他の忍者も残らず死んでいる。
「やっと起きたか。おせーぞ。」
呆然としているウタカタにかかる声。反射的に心臓がすくむ。
こんな所で生きていた人間が居るのか。それ以前に、この声に覚えがない。
「……誰ですか?」
声の方に振り向くと、そこにいたのは1人の男だった。
年の頃は20代前半か。とにかく気の強そうなきつい顔立ちだ。
今宵の月と同じ色の青みがかった銀髪に、強い意志を感じさせる桔梗色の瞳。もちろん見覚えはない。
しかし、何かが既視感を覚えさせる。
「おれ?神疾だ。神に疾風で神疾。」
「神の疾風か……。ずいぶん大仰な名前で。」
尋ねられた男はすぐに名乗りを上げた。
本人の雰囲気と比べておかしいわけではないが、独特な響きだ。
「親の趣味だよ。」
「それは分かりました。俺が聞きたいのはそうじゃない。
君が何者かということです。」
別にウタカタは、彼の名前について深く議論したいわけではない。
人柱力が暴走した場に平然と経っていられる理由について聞きたいのだ。
「分かんねーのか?」
「……はっきりとは。」
彼から感じ取れるチャクラにちょっとした違和感を感じるが、あいにくと今は頭の回転が悪い。
感じた感覚の正体も掴みきれなければ、まして説明なんて出来るわけもなかった。
神疾はふうんと一声呟いてからこういった。
「お前と腐れ縁の妖魔。そこまで言えば分かるだろ?」
「!……じゃあ。」
「そうだよ。おれが雷獣の王。」
「まさか人間に化けて出てくるとは思いませんで。封印が解けたとか?」
中に封じられていた妖魔と対面しただけでも驚きなのに、姿も変えてきてとなると二度衝撃だ。
いかにも自由に振舞えそうなその姿についてそう聞くと、彼は首を横に振った。
「いいや。だったら良かったんだけどなー。ここに居るのは、ちょっと顔出してるようなもんだ。」
「よく分からないが、本体じゃないんですか。」
とはいえ、先程ウタカタの身に施されようとした処置がきっかけで、彼がこうやって振舞えるような事になったのだろう。
「おう。ところで、さっさと立てよ。」
「は……?」
いきなり何を言い出すのだろう。まだ重い頭には疑問符が浮かんだだけだった。
「行こうぜ。もうこんな所にいるのはごめんだろ?」
差し出された手を見てしばし考える。敬愛していた師匠は、弟子の信頼を裏切って殺しにかかってきた。
自分を兵器としてしか見ない里。抜け忍を待つ運命。
「どういうつもりです?」
せめぎ合いの中、睨むような鋭い目で神疾を見上げる。
ちっともひるまない彼の目に、荒んだウタカタの姿が映っていた。
「どうって、おれはこんなちんけな所に居たくねーし。
大体、このままここに居たってお前に何かいい事あんのか?ないだろ。」
「……ええ。」
それは否定しない。こんな事態を引き起こしたことが知れたら、確実に厳罰が下るだろう。
そうでなくても、この霧隠れの里に居る利点なんてろくになかった。
「だったら行こうぜ。誰もお前を知らねー所。」
「知らない所?」
「そ。」
強引にウタカタの手を引いて立たせ、神疾は空の彼方をあごをしゃくって示す。
「このずっと先まで。国境越えて、よその国とかな。」
「……行ってどうするんですか?追っ手が来るに決まってる。俺の運命はどうせ八方塞がりですよ。」
「バーカ。」
自嘲したウタカタに、呆れ返った視線と罵倒語が一緒に投げられた。
「馬鹿とは?」
「馬鹿だろ。追っ手?んなもん皆殺しだ。
運命?そうかどうかなんて、なってみなきゃ分かんねーよ。」
「……道を切り開けと?」
きっぱりと言われた言葉は、そうとしか解釈できない。。
「お前死ねって言われて素直に死ぬか?死にたくねーだろ?だったら殺すかぶっ壊すかしかないじゃねーか。
何やってでも、それこそ敵を何匹殺そうがお構いなしに行くんだよ。」
激烈な気性がはっきり見て取れる、険のある言葉。
自由を奪われてなお、誇りを捨てない妖魔の王。
「いいでしょう。君を野に放ったらどうなるか、少し興味が出てきた。
どうせ先は真っ暗ですし、後は野となれ山となれ。そこまで言うなら見せてもらおうじゃないですか。自由という奴を。」
「人任せかよ。ったく、手間のかかる奴。」
ぶつくさ文句を言われるが、大して気にならない。
「想いよ描け、遙かな景色。焦がれるこの身を望んだ楽土へ。妖術・遥地翔。」
神疾が聞いたことのない呪文をそらんじる。周囲の空間が歪み、そのまま違う場所へと一瞬で変化していく。
やがて歪みが失せると、もうそこは里を臨む対岸の岬だった。見知った場所だ。
「何故ここに?」
「最後だから、一応な。もう見る事はねーぞ。」
「別に今更、見る必要もない。分かってるでしょう、君なら。」
本当に逃げおおせる気なのだという神疾の意志を悟りつつ、暗い思い出ばかり作ってくれた里に背を向けた。
せっかちに先を行く神疾の後について、生まれ育った故郷と静かに決別する。
これが始まりだった。


:遭遇直後なので、神疾相手に敬語を使ってます。

―素直に帰る(臨時コーナーへ)―  ―戻る(リングノートへ)―










2.指先は風を掴んで
着の身着のまま、ほとんど丸腰手ぶらで里を抜けたウタカタ。
思えば監視もなく、まして任務や修行でもなく里を出たのは初めてだ。
頬に当たる風さえもが、解放の自由を囁いてくる。シャボン玉を吹かせば、ふわっと楽しげに舞い上がった。
「自由か。」
何ともいえない感慨を覚えて、しみじみとつぶやく。
「何ボケーッとしてんだ?」
「里から離れただけで、世界がこんなに変わるものなのかと、少々。
まだ1日も経っていないんですけどね。旅とはこういうものですか。」
昨日までの日々が、まるで遠い過去のようだった。
軽やかな空気は里のものとあまりにも違っていて、 連続しているはずの今日と昨日をすっぱり断ってしまっている。
「ま、そんなもんだ。」
「君はどうですか?」
「悪くないぜ。久々にうまいもん食えるし。」
「妖魔も食事をするんですねえ。初耳です。」
昔読んだ古い文献には、妖魔は大自然の力を吸って生きていると書いてあったから、
酒は別として、てっきり食物を口にすることはないものだと思っていた。
「別に食わなくても平気だぜ。
お前らで言うと酒飲むようなもんだから、 やらねー奴は全然興味ないけど、好きな奴は好きだな。
ってわけだ、この先の町で何か食おうぜ。」
「ええ、構いませんよ。味さえ良ければどこでもどうぞ。」
他人の目を気にしない食事は、それだけでさぞ味がいいだろう。
ウタカタは食べ物に少々こだわりがある方だが、この妖魔はどうだろうか。
「そうこなくっちゃな♪店は行った先で決めようぜ。」
自分が一番食べたくて仕方ないようで、神疾は楽しそうにしている。
「楽しそうですね。」
さて、何を選ぶのかお手並み拝見と洒落込もうか。
神疾に釣られたように気分が少しばかり浮いたウタカタは、そんな事を考えた。


:いきなりご飯。何は無くともまずご飯。

―素直に帰る(臨時コーナーへ)―  ―戻る(リングノートへ)―










3.まどろみ誘う子守歌
夜、街道沿いに休んでいると、どこからか子守歌が聞こえてきた。
若い女性の声だから、きっとぐずる我が子を何とか寝かせようとしているのだろう。
「子守歌か……。」
「何だ、気になって寝れねーのか?神経質だなお前。」
「違う。昔のことを思い出したんですよ。」
「ふーん。」
「あんな風に愛されたことはないんでしょうねえ、俺は。」
ウタカタには子守唄を歌ってくれる母親どころか、面倒を見てくれた肉親の1人も居ない。
身寄りの居ない孤児という都合の良さを買われて人柱力になった位なので、それも当たり前だが。
「いきなりそれかよ。
何でこんなありがちなもんから根暗な発想するんだテメーは!」
「あんな当たり前のものすらなかったかと思うと、
今更ながら里への恨みが少々。」
「身内じゃないと歌わねーもんな。何なら歌ってやろうか?」
「え……君、歌えたんですか。」
似合わないという本音が顔につい出たらしく、神疾が眉を吊り上げた。
「お前妖魔を何だと思ってんだよ?
ま、やんねーけど。お前おれの子供でも孫でもねーし。」
「いや、妖魔云々以前に、君は芸術とほど遠そうだなと。」
「テメー……そこまで言うんなら証拠見せてやろうじゃねーか。」
ムキになるスイッチに触れてしまったらしく、神疾が歌い始めた。
多分人間は滅多に聞けない妖魔の歌。

さあお休みよ愛しい吾子(あこ)よ 命(みこと)守りし夜闇に抱かれ
現を離れ夢見の旅へ 獏を供にし足取り軽く

―思ったよりは、上手い……な。―
失礼ながら音痴と思っていたので、素直に聴いていられる古風な歌に感心した。
せっかくだから最後まで聞いていようと思うのだが、
いきなり強烈な睡魔が襲ってきたので、それは適わなかった。
「いざや眠れ……あ、気合い入れすぎた。」
横で脱落したウタカタを見て、ちょっとした手違いに気付く。
彼を黙らせてやろうという雑念のせいで、ただの子守歌が呪歌になっていた。
妖力が強い妖魔は、単なる言葉に力を込めて言霊に出来るが故の事故だ。
「まっ、いいか。起きててもうるせーだけだし。」
本当に黙らせる結果になったとはいえ、これに大した効果はないから後で勝手に起きるだろう。
感想は後で聞き出せばいいと言うことで、眠らせた張本人はウタカタをほったらかして1人で団子をつまみ始めた。

:翌日、地面に直に寝たウタカタは風邪を引きました。
 ちなみに命は夜の神様・月読命(つくよみのみこと)の事。


―素直に帰る(臨時コーナーへ)―  ―戻る(リングノートへ)―










4.音を立てながら煌めく

旧街道沿いにたたずむ村に響く、ささやかな鈴の音色。
今日立ち寄ったこの村では、死者を送る祭りがあるのだそうだ。
「いつ頃からあるんですか?」
「軽く400年前だと思ったぜ。ちょっと形が違ってたけどな。」
「へえ、さすがに詳しい事で。」
長命だけに、古くから伝わるものも初期の頃から見聞きしているのだろう。
「もっと派手だったんだよ。
ここの村ももっと栄えてて、そうだなー……ちょっとした宿場町位はあったはずだぜ。」
「栄枯盛衰は世の習いですが、寂しい話ですね。」
昔は恐らく近くの旧街道沿いに多くの人が訪れていたのだろうが、
南にあった広い新街道が出来た辺りから、徐々に主流を離れていったのだろう。
「まーな。それでも習慣だけは後生大事に受け継いでったわけだ。」
「……。」
神社から祝詞を読み上げる声と、鈴の音色が聞こえてくる。
町から村へと寂れゆく地で、何代も受け継がれた祭り。
「見てくのか?」
「いえ……宿に戻りますよ。」
変わらないものとは何だろうと、ふと我が身に重ねて考えた。










5.朝靄の森
平穏無事、変わりのない静かな森の朝。
ウタカタが薄目を開けると、想像よりも弱い光が目に飛び込んできた。
「……朝か。」
辺りはまだ少し薄暗い。早くに目が覚めてしまったようだ。
「お、起きたか。」
斜め上からかかった声。寄りかかっていた木の上を見上げると、枝に座る神疾が居た。
ウタカタが寝る前に見た時と、位置がほとんど変わらない。
「ええ。ところで君、まさかあれからずっと起きてたんですか?」
「ん?まーな。」
「そんなことで、今日は大丈夫なんですか?また一日歩くのに。」
夜を徹して見張りを務めてくれた事は感謝するが、それで本日は寝不足の不調とこられたら困る。
いくら男でも、徹夜したら本調子でいられなくなるものだ。
しかし、その懸念は一笑に付された。
「お前らと一緒にすんなよ。妖魔で毎晩きっちり寝るのはガキだけだぞ。
大人は何日かにいっぺんでも十分。」
軽やかに地面に降り立った神疾は、確かに徹夜明けとは思えない顔つきだ。
「それは羨ましい。真似できたら、この生活も有利になりそうですね。」
「お前らじゃ無理だけどな。」
「分かってますよ。だから今晩の見張りもよろしく頼みます。」
「はいはい。お前ちゃっかりしてるよな。」
さらっと本日分も押し付けてきたウタカタに、神疾は即座に毒づく。
もっともこの程度で気にする程、彼相手に細やかな神経は持ち合わせて居ないから、
ウタカタは苦情が聞こえない振りをして黙殺した。


―素直に帰る(臨時コーナーへ)―  ―戻る(リングノートへ)―

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送