自分と同じものを見つけた。
向けられる殺意に身をすくませながらも、同じものを見つけて心のどこかがざわめき立つ。
化け物と呼ばれるものを封じられている存在。
それ以上の接点を感じてのことなのだろう。

―コノ人ハアタシト同ジ。

明るいの灯火


木の葉の里は、広すぎる檻だった。
本当に小さい頃、ナルトはずっとずっと泣いていた。
けれどいつしか泣き疲れ、泣きたいはずの環境に今はもう涙も出ない。
悲しい話を読めば涙は今も流れるが、
登場人物に負けないくらい不幸な我が身を嘆く涙は、とっくの昔に枯れ果てた。
小さい頃、可愛がってくれた人がいた。
けれどその人は忙しくて、滅多に構ってはくれなかった。
忙しすぎて、ナルトとの約束もほとんど守れなかった。
本当は自分のことが嫌いなんだ。だから構ってくれないんだ。
いつしかそう思い始めたナルトは、その人から距離を置くようになった。
アカデミーに上がった頃。初めて外の人を信じた。彼は担任だった。
本当に可愛がってくれる人だった。それは今でも変わらない。
けれどアカデミーを卒業した時の事件で、
自分の中に封じられた九尾に両親を殺されてしまっていた事を知った。
それ以来、怖くなった。ナルトは九尾じゃないといってくれたけれども、
自分をかばうことで彼まで疎まれてしまうことが怖くて、卒業後は会うことをやめた。
下忍になって7班の一員となった今は、独りだ。
外でも心はいつも独り。家に帰れば、身も心も独り。

そんな彼女は、眠っている時が唯一安らげる時間だ。
嫌な夢にまぎれて訪れる不思議な夢。
赤い夢。ナルトはそう呼んでいる。中忍試験が始まったある日、ナルトはそれを見た。
“ナルト。”
一面が朱や橙のような色で覆われた空間。
ナルトが大好きな声が聞こえる。
声の方向に、水中を漂うクラゲのようにゆったりと近づけば、そこに九尾・狐炎は居る。
しかし夢だからなのか、顔はぼんやりとしていつも見えない。
全てがおぼろげな夢の中、確かに聞こえるのは彼の声。
「木の葉から、逃げたいってばよ……。」
何度口にしたかわからないその言葉を、今日もまた紡ぐ。
その度に狐炎は、その気持ちを聞いてくれた。
彼と過ごすこの束の間の時間は、暖かくて心地よい。
“……機は近い。もう少し待てば、必ずその時は訪れるだろう。”
「もう少しって、どのくらいだってばよ?ねぇ、嘘じゃない?」
“お前に嘘をついてどうする。大丈夫だ。
中忍試験だったな……。これはお前にとって好機となる。”
「……なんで?」
“恐らく、すぐに分かる。
その好機を逃さねば、お前に転機が訪れるだろう。”
分からずに首を傾げるナルトを見て、愉快そうに笑みを漏らした気配がした。
“もう戻れ。今宵の夢はこれまでだ。”
さらに深い眠りを促すように、狐炎の手がナルトの頭を撫でた気がした。
とろんと糖蜜に溶かされるような感覚に抗えるわけもなく、
ナルトはそのまま深い眠りへ落ちていった。


昨日の夢の言葉は、一体どういう意味なのだろう。
神でも妖魔でもない身には、さっぱり分からなかった。
けれど中忍試験が突如木の葉崩しの戦いへと変貌し、
試験の参加者だったはずの我愛羅と戦う間に、ナルトは悟った。
―おんなじだってばよ……。
どんどん異形の姿に変貌し、凶悪な攻撃でナルト達を追い詰める我愛羅。
だが、敵を見ているはずのナルトの目は、到底それらしいものではなかった。
我愛羅から目がそらせない。
その動きから目を離せばやられてしまうといった次元とは違った意味で。
その戦いも終わり、いまだ呆然とする我愛羅に這うように近づいて、ナルトは微笑んだ。
「やっと、見つけた……。」
「見つけた……だと?」
戦意どころか、親愛の情に近い色をたたえた瞳に、我愛羅は戸惑いを隠せない。
「だって、あたしと同じ目をしてるってばよ。」
独りの目。里人に疎まれ続け、心を閉ざしてしまった瞳。
「ねぇ、一緒に変えよう?」
―コノ腐リ切ッタアタシ達ノ里ヲ。
甘美な言葉は、麻薬のように理性を痺れさせる。
先程まで戦っていた少女の言葉を、我愛羅は不思議とすんなり受け入れていた。
「……いいだろう。」
―俺達ノ中ニルアイツラモキット協力シテクレル。
我愛羅もまた気がついていた。ナルトの目も里人に疎まれたものの目だと。
世界が自分たちを拒むなら、今度は自分達が世界に復讐すればいい。
力はこの手に。同じ意志を持つ者は己の前に。
伸ばされた華奢な手を、少しだけ幅のある白い手が掴んだ。


「面白くなりそうじゃねぇか。」
「さて……な。」
樹上から2人を見下ろす金と柘榴石の目が、愉快そうに細められた。
戦闘終了後から今までの一部始終を、眺めていたのだろうか。
「よくまぁ、あそこまで仕立て上げたな。」
「フッ……わしは何もしておらぬ。
仕立て上げたのは愚かなこの里の者たちだ。」
幼少の時から疎まれたゆえに、ナルトは切に暖かさを求めていた。
己を受け入れてくれる居場所を求め、さまよっていたのだ。
―愛に飢えた者は、儚い優しさに居場所を求める。
「あいつは信じてた奴に裏切られて今がある。お前のはどうなんだ?」
「欲しいものがことごとく手からすり抜けた。それだけの事だ。」
「ふーん……。」
―そこに一滴、甘い水をたらしてやったって訳か。
彼は、嘘を言ったわけではない。
ナルトが聞いた言葉の一字一句を知らなくても、守鶴は大体察しがつく。
狐炎はそういう男だと知っているのだから。
「さーっすが、妖魔王一の策士だな。人心掌握はお手のもんってか?」
人を信じることを諦めた少女だからこそ、一度信じたものの言葉を疑うことはないだろう。
抽象的な言葉の端に漂っていた、甘美な真実の香りを無意識に嗅ぎ取った。
そして現に、彼女はああして我愛羅にたどり着いたのだ。
その様を少し茶化して、守鶴は皮肉っぽく言った。
「狸のお前がそれを言うか?」
「あいにく、オレ様はそこまで性悪じゃねぇからな。」
守鶴が我愛羅を堕ちるままに任せたならば、狐炎はナルトを違う闇に引き込んだ。
そういうべきだろう。
「何を言う。雌伏の時はもう終わると告げただけだ。」
「お互いな。」
「違いない。」
クックックと、狐炎は忍び笑いを漏らす。


『邪魔なものは、この手で全て滅ぼせばいい。』

闇に溶けた魂が出会う時、そこには仄明るい光が生まれる。


―END― ―戻る―

ちょっと暗い我ナルコ。
スレ♀ナルトならぬグレ♀ナルト。スレとの違いは原作どおりの強さかどうかということで。
最後にちゃっかりドS、もとい狐炎と守鶴。2つの里の運命は推して知るべしです。
腹黒い2人の会話は書いてて楽しかったですよ。もうウハウハです。
性悪大好きです。あ、狐炎がナルトの事を駒みたいにしか見てないように見える気がしますが、
別にそこまでひどい思考回路じゃありませんよ。
「兵など所詮捨て駒よ!!」(※BASARAネタ)の人じゃあるまいし……。
全然関係ないですけど、人を手玉に取るって楽しいんですかね。楽しそうですけど(え

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