ハマグリの貝殻


牢に拘束されていたある日、
退屈しのぎに読んでいた古来の文化にまつわる本の中に、珍しく心に留まった記述を見つけた。
なんでもハマグリの貝殻は、対の物以外は合わないというそうだ。
それを生かした遊びが、昔の貴族がたしなんだという貝合わせ。
今で言う、神経衰弱と同じようなものらしい。
伏せた貝を開いて、間違えてまた伏せて、記憶と勘を頼りに対を作る。
手探りで対を探すこの遊びは、もしかすると伴侶を求めて悩む人間にも似ているかもしれない。
普段はその手の事に全く興味のないサスケだが、
この時はらしくもないと思いつつもそんな事を考えていた。

「サクラ。」
「なーに?」
振り向いた少女は、いつもの微笑を浮かべている。
いつもまぶしく感じていたその笑顔は、一度手放してしまったもの。
一時期は記憶の中に埋もれていたそれだが、今では間近で眺められる。
もっとも、見る事は出来ても、彼女自身に触れることはなかなか叶わない。
それというのも、2人の間に忌まわしい鉄格子があるせいだ。
自業自得なのだが、それでも邪魔なことに変わりはない。
「上の連中は、俺の処遇を決めたのか?」
牢に拘束されて、もう2週間以上たった。
いい加減退屈しているサスケは、罰の軽重はいいから早く決めてくれと思っている。
扱いが決まっていない宙ぶらりんな状態は、ある意味一番拷問だ。
聞かれたサクラは、そんなサスケの心境を察しているが、
知らないものを言えるわけもなく、いつもすまなさそうにまだ決まっていないと言うしかなかった。
だが、今日は違っていた。
「う、うん……やっとね。カカシ先生とかイルカ先生とか、
下忍の頃にお世話になった先生たちも頑張ってくれたから、サスケ君が想像しているようなものじゃないと思う。」
「ふーん……。で、どんな感じだ?」
一生幽閉か、監視つきか。
木の葉の上層部がどう来るか、少し楽しみであるかのような軽い口調でサスケは続きを促した。
「向こう数年間、里の暗部の監視下に置かれるって。
それと、今後半年は外部と接触のない場所で軟禁。
任務に就かせられる程度に里への反抗心が収まったと認められれば、任務に就かせるって。
後は……うちはの血を守るために、今後数年以内に婚姻すること。大体こんな感じだったよ。」
「……確かに、思ったよりは甘いみたいだな。」
うちはの血欲しさに通常より処分を軽くするだろうとは見ていたが、
実質的に身動きが取れない期間が半年とはずいぶん短い。
だが結婚を強制してくる辺りは、血が目当てなのだから妥当な線だとサスケも考えていた。
「だから、たぶんしばらく……お別れだね。」
「……そうだな。」
元々同じ班に所属していたサクラは、サスケを逃がす可能性があると判断され、
少なくとも軟禁中の接触は完全に断たれるはずだ。
今様子を見に来れる方が不思議なくらいである。
もっとも、怪力で鉄格子を破壊したり、術を使用したり出来ないように、
彼女の細い腕にはチャクラの練成を封じる腕輪がはめられている。
以前尋ねたところ、これはヤマトの提案だという。
里側にサスケへの便宜を図る意思がないと示すには、こういう目に見えて効力もある手段が一番なのだ。
外には複数の暗部が常に控えているので、どちらにしろ逃げることはたやすくない環境だが。
「サクラ。」
話を聞いた後に急に何か思い立ったのか、
サスケは鉄格子の隙間からこちらに来いと手招きをする。
「サスケ君?」
「もっと近くに来い。」
「えっ、でもこれ以上近づいたら……これにぶつかっちゃうよ?」
戸惑うサクラに、なおもサスケは近づくように手で促す。
「いいから、来いよ。」
言われるままに、サクラが鉄格子の隙間から顔をのぞかせる。
ほとんどめり込んでいるといった方がいい位に。
その瞬間、彼女の鼻の頭にサスケが掠めるように口付けた。
「待っていて、くれるか?」
「……うん。待ってる。」
2年以上も待っていた彼女の元に帰れるのは、さらに先の事。
それまでも一日千秋の思いで待っていた彼女を、ただ待たせることは忍びない。
邪魔な鉄格子さえすり抜けた、形には残らない約束。
不確かかもしれないが、今はこれが彼女にしてやれる一番確かな形なのだ。


ハマグリは、対の貝以外は決して合わない。
遊戯の終盤でもいい。ぴったり合わさることの出来る瞬間を、今はただ待とう。



―END― ―戻る―

黙って書いてたら、普通にラブラブなサスサクが出来上がりました。
すごい。俺でもちゃんとカップリングオンリーネタかけるんだ。
前に壷とかで書いてるんじゃないかって言うつっこみはなしです。
ついでにカップリングネタは、こういう短めの物を量産した方がいいんじゃないのかと思ったり。
ちまちましたのをポコポコ更新する方が、中身を問わず皆さん良いでしょうからねぇ。
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