宝石ころころ


加流羅が身ごもっている子に封じられた守鶴は、週に何夜も彼女を幻の世界に招く。
取り殺すわけではなく、彼女を側においておくために。
自分が気に入った女性だからか、他愛のない会話をしてみたり、時には優しくしてみたり。
種族を超えた不思議な交流が続いていたある日、守鶴は加流羅にとある宝石を渡した。
「加流羅は特別だからな、これをやるよ。」
普段はあまり加流羅を呼び捨てで呼ばない彼がこう呼ぶ時は、
いつもの話とは少しニュアンスが異なる時だ。
月明かりのような暗闇の中、守鶴は輝く小さな石を加流羅にそっと握らせた。


白くほっそりとした指先が、つんと小さな石に触れる。
つつかれた小さな石は、透き通ったトパーズの色。
大きさは、大体2、3cmくらいだろうか。宝石の仲間にしてはかなり大きい。
石は窓から差し込む暑い砂漠の光を、きらっと鋭く跳ね返す。
その輝きは硬質な無機物らしい、かつ太陽を思わせるもの。
「どうやって持ってきたのかしら……。」
夢から覚めた加流羅が、夢で守鶴から渡されたとおりに握っていた石。
一体どうやって、今は自由に動けない守鶴がこれを持ってきたのだろう。
幻かと思って、今もこうしてちょくちょくつついてしまうのだが、どうも実体がちゃんとあるようだ。
しかも、加流羅の世話役である使用人のナツメが、
おいてあるこの石をきれいな石だとほめたので、たぶん幻術ではないだろう。
だから余計に不思議なのだが、聞いても守鶴は笑うだけで答えてくれなさそうだ。
守鶴がおなかの子に封印されてから2ヶ月。
もらったこの石は、風の国ではもちろん外国でも有名な灼熱の欠片という宝石だ。
「こんなのもらえないって言ったのに……。」
市場の流通量が極めて少なく、両手の指で数えられるほどと言われるまでの貴重品。
それゆえに、小さなものでも数十万両は下らない。
そんなこの石には、風の国に伝わる言い伝えも存在する。

黄金に輝く石は幻の宝石。
砂漠の太陽の光と熱から生まれた石は、神の所有物。
砂漠の至宝は灼熱砂漠に眠る。
灼熱砂漠は地獄の釜底よりも熱く暑い。
乾いた岩地には砂嵐が吹き荒れ、月夜にも続く熱の責め苦は猛者さえ阻む。
どんな猛者も手練れも、石を手にすることは叶わなかった。
けれど1人の美しい女が、砂漠に一歩も近づくことなく至宝を手にした。
女は言った。「私は砂の寵を得た。」と。
いつしか石は男を嫌うといわれた。美しい女を求めてさすらうと。
砂漠の至宝は、美しい女だけに有する資格がある。
誰からとも無く言い出した、それが灼熱の欠片のいわれ。

ふと思い立って、手で灼熱の欠片を覆い光をさえぎってみる。
加流羅の手の日よけの中で、石はぼんやり金色に光っていた。
闇で光るのが灼熱の欠片の特徴であり、他の黄色い石との決定的な違いである。
心配しなくてもちゃんとここにあるよと、石がささやいているようだ。
星のような太陽のような光は、確かな存在を加流羅に向かって主張する。
「……あんまり遊んでると、今度会った時に怒られちゃうかしら。」
散々つついて、挙句の果てに光るかどうか試したりという行いは、少々相手を信用していないようにも見える行動だ。
守鶴は加流羅の行動を見ているだろうから、もう筒抜けに違いない。
呆れる守鶴の顔を思い浮かべて、加流羅はくすっと笑みをこぼした。
ストレートな物言いをする彼のことだから、もし文句を言う時は露骨に言ってくるだろう。
後腐れが無いから、そこは安心できるのだが。
それとも、子供みたいだと笑うだろうか。
そう、人間の事を考えるように加流羅は考えて、灼熱の欠片をそっと手に取る。
太陽に透かしても、やはりその輝きは美しい。
―まるで、あなたみたいね。
太陽の光を反射する力強い輝きは、最強の妖魔の一体である贈り主の瞳に宿ったそれに似る。
そういえば、守鶴は次はいつ呼ぶ気でいるのだろう。
退屈だといって、加流羅が好きだからといって、もう数え切れないほど呼ばれた記憶がある。
悪びれない態度に加流羅は最初は脱力して理解に苦しんだが、今ではもうすっかり慣れてしまった。
次に会う時が、少し楽しみでさえ居る自分が居るくらいだ。
「姉さん、居る?」
「ええ。入ってきていいわよ。」
夜叉丸がやってきたので、加流羅は小さな袋に灼熱の欠片をしまおうとして、やめた。
せっかくだから、これを弟にも見せてあげようと単純に考える。
夜叉丸は男だから宝石に興味を示すとは思えないが、石の正体に気がつくかどうかを試してみたくなったのだ。
今は昼間だから、トパーズやシトリンと間違えてしまうかもしれない。
少しお茶目な実験は、果たしてどうなることやら。
何も知らずに部屋に入ってきた夜叉丸に、加流羅は笑顔で聞いてみる。

「ねぇ夜叉丸。これ、何だと思う?」
加流羅が弟の前に差し出した灼熱の欠片は、昼間の光の中に自分の内側の輝きをこっそり隠していた。


―END― ―戻る―

一日で書き上げたブツ。加流羅がちょっとお茶目になりました。夜叉丸の反応はご想像にお任せします(笑
どんな結果になっても、たぶん守鶴と話す時の話題にされるというオチ。
ほぼ加流羅1人しか出ていないんで、次は他の人も一緒に出したいところ。
何しろ今回、灼熱の欠片が延々遊ばれてるだけみたいなものですからね。
絵にしたら可愛いかもしれませんが。すいません、単に可愛い加流羅ママが好きなだけです(笑
ちなみに守鶴なら、こういう風に遊んでいるとたぶん笑い出す方です。
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