毛もの


それは、ある能天気な晴れの日だった。
とはいっても、時間が時間だけに、空にあるのは太陽ではなく鎌のような細い三日月だったが。
一通り一日の仕事が終わってくつろぎの時間というわけだが、
こんな時間に急に加流羅が妙なことを言い出すと、誰が予想しただろうか。
「ねぇ、1つお願いがあるの。聞いてくれる?」
「ん?何だ。」
本日賭場を泣かせて手に入れた札束を丁度勘定し終えて、
守鶴が生返事気味に聞き返す。
すると、加流羅は身を乗り出してこう切り出した
「あなたの狸耳に触りたいの!」
「……は?」
目を輝かせてそう主張する加流羅に、
守鶴は二拍以上遅れてそう聞き返すのがせいぜいだった。

そして。
「これでいいんだろ?」
「きゃ〜!ふかふか〜……気持ちいいのね〜♪」
上機嫌で声が黄色い加流羅は、守鶴の耳を触って喜んでいる。
もちろん、いつものような人間の形に変化させたそれではない。
本性の時の青みを帯びた真っ黒な三角の耳だ。毛が密に生えていて厚手で、今の顔に対しては大きい。
これが丁度、普段なら人間の耳が生える辺りに生えている。
若くて美人の女性や少女にこれがついていれば、通の男性達がかわいいと言ってとても喜ぶところだ。
もっとも守鶴に生えていると、余計に見た目の野生度が高まってさながら獣人だが。

そうして触らせているうちに、早5分。
「くすぐってぇんだけどよ……。」
人間でも他人に触られると微妙な気分になるものだが、
動物の耳はもっと感覚が鋭い上に動かせるせいか、普通は触られることをとても嫌がる。
犬猫なら、飼い主でもないとまず触れないだろう。
妖魔の守鶴だってその辺の心境は似たようなもので、加流羅だから触られても我慢するのだ。
それにしたって、耳ばかり長時間触られたら微妙なところである。
「いっぺん触ってみたかったのよねぇ……。」
「聞いちゃいねぇ……。」
うっとりとした様子で頬ずりまでする加流羅は、それを知っているのかいないのか。
耳元で聞こえる声は、ふわふわ浮いて綿菓子か何かのようだ。脱力感を覚えて、自分の耳がちょっと倒れた気がした。
「ん〜……。」
何がそんなに面白いのか守鶴には分からないが、天然なところがある加流羅のこと。
そもそも狸の耳なんて、別に凶暴な砂狸しかいないこの国でなくても、
めったに触れるものではないということは分かる。
だが、5分以上触っていても飽きない理由はさすがに解せない。
どれだけ気に入った、いや惚れ込んだといった方がいいかもしれないが。
その理由は問い詰めたいくらいである。
延々触られる方はたまったものではないのだから。
「だって気持ちいいんだもの〜♪」
だんだん暴走してきた加流羅は、終いには抱きついてきた。
もちろん、守鶴の耳をまだまだ触る気でいるようだ。
さすがに嫌になってきたのか、守鶴はうんざりした目で加流羅を見ている。
そして、抱きついてきた彼女が話をろくに聞いていないのをいい事に、一計を案じた。
(―妖術・変貌の法。)
守鶴がボソッと一言妖術の詠唱をすると、加流羅は自分の耳元に何やら違和感を覚えた。
そして、感覚を覚えたと思ってびっくりした瞬間、なんと耳が「動いた」のだ。
「?!」
「お、やっぱ速攻で気づいたな。」
「な、何したの?!」
驚いた加流羅は、反射的に守鶴から体を離して飛びのいた。
おろおろと首を落ち着かない様子で左右に動かして、右手もあちこち宙を泳いでいる。
術をかけた守鶴は、してやったりと言った風情だが。
「ほらよ。」
どこから取り出したのか、折りたたみの手鏡を渡す。
受け取って自分の状況を見た瞬間、彼女は一瞬頭が真っ白になった。
「なっ……何これーーー?!」
鏡に映ったのは、本来の耳ではないふさふさの茶色い獣の耳。
ちょっと形が丸みを帯びているので、雑食や草食、あるいは小動物の物だろう。
ご丁寧に、後ろにひっくり返りそうなほど驚いた彼女の感情を反映して、耳の毛1本に至るまで全部逆立っている。
「散々遊ばれたからよ、遊ばれる方の身にもなれってこった。けっこ−似合うのな。」
「身にもなれっていうけど……。」
じゃあどうするつもりなんだと言いたげに、加流羅は頬を引きつらせる。
内心びくびくものなのか、耳もなんだか元気がなさそうだ。
動かせないためにポーカーフェイスな人間の耳ではありえない様子が、物珍しくて面白い。
彼女は表情豊かだから、耳も同じように感情が分かりやすかった。
「どうされると思う?」
「か、考えたく……ないわ。」
獲物に狙いを定めた肉食獣のような目が、愉快そうに細められる。
守鶴は加流羅のあごの下に手を添えて上向かせた。
この段階で結果に見当がついた彼女は、何とか逃げようとそろそろと後ろ向きに後退しかけた。
「おっと、逃げられねえからな?」
「うっ……。」
頭の横にある1対のふさふさの獣耳。
よしんばここから逃げたとして、こんなものを他人に見られたらどうなるか。
逃げ場はない。そうなると、もう完全に運命は決定される。
「たっぷり可愛がってやるよ。ただし、オレ様のやり方でな。」
「〜〜〜っ!?」
さっと青ざめた加流羅の耳は、恐怖でペタッと寝てしまった。運命を悟って固まっている間に、服が脱がされる。
そして守鶴は柔らかなふくらみを揉みつつ、ふさふさの耳にふっと息を吹きかけた。
「ひゃっ……!」
ぞくぞくするのか、加流羅は小さく悲鳴を上げた。そしてそのまま、今度は彼女の耳を甘噛みする。
毛があるために分かりにくいが、実はその下の外耳そのものは薄いのだ。
甘噛みすると毛が口に入りそうだが、元々狸の守鶴はそんなことに頓着しない。
単に、普通なら毛づくろいの対象ではないところをつくろう位のつもりだろう。
「あっ……やぁっ……!」
元々耳が敏感な加流羅だが、この状態だとさらに敏感なようだ。
体を一瞬こわばらせ、息があっという間に荒くなる。
守鶴の変貌の法は精度が高いので、形のままに能力も変える事が出来るのだろうか。
意思でもちゃんと動かせる愛らしい耳は、そればかりではなく感度もいいらしい。
この場合、音を拾う力以外の意味が含まれるのは置いておくとしても。
「ビビッてた割に、乗り気みてぇだな。」
「む、無理やりそうさせ……ああん!」
ふくらみの頂の果実を弄ばれて、加流羅は甲高い声を上げた。
反論の言葉さえまともに言い終われない。
「あれだけ好き放題ひとの耳で遊んだんだから、これくらい安いもんだろ?」
「ひぃ〜ん……。」
情けない声を漏らす彼女の様子は、捕まえられてキューキュー鳴く小動物と大差ない。
か弱い小動物は、獰猛な肉食獣には太刀打ちできないといったところだろうか。
服で隠れるか隠れないかというギリギリの位置に、赤い花が咲く。
傍から見れば、かじりついているように見えなくもない。
さっきまで加流羅が遊んでいた黒い耳が視界に入るが、今は触ろうと思ったとしてもそんな余裕はなかった。
「まるっきり、リスとかうさぎみてぇだな?」
「そういう……ひゃうっ、あなたは、肉食よ〜……!」
耳を遊ばれているだけで、普段よりも加流羅は感じてしまう。
別に本当に食べられているわけではないが、現状はさながら肉食獣が獲物に喰らいつく光景だ。
「ふーん、言ってくれるじゃねぇか。」
守鶴は意地悪に笑って、加流羅の秘所に手を忍ばせて花芽に触れる。
少し指で刺激してやるだけで、彼女の体がびくっと震えた。
「やっ……!あっ、んあ!」
この期に及んでも延々耳を弄ばれるのは、先程加流羅に遊ばれた仕返しなのか。
敏感な場所を2ヶ所同時に攻め立てられ、加流羅は強い快楽から逃げるかのように身をよじる。
だが、守鶴がそれを許すはずもない。
「逃げられるわけねーだろ?」
低く耳元で囁き、触れるか触れないかといった微妙な指使いで耳の毛皮をなぞる。
「ひっ……!ちょっとぉ……!あっ、やぁぁ!」
花芽を刺激していた指が、すでに蜜で濡れていた蜜壷に入り込む。
襲ってくるものに耐えようと伸ばした手が、守鶴の肩を掴んだ。
「へー……もう慣らす必要もねえぐらいじゃねーか。」
にやりと笑って、蜜がまとわりついた指をぺろりとなめる。
「〜〜〜っ!」
好き放題にされるのが悔しくて、加流羅は機嫌良さそうに揺れる黒い耳に手を伸ばそうとした。
が、隙がない守鶴はその手をあっさり捕まえてしまう。
「人の耳をいじろうって言う余裕は残ってるみてぇだな?」
少々仕置きとでも言うつもりか、中をかき回す指がより敏感な場所を攻める。
すっかり体が熱くなっている彼女に、これはたまったものではない。
「っ!ふぁぁっ!!ひぅ……ああ!」
背を反らして、加流羅は高みに上り詰めてしまう。
なかなか非常識な状態だというのに、体の反応は意外と状況に左右されなかった。
額に汗が浮き、前髪が張り付く。だが、余韻を感じるほどの暇はない。
「さーてと。」
「ふえ?」
とろんと溶けた目が守鶴を見上げる。
彼の意図をつかめずに首をかしげていると、急に体を反転させられた。
「ひゃっ!」
うつぶせの姿勢にされ、驚いて声を上げる。だが元の姿勢に戻ろうと思ったのも束の間。
覆いかぶさっている守鶴が、背後から加流羅を貫いた。
「ああーっ!」
熱い熱の塊に支配され、彼女は絶叫に近い声であえぐ。
まるで本物の動物のような形で繋がる羽目になり、羞恥で頬が赤くなる。
「やっ……こんなかっこ……!」
「その割に、気持ち良さそうに見えっけどな?」
後ろから耳元に届く声。位置の都合で黒い耳が頭にぶつかる感触がするが、それどころではない。
「ひゃうっ……・あふっ、ああん!」
柔らかなふくらみも揉みしだかれ、上がる嬌声は高くなる一方だ。
砂糖よりも甘いというか、理性を溶かしきる毒とでも言うべきか。
何にせよ、乱しきってしまおうと守鶴にあっさり決断させる力があった。
痺れるような感覚にとろけきった孔雀石の目は、眼前の物を見ているようでとらえていない。
芯から溶けてしまいそうなほどの感覚に、全身を支配されているのだから。
「うぁ……ひゃぁっ!ああああーーーっ!!!」
シーツを破かんばかりに握り締め、のけぞって高みに達する。程なく、守鶴の欲望が白い背を汚した。
もっとも、肌に汗を浮かべて荒い呼吸であえぐ加流羅に、そんな事を気にする余裕は微塵もなかったが。

「……どーだ?耳で遊ばれた気分は。」
仕返しが一通り済んで機嫌がいいのが、声だけでも何となく分かる。
「……耳以外のところも、散々遊ばれたぁ〜……。」
体を起こすことさえ億劫なのか、加流羅は顔だけ守鶴の方に向けて恨めしげに呟く。
「そりゃーな。基本は倍返しだしよ。」
「倍以上よ〜……!」
のっそりと上半身を起こして、加流羅は乱れた髪をプルプルと頭を振って払った。
「あー、そうだったか?ま、これに懲りたら……。」
「でも、耳は触りたいわ。」
忠告をさえぎって、いやに真剣な目できっぱり宣言した。いっそ清々しいまでの響きは気のせいか。
「あ?」
珍しく不意を突かれて、守鶴のあごがガクッと落ちる。
しかしそんなことにはお構い無しに、加流羅は珍しくおねだりに走った。
「今度から少しで我慢するから〜……だめ?」
「あのなぁ……懲りろよ。」
無意識に上目遣いでそう聞いてくる彼女に、守鶴は本能をくすぐられる以前にあきれ返っていた。
結構好きにいじったはずなのだが、それでも懲りないとは見上げた根性とほめるべきなのだろうか。
「だって、ふさふさで気持ちよかったんですもの〜〜!!」
明らかに耳だけを指して食い下がる。
これには彼も呆れたが、今回は全然引き下がる気配がなさそうだ。
「わかったわかった……今度っから少しだけって約束するんならな。」
「ほんとに?!」
「おう……。」
何がそんなに嬉しいんだよとチラッと思ったが、加流羅はどうも病み付きになってしまったらしい。
それだけが直感で分かってしまっただけに、守鶴は目一杯引きつっていた。耳はもちろん垂れている。
対照的に、加流羅の耳はピンと立ってとてもご機嫌な様子だが。
「やった……!ありがとう♪」
ぱあっと顔を輝かせて、加流羅は何も着ないまま守鶴に抱きついた。
つくづく加流羅に甘い自分に呆れつつ、守鶴はやれやれと肩をすくめた。


―END― ―戻る―

獣耳ネタです。触りすぎて怒られてますが(笑
でも結局懲りない加流羅。珍しく守鶴が根負けしてます。惚れた弱みということで。
色々と動物っぽさ満載でお届けしてみました。遊んだとも言いますね。普通はそういいます。

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